税金は本当に“悪”なのか?

「できることなら税金を払いたくない」

 

日本中の誰もがこう思っているに違いありません。

 

特に一定以上の収入や資産がある人にとって“節税”は最大の関心事のはず。そうした人たちからは「いくら稼いでも税金で持ってかれてしまう…」という声はよく耳にします。

 

私としても払わなくて良い税金なら払いたくありませんが、その一方で、「あまりに節税ばかりに気を取られると肝心の資産形成に支障をきたす」ということを知らない人があまりに多いのは、コンサルタントとして心配しているところです。

 

そこで今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)と一緒に改めて“税金を払うことの意味”を考えてみましょう。これを読めば、“節税”しか考えていない人の限界がわかるかもしれません。


実際にあった「節税」の弊害

資産形成において税金がどんな意味を持つのか。一つの事例をお話しします。

 

これは法人の例ですが、このお話の中には個人の資産形成にも共通する“ある教訓”が示されています

 

その相談者は、ご高齢のご夫婦でした。賃貸経営を目的とした法人を所有されており、その法人には既に50年近い歴史があります。

 

これまで収益物件の組み替えも何度か行っていますが、どうも経営が安定せず、近い将来に起こるであろう相続にも不安を感じていたため、私のところにご相談にいらしたのです。

 

法人の経営状態を知るには、なにはともあれ決算書を確認するのが一番です。

 

早速その会社の決算書を拝見した私は、ある事実に驚かされることになります。

 

「利益剰余金が50万円にも達していない…。」


儲からない会社に存在意義があるのか?

「利益剰余金」とはあまり耳馴染みのない言葉かもしれませんが、法人が内部留保している利益を指すものです。

 

簡単に言ってしまえば、「創業以来会社がどれだけ儲けてきたかを示す数字」であり、そこに企業としての成長が記されていると言っても良いでしょう。

 

ということは、つまりこの会社は「50年の歴史の中で儲けた総額が50万円にも満たない」ということになります。単純計算をすれば、この会社が一年に1万円も成長していない企業であることを決算書は雄弁に語っているのです。

 

世の中に様々な形の会社があるとはいえ、企業とは原則として営利団体のはず。このような決算書を目にすれば、自然とこんな疑問も湧いてきます。

 

「一年に1万円しか成長しない会社を存続させる意味なんてあるのか?」

 

なぜこの賃貸経営を行う法人が、こんなにも儲からない会社になってしまったのでしょう。

 

それは、「経営者が節税だけしか考えてこなかったから」に他なりません。


「減価償却」の仕組みをおさらい

ここで、不動産投資における節税の仕組みをおさらいしておきましょう。

 

マンションやアパートなどの固定資産を購入した時、その全額が一度に必要経費として計上できるわけではありません。建物とは当然長い年月にわたって使用していくものですから、“それ相応の期間”にわたって毎年少しずつ経費計上していく形をとります。

 

“それ相応の期間”は建物の種類によって税法上定められており、これを「耐用年数」と呼びます。

 

例えば、住居用の新築木造アパートであれば耐用年数は22年ですから、仮に2200万円が建物価格だった場合、毎年100万円を22年間に渡って経費計上していく計算になるわけです。

 

これが「減価償却」と呼ばれる仕組みです。

 

この「減価償却費」は、2年目以降は言わば「実際には出て行かない経費」となります。手元の現金が減らないにも関わらず利益を圧縮できるわけですから、その分が節税効果につながるという理屈です。

 

これだけ聞くといいことづくめのように思える減価償却の仕組みですが、もちろん欠点もあります。

 

それは「必ず有効期限がある」ということです。先程の木造アパートの例であれば、22年経った時点で計上できる減価償却費がなくなってしまいますから、そこから先は税負担がぐっと増えることになります。


「税金を払わないこと」の本当の意味とは…

それを防ぐための手っ取り早い方法は「新たな減価償却費を生み出す」ことになるでしょう。

 

