家は「買う」ものか、それとも「借りる」ものなのか。
自宅にまつわる「購入or賃貸」という議論は、住宅についての“永遠のテーマ”かもしれません。
これは「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)にとっても、非常に関わりの大きい問題です。教育・老後と並んで「人生の三大資金」と呼ばれる住宅にかかるお金は、その人のライフプランに大きく影響してくるからです。
ご相談を受けていると、具体的に住宅購入を検討されている方でも「実は賃貸のままでもいいのでは?」と思っているケースも少なくありません。この問題は、それほど判断が難しく明確な答えは出にくいものなのでしょう。
それでは、住宅の「購入」と「賃貸」。本当に良いのはどちらなのでしょうか。
物件を売る不動産業者ではないFPが、コンサルタントの立場からその疑問にズバリお答えします。
「購入」と「賃貸」を比べるにあたり、まずはそれぞれにどんなメリットがあるかをまとめてみましょう。
まずは「購入」のメリットです。
住宅購入派に多いのが「家賃は無駄金」という主張です。
自分の家を購入して住宅ローンさえ払い終わってしまえば、その家は自分のもの。それに対し家賃はいくら長い期間払ったとしても、家が自分の資産になることはありません。
将来的には売却や子供への相続などの選択肢も出てくるので、「ローンを背負ってでも住宅を購入した方が良い」という考え方です。
賃貸住宅はいずれ大家に返さなくていけないものですから、住む方もなかなか気を使うもの。気軽に模様替えもできませんし、なにか不便な部分があっても勝手にリフォームはできません。
購入した自分の家であれば、自分の好きなように改装して住むことができます。
その気になれば間取りそのものを変えるような大改造も行えますが、賃貸住宅ではそうもいきません。
長く続く日本の「超低金利時代」。その象徴とも言えるのが住宅ローンの金利です。
現在の低金利であれば、同じような条件の住宅でもローンの組み方次第で家賃よりも安いローン返済額で住むことが可能です。
あなたも「今の家賃と比べてください!」という不動産業者の広告を目にしたことがあるのではないでしょうか。
一方の「賃貸」にはどんなメリットがあるのでしょうか。
長い人生の間には何が起こるか分からないもの。
会社員であれば転勤があるかもしれません。家族が増えて今の家が手狭になるかもしれません。あるいは周りの住環境が悪い方向に大きく変わったりすることもあるでしょう。
そんな時、賃貸住宅であれば住み替えは簡単です。いつでも自分たちが住みたい新たな家に引っ越すことができます。
もちろん家を購入した場合でも住替えは可能ですが、特に住宅ローンが残っている場合は時間も費用もかかってしまうケースがほとんどで、手軽に引っ越すというわけにはいきません。
家も長く住んでいるとあちこち傷んできます。
中でも「住設備」と言われるものは傷みが激しく、例えばエアコンや給湯器などは10年程度のサイクルでの交換が必要になってきます。
賃貸住宅の場合、こうした住設備の維持は貸している大家の責任です。設備を修理したり交換したりしても、住んでいる人の負担は一切ありません。
また、マンションに付き物の「管理修繕費」も大家の負担。賃貸に住んでいる限り、修繕費の自己負担は発生しないのです。
30年以上にわたる住宅ローンを組むのには、やはりそれなりの覚悟が必要です。
払える払えないは別にして、ローンを背負うことに対する心理的な負担が大きい人も少なくないでしょう。低金利の今は良くても、将来金利が上昇して住宅ローンが家計の負担になるかもしれません。
さらに、住宅を購入すればそれは自分の財産になりますが、その一方で万が一災害等で家を失った場合でも住宅ローンが残る可能性があります。少々逆説的な言い方ですが、そもそも自分の資産を持たなければ、資産を失う可能性はゼロなのです。
さて、「購入」と「賃貸」のそれぞれのメリットをまとめてみました。
もしかしたら、「購入」のメリットは新築マンションのモデルルームで同じ内容を聞いたことがあるかもしれません。「賃貸」のメリットであれば、賃貸仲介会社の営業マンからよく似たようなことを口にします。
