「自宅しか資産がない相続」のトラブルが急増中!

2015年1月の相続税増税により、相続税の対象となる家庭が大幅に増えたことは日本中で大きな話題になりました。

 

一説には、増税前は「20人に1人」だった対象者が一気に「7人に1人」まで増えたと言われていますから、以前は一般の人にとって他人事だった相続税もだいぶ身近なものになってきたと言えるでしょう。

 

その増税で新しく相続税の対象になったケースで多いのが、現預金はそれほど持っていなくても都市部で少し大きめの自宅を持っている人です。

 

そして、このことが相続における新たな問題点を生み出し、今、日本各地で相続ならぬ「争族」を生み出しています

 

そこで今回は、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、「主な相続財産が自宅のみ」というケースに起こりうるトラブルとその解決策を解説します。


相続は分割対策が大事。でも…

このコラムでも度々触れていますが、相続対策において最も重要なのが「分割対策」です。

 

相続対策と聞くとすぐに「節税対策」を思い浮かべる方が多いのですが、いくら相続税を節税できたとしても遺された資産を巡って相続人が骨肉の争いを繰り広げるようでは意味がありません。

 

そう考えれば、円滑な遺産分割が行われるように考えることは被相続人(=資産を遺す人)の義務であると言えるはずです。

 

しかしながら、一口に「資産」と言っても簡単に分割できるものばかりとは限りません。相続財産が全て現預金であれば分割も苦労しないのですが、そんなケースは日本全国を探しても極めて稀でしょう。

 

一番取り扱いに困るのが、「簡単に分割できない資産しかない」というパターンです。そう、自宅以外の資産がないのに相続人が複数いるなどというケースは、その最たる例と言えます。

 

例えば、相続人として息子が2人いたとして、長男に自宅を、次男にそれに相当する別の資産を遺せれば、兄弟間で大きなトラブルにはならないでしょう。

 

問題は、自宅以外に主だった資産がない場合に、2人の息子にどう分割して遺すかという場合です。


不動産の共有名義は問題の先送り

最も消極的な方法は、自宅を息子2人の「共有名義」にすることです。

 

物理的に自宅を半分にすることができないので、せめて権利だけでも半分にするという苦肉の策ですが、これはファイナンシャルプランナー(FP)として正直オススメできません。

 

不動産は一度共有名義にしてしまうと取り扱いが難しく、未来の選択肢を大幅に縮めてしまう可能性が高いからです。共有名義の場合は、建物を立て直すにも土地を売却するにも所有者全員の承諾が必要となる点には十分に注意を払うべきでしょう。

 

共有名義にしたのが兄弟2人であればともかく、その兄弟から代替わりして、その子供、さらには孫の代までいくと、登場人物が増えてきて事態は悪化の一途を辿ります。なんにするにせよ所有者全員の承諾が必要となるわけですから、関係の薄い親類間では結局話し合いがまとまらず、手付かずのまま時間だけが過ぎてしまうことも珍しくありません。

 

端的に言えば、不動産の共有名義とは「相続問題の先送り」に過ぎないのです。


生命保険を使う方法には落とし穴が!

次に考えられるのが、生命保険を活用する方法です。

 

自宅以外にまとまった資産がない場合は、相続の発生により“別の資産”を作り出す必要があります。つまり、被相続人の死亡保険金をその“別の資産”として上手く利用するのです。

 

息子二人の例で言えば、長男に「自宅」を、次男に「自宅価値に見合う死亡保険金」を遺すことができれば、兄弟の間で不公平感が生まれにくくなります。自宅を共有名義にする必要もありませんから、長男は後で自分の好きなように自宅を活かすことができます。

 

このままいくと「めでたしめでたし」という感じですが、実はこの方法には大きな落とし穴が一つあります。

 

それは、「死亡保険金の受取人」です。ここを間違えてしまうと、せっかくの分割対策が逆効果にもなりかねません。

 

先ほどの例では、長男に「自宅」を、次男に「死亡保険金」を遺すわけですから、死亡保険金の受取人として次男を指定しておくのが当然と考えてしまいがちです。この方法なら、相続が発生すれば自ずと保険金が次男の手元に渡るわけですから、余計な手間もかかりません。