つまり、新たな物件を買い足していく、あるいは所有している物件を売却して新たな物件を購入する、いわゆる「組み替え」を行うことで、新しい減価償却費を帳簿上に生み出す手法です。

 

今回事例に挙げた法人のケースでもこうした物件の組み替えを何回か行なっていましたが、これは事業の拡大や収益の向上が目的というよりも、ただ単に新たな減価償却費を生み出すことに主眼が置かれた行為のように思えました。

 

確かにそれにより減価償却費を絶え間なく計上し続けることに成功してはいますが、収益そのものが改善がされているわけではありませんので、物件の組み替え時にかかる仲介手数料等の費用が全体の経営を大きく圧迫している点は否定できません。

 

その結果、「利益剰余金」はまったく増えることなく、ただ借り入れの額だけが膨らんでいくという状況になっているのです。

 

会社としての経営理念が「税金を払わないこと」であるならば、それは達成できているのかもしれません。

 

それはそうです。この会社は全く儲かっていないのですから

 

儲かっていない以上、税務署はその会社から税金を取ることはできません。その代わり、会社は成長することもなく、経営が安定度を増すこともないのです。


自己資本率を上げることの重要性

この法人も借り入れが4億円ほどありましたから、資本金と50万円の利益剰余金の上にその何十倍もの負債が乗っかっているという状態です。

 

例えて言えばこれは、基礎工事をしない土台の上に高層マンションを建てるようなものでしょうか。あるいは、100kg以上の体重があるのにほとんど筋肉がない人のようなものでしょうか。

 

いずれにしても、法人としてはかなり危険な状態です。このまま相続が発生したとしても、受け取る側にとっては時限爆弾のような「負の遺産」になる可能性がかなり高いでしょう。

 

「利益剰余金を増やす」ということは、そのまま「自己資本が増える」ことを意味しています

 

借入部分の割合が減って自己資本率が上がれば、法人としての土台がしっかりとして経営に安定感が出てきます。脂肪だらけでただ大きいだけのブヨブヨの体ではなく、よりマッシブな体質になっていくと言っても良いでしょう。

 

法人が利益剰余金を積み重ねていくということには、そのような重要な意味があるのです。


利益剰余金を増やす唯一の方法とは?

では、利益剰余金を増やすにはどうすれば良いか?

 

その唯一の方法は「税金を払うこと」に他なりません。利益剰余金とは「法人の利益から税金を引いたもの」だからです。

 

逆の言い方をすれば、税金を払いたくなければ法人の利益を出さなければ良いわけですが、そんな「儲からない会社」を経営することに何の意味があるのでしょうか。

 

個人の資産についても、まったく同じことが言えます。

 

資産運用にはさまざまな形がありますが、手元に残る資産とはあくまでも「利益-税金」ですから、自分の資産を増やしていきたいのであれば「税金を払う」しか道はありません

 

特に不動産投資でキャッシュフローを重要視する場合には、自己資本率をいかに高めるかが成否の分かれ目になります。

 

いくらレバレッジを利かせて全体の規模を大きくしても、その分だけ借入額が増えるのであればキャッシュフローは改善せず、むしろ事業全体の安定感を損なうだけでしょう。

 

その意味では、個人の不動産投資において「資産形成」と「節税」を同時に目標に掲げることは、大きな矛盾を孕んでいると言っても良いのかもしれません。


「税金」を避けているだけでは目標を達成できない!

全ての人にとって、確かに税金は“善”ではないかもしれません。しかし、だからと言って「税金=“悪”」と決めつけるのは短絡的過ぎます。

 

言ってみれば、税負担とは資産形成を行う上で「乗り越えなければならない壁」であり、このことを理解しなければ投資や事業において資産を増やすことは難しいように思えます。

 

税金を目の敵にして「節税」だけに固執しても良い結果を得ることはできません。

 

真の意味で大事になるのは「節税」ではなく、資産形成や事業安定を達成するための「正しい税金の払い方」なのです。

 

(2021/05/19 文責:佐野純一)


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