不動産投資の魅力の一つに、「レバレッジ効果」と呼ばれるものがあります。
「レバレッジ効果」とはもともと“てこの原理”を指すものです。
「借り入れ」という他人資本を使って自らが使う棒を長くするようなイメージを持つと良いでしょう。簡単に言えば、少ない自己資本で大きなリターンを得るための手法で、不動産投資にはよく使われる方法です。
このレバレッジ効果を活用する場合、「どうやってローンを安全に払っていくか」が不動産投資成否の分かれ目になります。そして、残念ながらこの分かれ目を読み切れず不動産投資の敗者として去っていく方は少なくありません。
彼らはどこで失敗をしたのでしょうか。一緒に考えてみましょう。
レバレッジ効果を見込んで不動産投資を行う場合、言うまでもなく、ローンを返済する原資はその物件から得られる毎月の「家賃収入」ということになります。
しかしながら、単純に「ローン返済額が家賃を下回っていれば良い」というものではありません。アパートローン以外にも賃貸経営にかかる費用は意外と多く、それらの出費を全て考慮した上で毎月のローン返済分をしっかりと確保していかなければならないからです。
シンプルに考えれば、
「家賃収入>ローン返済+諸費用(管理修繕費・リフォーム代等)+税金(固定資産税&所得税)」
という式がずっと成り立っていれば、安全にローンを返していけることになります。
ここでポイントなのが、「ずっと」という点です。
ローンの期間が30年間なら、原則としてその間「ずっと」この式が成り立っていなくてはなりません。確かにどこかの期間がマイナスであっても他の期間の蓄えでそれが補えれば問題はありませんが、その資金計画が“安全”と呼べるものかどうかは疑問符がつきます。
出て行く方のお金も時期によって変化するので注意が必要ですが、今回は入っているお金、つまり「家賃収入」に焦点を当ててみましょう。
「家賃下落リスク」
少しでも不動産投資のことを勉強すれば、この言葉を耳にする機会があるでしょう。
家賃はずっと今の金額が続くわけではありません。建物の老朽化や競合物件の新築などの影響を受け、徐々に下がっていくのが現実です。
ごく稀に新しく駅ができたなどの環境変化で家賃が上がることもありますが、これは特例中の特例。始めから「家賃が上がる」あるいは「現状維持できる」という前提で資金計画を立てるようでは、既にその人の賃貸経営失敗は決まったようなものです。
家賃の下落率をどう考えるか。
不動産投資をする上で、これは避けては通れない問題です。
特に注意が必要なのが、「新築物件」で賃貸経営を始めるケースです。
「新築」というキーワードは不動産業界において特別な力を持ちます。「新築」という言葉がつくだけで、その物件は高く売れたり貸したりすることができます。それだけ消費者にとって人気が高い、言い換えれば市場価値が高いのが、「新築」の物件なのです。
それを裏付けるように、賃貸業界には「新築プレミアム」という言葉があります。新築物件であれば、通常の家賃相場より高い“プレミアム”な家賃設定ができるという意味です。
「新築物件」で賃貸経営を始める時に怖いのが、この「新築プレミアム」を基準に以後の家賃の推移を考えてしまうことです。宅建業法上、新築を謳えるのは「未使用かつ築1年以内」。つまり、たとえ一ヶ月でも入居者がいた物件、あるいは未入居でも築1年以上経ってしまった物件はもう「新築」を名乗ることができません。
「新築プレミアム」が外れた瞬間、家賃はガクッと下がります。中には1割以上下がるケースもあります。新築時の家賃を基準にして長い期間の収支計画を建ててしまうと、この時点で早々に大きな軌道修正を迫られてしまいます。
あくまで「新築時の家賃は特別なもの」として当初から資金計画を組むべきでしょう。
ましてや「新築プレミアム」でないと収支が合わない物件などは投資対象として以ての外です。
新築以外でも「家賃下落リスク」は、非常に難しい問題です。
なぜなら、本当は「家賃下落リスク」とはそれ単独で考えるべき話ではないからです。
不動産投資のもう一つの大きなリスクである「空室リスク」。実は「家賃下落リスク」と「空室リスク」は表裏一体の関係にあり、その片方だけを考えても大家にとって良い結果は得られません。
考えてみてください。
「家賃下落リスク」を避けたければ、家賃を下げなければ良いのです。簡単な話です。しかし、その結果どうなるか。当然「空室リスク」が拡大します。
逆に「空室リスク」を極限まで抑えるためには、周囲の物件に対し十分な競争力のある家賃設定をするのが有効な手段となります。そうすると今度は「家賃下落リスク」が高まります。
このように二つのリスクは表裏一体の関係。どちらか一方だけが解決すれば良いという問題ではありません。
見方を変えれば、大家としてどちらかの問題に固執する必要はないはずです。真の意味で大事なのは、「年間通してどれだけ多くの家賃収入を得るか」ということだからです。
状況によっては家賃を下げてでも空室を回避する必要もあるでしょう。逆に空室を覚悟の上でも家賃を下げずに我慢する局面もあるはずです。
未来の家賃を正確に予測するのは、誰にとっても難しいものです。ただ少なくとも「家賃は下がるものだ」という前提で資金計画を立てておかないと、結局のところ「家賃下落リスク」にも「空室リスク」にも耐えられなくなってしまいます。
事前の余裕を持った収支シミュレーションが、長期間に渡り安全にローンを返し続けること、つまりは「安定した賃貸経営」につながっていくのです。