 

しかし、これが後々のトラブルの引き金となる“重大な間違い”なのです。


死亡保険金は受取人固有の財産

あまり知られていないことですが、死亡保険金は民法上「受取人固有の財産」となります。

 

被相続人の死亡により発生したお金ですから被相続人の財産のような気もしますし、税法上は誰が保険料を負担していたかによって扱いが変わってくるのですが、法定相続分を定める民法上は死亡保険金は「受け取った人の資産」とカウントされるのです。ここがポイントです。

 

つまり、次男が相続の発生により死亡保険金を受け取ったとしても、元々次男が受取人として指名されていた場合、民法上は次男は1円も相続しておらず、自宅を相続した長男が遺産の100%を受け取ったという形になってしまうのです。

 

そうなると大変です。次男がこの相続に不満があった場合、長男に対して遺留分を請求できることになりますが、一方の長男としても次男が死亡保険金を受け取ったことは分かっていますから、更なる要求を受け入れるのは感情的にも難しいでしょう。遺留分の話が簡単にまとまるはずもなく、相続が「争族」に発展する可能性が高くなってしまいます。

 

元々は被相続人が円満な分割を願って自分にかけた死亡保険金。受取人を誤ったことで完全に裏目に出てしまうという悲しい結末は避けたいものです。


正しい「代償分割」とは?

この場合の正解は、「被相続人の死亡保険金の受取人を“長男”にすること」です。

 

長男が自宅相続した場合、そのままでは長男が全財産を相続したことになります。それでは次男としても収まらないでしょうから、今度は兄弟で平等な相続にするために「自宅の半分に相当する資産」を長男から次男に渡さなければなりません。

 

こうした形を「代償分割」と呼びます。「分割しにくい資産を一人が受け取って、他の相続人にはその分を補填する」という考え方です。

 

仮に自宅の評価額が3,000万円だとすれば、その半分の1,500万円を長男が次男に渡せば、この場合の「代償分割」が成立します。長男は自宅の3,000万円から次男に渡した1,500万円を引いた「1,500万円」、次男は長男から受け取った「1,500万円」がそれぞれ手元に残るわけですから、公平な相続が行われたと考えることができるのです。

 

もちろん、次男に渡す1,500万円を長男の貯金から出しても良いわけですが、一般的な家庭の場合、それでは長男の負担が大きすぎます。そこで代償分割の原資金として、被相続人の死亡保険金を利用するのです。

 

一見すると長男が自宅も引き継いだ上に死亡保険金も受け取るので、次男の目には随分不公平に映るかもしれません。

 

しかし、先ほどもご説明した通り、長男の受け取った死亡保険金はあくまでも受取人である長男個人の財産。民法上は相続財産に含まれません。

 

その結果、長男が自宅を受け取り、その代わりに死亡保険金という長男の個人資産の中から補填分を次男に渡すという形の「代償分割」が成り立つのです。

 

これが相続人に過度な負担をかけない「正しい代償分割の方法」です。


揉めるのはうまく分けられないから!

「自宅しか資産のない相続」で相続税の支払い義務が発生することで、今後ますます相続に関するトラブルは増えていくでしょう。

 

事実、相続で揉めて家庭裁判所に持ち込まれる件数は年々増えており、しかもその3/4近くが「相続財産が5,000万円以下」の案件という統計が出ています(平成26年度司法統計より)

 

5,000万以下の中には「自宅しか資産のない相続」が多く含まれており、このことからも「遺産が多いから揉める」のではなく、「遺産が分けにくいから揉める」ということが見えてきます。

 

円滑な相続のためには、被相続人が主体となって事前に相続人それぞれの意志を確認し、後にトラブルにならないような分割対策を行うことが不可欠です。

 

日本の社会では相続が発生する前に相続問題に向き合うことをまだまだタブー視する傾向はありますが、後の「争族」を避けるために資産を残す側の人が今できることはたくさんあります

 

今回ご紹介した正しい「代償分割」もその一つです。その意味と適切なやり方を理解して、家族全員が納得できる相続を準備しましょう。


(2017/12/13 文責:佐野純一)

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