彼らとしては自分の扱う商品を守らなければなりませんから、それぞれが自己防衛に走るのはある意味当然です。しかしながら、それを差し引いてもどちらの主張にも一理あるように思えます。
そこで本題です。
「“お金の相談”の専門家」であるFPとして、私は「購入」と「賃貸」のどちらが良いと考えているのでしょうか。
結論から申し上げれば、「購入」と「賃貸」は“どちらも大差ない”。それがFPとしての私の答えです。
以前、そのお話をした時に「住宅購入派」の方から異論を頂戴したことがありました。「家賃を払っても何も残らないが、家を買えばいずれ売却して現金を得ることができるはずだ」というのがその人の主張です。
確かに純粋にコスト面だけを考えれば、「賃貸」より「購入」の方がやや有利かもしれません。住宅の市場価値は様々な要素で変動するものですが、それでも家賃のように「何も残らない」というのは想像しにくいからです。
しかしながら、その一方で「住宅は時とともに劣化していく」という事実を忘れてはいけません。
先ほど例に挙げた住宅設備もそうですが、建物そのものも確実に劣化していきます。目に見えるようなスピードではありませんが、建物は竣工したその瞬間から「老朽化」が始まっているのです。
お手頃価格だからといって築50年の木造住宅を購入したとしても、そこから何十年も住み続けることはできないでしょう。仮にあと数年で建て替えしなければならないような家であれば、購入するより賃貸のままでいたほうがお得だったなんてことにもなりかねません。
これは住宅を貸して収益を得ている「現役大家」の立場から申し上げますが、住宅の維持にはそれなりの費用がかかるものです。ただ、賃貸住宅では入居者がその費用を実感することはほとんどないと言って良いでしょう。
大抵の場合、人生の中でそう何回も自宅を買う機会があるわけではありません。「自宅購入派」の方も今は賃貸住宅であることが多く(つまり自分で家を持った経験がなく)、家の維持にどのくらいのお金がかかるのかを想像するのは難しいという点には留意するべきです。
結局のところ、最終的にはその物件によって答えは変わってきます。
マンションなのか戸建てなのか、建物の構造はなにか、建てられてから何年経っているのか。
家賃とローンの比較だけでなく、ランニングコストや築年数によっても数字は変わってきますが、決定的に「どちらが良い」と言えるまでの住宅コストの差を「購入」と「賃貸」の間に見つけるのは難しいというのが、私のFPとしての見解です。
ただし、これはあくまで一般論です。
一般論のレベルでどちらが良いとは言えなくても、「その人にとってどちらが良いか」の答えは必ずあるはずであり、お客様からの相談を仕事とするFPとしては、むしろそちらの方が重要だと考えています。
その答えを出すためには、単純にコストでは割り切れない、その人ならではの“価値観”が大切になってきます。
例えば、自分の家を持つことに大きな満足感を覚える人もいるでしょう。反対に住宅ローンという借金がたまらなく精神的苦痛になる人もいます。
これから長い人生の日々を送っていく上では、そうした「損得では勘定できない部分」がとても大事になってきます。
「“お金の相談”の専門家」であるはずのFPが、「損得を抜きにして」などと言うと奇異に感じる方もいるかもしれません。
しかし、いくら経済的な不安がなかったとしても、その人の価値観が反映されていない人生にどのくらいの意味があるでしょうか?
「自分の価値観を大事にする人生」
「お金の心配をしなくていい人生」
この二つをなるべく高い次元で実現させることこそ、FPとして私が目標としているところです。ですから、ご相談を受ける時には何よりもその人の価値観を大事にするのです。
住宅は「購入」がいいのか。「賃貸」がいいのか。
世の中で語られていることの多くは、商品として「不動産」を扱う人達の理屈でしかありません。
それよりも肝心なのは、あなた自身の価値観です。その価値観に従って、自分にとって「どちらが正解なのか」をぜひ考えてみてください。