失敗例E 「アパート建築で相続税節税…のはずが」

「相続税対策」として自分の土地にアパートやマンションを建築される方もいらっしゃいます。

 

相続税対策としては伝統的とも言える有名な手法ですので、ご存知の方、あるいは既にご検討されている方も多いかもしれません。

 

ところが、この相続税対策のためのアパートやマンション建築は、やり方によって思わぬ結果を招くことがあります。

 

特に、建築業者の「相続税対策になります!」という甘い言葉によく考えずに乗ってしまうと、子供たちに「負の遺産」を残すことにもなりかねません。彼らは結局のところ、自分たちが儲けたいためにアパートやマンションを建築プランを提案してくるだけだからです。


なぜアパート建築は相続税対策になるのか

そもそも、なぜアパートやマンションを建てると「相続税対策」になるのでしょう。

 

簡単に言えば、そうすることによって「何も建っていない状態や自宅が建っているだけの状態よりも土地の相続税評価額が下がる」からです。

 

更地や自宅が建っている土地を「自用地」と呼びます。字の通り「自ら用いる土地」という意味です。

 

それに対し、アパートなどの他人に貸すための建物が建っている土地を「貸家建付地」と言います。自分の土地に自分名義のアパートがあるケースを考えると、イメージがつかみやすいと思います。

 

なぜ、「貸家建付地」の方が「自用地」よりも総増税評価額が下がるのでしょうか?

 

実際に土地を売る時のことを考えれば分かりやすいでしょう。土地を買う側から考えれば、土地の自由度が高い方が金銭的な価値が高いはずです。

 

「自用地」であれば新しい建物を建てるのも自由ですが、「貸家建付地」ではそうもいきません。

 

住んでいる人に立ち退いていてもらうために相当な時間と労力が必要となります。立ち退き料として費用負担が発生することもあるかもしれません。その費用相当額が売値から差し引かれることも珍しくないでしょう。

 

そういった点を踏まえると「貸家建付地」の方が「自用地」よりも土地としての価格が低くなるので、相続税評価額も低くなるという理屈です。


「借金で相続税が減る」は都市伝説!?

また、アパートやマンションを建てる時に「借金をすることで相続税が下がる」と考える人もいますが、これは残念ながら間違いです。この誤解はあまりに広く流布していますので、もはや一種の“都市伝説”と言ってもいいかもしれません(笑)。

 

確かに相続税の対象となる資産を評価する場合は、負債は他の資産からマイナスされます。その意味では、借金をすれば相続税が下がるという考え方は間違いではありません。

 

ただし、これは「その他の資産が増えなければ」のお話。借金だけに焦点を当ててしまうと大きな勘違いをしてしまいます。

 

例えば、1億円の借金をしたとします。借りてきた1億円をそのまま銀行の口座に預けておいたらどうなるでしょう。

 

総資産の計算上、借り入れた1億円は確かに「マイナス」となります。しかし、預金残高には借りてきた1億円がそのまま増えていますので、こちらは「プラス」となります。

 

つまり「増えた預金1億円−借金1億円」でプラスマイナスはゼロ。借金しただけでは、評価額は全く変わりません

 

借りてきたお金でアパートやマンションを建てる場合も、その借金で不動産という「資産」を買っているわけですから総資産の合計は増えています。

 

もちろん現金と不動産で相続評価額の方法は違いますが、借金をした分がそのままマイナスになるわけではないことはお分かりいただけるでしょう。

 

未だにそうした営業トークで地主さんにアパートを建てさせようとする営業マンもいるようですので、注意が必要です。


その計画に「事業性」はあるのか

では、「貸家建付地」とすることで土地の相続評価額を下げるからと言って、そのためにアパートやマンションを建築する必要が本当にあるのでしょうか。

 

自ら賃貸経営を行う大家であり、「“お金の相談”の専門家」でもあるファイナンシャルプランナー(FP)として、私は「相続税対策だけを考えるのであればアパート建築はやめた方が良い」と考えています。

 

その理由は簡単です。アパート建築に於いて真の意味で大事なのは、「その賃貸経営が事業として成り立つかどうか」に他ならないからです。

 

もしそのアパートが事業として成り立っていないのであれば、少しばかりの相続税節税になったとしても、良かったのは相続が発生したその瞬間に過ぎません。後々ずっと赤字経営が続くようであれば、節税した分はあっという間にマイナスになってしまう危険性があるのです。


相続で「本当に大事なこと」とは?

実際、賃貸経営が事業として成り立たず、結局相続した土地を手放さなくてはならなくなったという例は枚挙に暇ありません。

 

それどころか、土地を売却してもアパートローンの残債を返済できず、借金だけが残されてしまったというケースも見受けられます。

 

良かれと思ってやったことが結果として子孫に「負の遺産」を残してしまうわけですから、実に皮肉なお話です。

 

さらに、「相続対策としてのアパート建築」の弊害になりやすいのは、分割の難しさを招いてしまう点です。

 

アパートやマンションは一度建てたらそう簡単には元に戻せません。他に資産があれば良いですが、相続する財産がアパートしかないとなると遺族による分割協議が難航する危険性が高まります。

 

苦肉の策として土地とアパートを共有名義にするという話もよく聞きますが、これは分割問題を次世代に先送りしているだけ(正確には“よりややこしくして”)ですから、とてもお勧めるものではありません。

 

相続税の圧縮はもちろん大切なことですが、相続にはもっと大事なことがあるはずです。


建築業者の言葉を鵜呑みにすると…

都市部にまとまった土地を持っている方のところへは、毎週のようにいろんな建築業者が営業にやってきます。彼らが「相続税対策」を謳い文句にアパートやマンション建設を勧めるというのもよく聞く話です。

 

一口に建設業者と言ってもアプローチ方法は各社違うと思いますが、一つハッキリしているのは「地主と建築業者で目的が違う」ということ。

 

建築業者の目的はあくまでもアパートやマンションを建てさせること。それ自体が悪いことではありませんが、あまり建築業者の言うことを鵜呑みにしてしまうと、地主が望んでいた相続と違う形になってしまうことも十分にあり得ます。

 

「相続」も「賃貸経営」も短期的に考えるのではなく、全体像を見ながら包括的に考えることが重要です。