多くの人にとって「住宅購入」とは人生の一大イベントです。
マンションであれ一戸建てであれ、不動産とは「この世に同じものが二つない」という極めて特殊な商品。数ある物件の中から「自分にあったオンリーワン」を見つけるのは、時間的にも労力的にも、そして精神的にもかなりコストのかかる作業です。
もちろん住宅に費やす予算もしっかり考えていかなくてはなりません。「住宅資金」は「教育資金」「老後資金」と並ぶ人生の三大資金の一つ。その予算組みはライフプランに大きな影響を与えます。
お金のことだけを考えても住宅購入に関する悩みは様々なものがありますが、ファイナンシャルプランナー(FP)としてご相談を受けるときによく出てくるのが、「今買ったほうがいいか」それとも「お金を貯めてから買ったほうがいいか」という質問です。中には「不動産業者は早く買ったほうがいいって言うけど、ホントですか?」という疑問の声もあります。
そこで今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」であるFPが、モノを売らないコンサルタントとしての立場から、あなたにとっての「住宅購入のベストタイミング」を解説します。
まずは、「今買った方がいい派」と「貯金してから買った方がいい派」、それぞれの意見に耳を傾けてみましょう。
なるほどなるほど。両者の言い分は実にごもっとも。どちらの意見も正しく、単純に両者の間に優劣をつけるのは難しそうです。
それでも敢えて両者を比較するのであれば、どちらが“得”でどちらが“損”かということになるかもしれません。それを決めるためのポイントは、「ローンの金利」にあります。
実際にシミュレーションをしてみましょう。
比較しやすくするために、どちらの場合も以下の条件で計算してみたいと思います。
最初は、「今買った場合」です。
「今買った方がいい派」の主張の通り、現在は超低金利の時代。35年固定金利の代名詞であるフラット35でも、2018年12月現在の金利は1.85%(全額ローン・団信付)となっています。
その条件で5,000万円を借りるとすれば、毎月の返済額は「16.2万円」。35年間の総返済額は「6,900万円」となります。
一方の「貯めたから買った場合」はどうでしょう。
同じフラット35でも、自己資金が一割を超えればより低い金利である1.41%(2018年12月現在)が適用されます。
例えばこれから5年間で頭金500万円を貯めたとして4,500万円のローンを組んだとすれば、毎月の返済額は「13.6万円」。諸経費を除けば、総返済額の5,800万円に頭金500万円を足した「6,300万円」が、住宅購入のために必要な金額という計算になります。
これだけ比べると、5年で500万円の頭金を用意したほうが総額として600万円程度の金額を抑えられることになります。
さらに頑張って5年で1,000万円貯めたとしたら、同じ条件のローンで毎月の返済額が「12.1万円」になります。返済総額5,150万円に頭金1,000万円を合わせた総額が「6,150万円」となり、さらに「今買った場合」との差が広がります。
こうして考えれば、「貯めてから買う派」に軍配があがりそうですが、このシミュレーションには一つ大きな欠点があります。
そう、それは「5年後も今と同じ金利水準かどうか誰にもわからない」ということです。
もし、5年で500万円を貯めたとしても、その時の金利が現在より0.6%上がって2%だとしたら、ローン返済額と自己資金の合計は「6,850万円」。1,000万貯めた場合でも、金利が2.2%まで上がってしまったら、総額は「6,900万円」となってしまいます。
結果的に、今の金利で全額ローン組んだケースと同じような総額になってしまいます。これでは、せっかく頑張って5年間も貯金した意味がありません。
繰り返しになりますが、将来の金利のことは誰にも分かりません。予想することはできますが、はっきりと言い当てられる人はこの世に存在しないのです。
過去のデータを見てみると、今回のシミュレーションで使ったフラット35の金利はこの5年間で0.7%程度下がっています。
実際に5年で0.7%下がるのであれば、逆に考えれば5年で0.7%上がる可能性も否定できないはずです。金利が上がらないように祈りながら貯金に励むのは、精神衛生的にもなかなか厳しいものがあるでしょう。
この点は「貯めてから買う派」にとって大きなデメリットとなるでしょう。
もう一つ、「貯めてから買う派」にとって気になるのが、頭金を貯めている間に発生する家賃です。
貯金している間にも住居は必要になりますから、購入を先送りするのであればその間の家賃もライフプランの計算に入れておかなければなりません。
仮に毎月10万円の家賃だとすると5年間で600万円。それだけの家賃を払いながら頭金を貯めるのは簡単なことではないでしょうし、「今買った方がいい派」から言わせれば、その家賃は無駄金ということになるのかもしれません。人生における住宅費というものの総額が決まっているのであれば、その主張にも一理あります。
ただ、賃貸に住んでいる間は固定資産税を払う必要はありませんし、マンションに付き物の管理修繕費を負担することもありません。住宅設備に不具合が生じても大家負担で修理してくれますから、「家賃=無駄金」と断言するのは少々乱暴のように思えます。
さらに、同じ築年数の物件を購入すると仮定した場合、頭金を貯めてから買ったほうがより長くその住宅に住める可能性が高まります。将来の修繕費が少なく済むことも考えられるでしょう。
これは「賃貸or購入」という、また別の“永遠のテーマ”に関する問題にもなってくるのですが、いずれにせよ、「貯めてから買う派」にとっては“貯金している間の家賃”に留意した方がいいのは間違いありません。
金利の話に戻れば、結局のところ、未来のことは誰にもわからないものです。
そう考えれば、少し端的な表現になりますが、「誰にもわからないことを気にしすぎても仕方がない」と言えるかもしれません。
これは住宅の価格についても同様で、確かにここ数年不動産価格は大きく上がっていますが、今後いつ値下がり傾向に転じるかが誰にも明言できない以上、ただ闇雲に5年10年値が下がるのを待ち続けるのが本当に良いのかどうかは判断が難しいところです。もし、将来的に相場が下がるのであれば、「貯めてから買う派」が払ってきた家賃が帳消しになる可能性だってあるのです。
「“お金の相談”の専門家」であるFPとしては、こうした不確かな損得勘定で住宅を購入するタイミングを図るのはあまりオススメできません。
もちろん住宅は金額が大きい分、予算をしっかり考えることはとても大事です。
しかしながら一方で、住宅購入で考えるべきことは予算のことだけではありません。住宅とは生活の基盤となる重要な要素。ライフプランに与える影響も非常に大きなものがあります。
その意味で、家を購入するタイミングはその人のライフプランと照らし合わせて考えるべきです。
子供の学校のことが基準となる家庭もあるでしょう。転勤が予想される会社員であれば、慌てて購入することもないかもしれません。あるいは、ライフプランを考慮した結果、「住宅を買わない」という選択肢だってあるはずです。
身も蓋もない言い方ですが、不動産の価格相場や金利の推移は、資産運用と同じく、ある程度“結果論”というところもあります。
「今買ったほうがいいか」「お金を貯めてから買ったほうがいいか」の議論もその一部。あまり“仮定の損得”の話に気をとられすぎず、自分の人生にとって一番良い住宅購入のタイミングを包括的に考えることが重要です。