
日本において根強い需要がある「貯蓄型保険」に転機が訪れようとしています。一時はその人気に翳りがありましたが、ここに来て復権の兆しが見えているのです。
元々、保険業界では売れ筋だった貯蓄型保険ですが、2017年にマイナス金利の影響から予定金利が引き下げられたことによって、生命保険各社は外貨建て保険の販売に力を入れるようになりました。外貨建て保険には為替リスクが伴うものの、予定金利の引き下げによって貯蓄型保険が以前ほどの貯蓄性が保てなくなったからです。
ところが、2024年3月のマイナス金利の解除により、その風向きは変わってきています。今後は予定金利の上昇が見込まれ、再び貯蓄型保険が「お金を貯められる保険」として注目を浴びるようになっているのです。
そこで今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)と一緒に改めて貯蓄型保険を考えてみることにしましょう。“生命保険を売らない”コンサルタントとしての立場で、FPが生命保険の「実際のところ」を解説します。
まずは「貯蓄型保険」の基本的な部分をおさらいしておきましょう。貯蓄型保険のメリットとデメリットとは一体どんなものでしょうか?

貯蓄型保険のメリットは、何と言っても「いずれお金が返ってくる」という点にあります。
どんな保険設計にするかによっても変わってきますが、予定利率が高ければ長年保険料を払い続けることによって、20〜30年後にはお金が増えて戻ってくるような保険の形も十分に可能でしょう。支払った保険料以上の満期金や解約金が約束されているわけですから、何よりも損をすることを嫌う人にとっては魅力的な商品と言えるはずです。
さらに、曲がりなりにも生命保険ですからなんらかの「保障」がついてきます。
貯蓄型保険の場合、保障の対象が「死亡」や「三代疾病(ガン・心筋梗塞・脳卒中)」であることが多く、人生においてそれらの保障が必要な期間は“保険会社にお金を預ける”という感覚で「もしもの時」に備えることができます。
幸いにも「もしもの時」が訪れなければ、タイミングを見て保険を解約すれば銀行に預けていた以上のお金が戻ってくる可能性もありますから、貯蓄型保険はライフプランにおいて「貯蓄」と「保障」の二つの役割を担うことができると考えられます。
また、毎月の積み立てで貯蓄を増やしていくという側面もありますから、手元にお金があるとどうしても使ってしまう人などには、強制的な貯蓄手段として活用することも可能です。

そう書くと貯蓄型保険はいいことずくめの商品に聞こえるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。どんな選択肢にもメリットとデメリットは必ず存在するもので、貯蓄型保険にも大きなデメリットが二つあります。
まず一つ目は、「資産の“流動性”を失うこと」です。
“流動性”とは資産運用の世界で「現金化のしやすさ」を指す言葉で、例を挙げれば、いつでも現金を引き出せる銀行の普通預金は「最も流動性の高い」と言える金融商品です。
貯蓄型保険の場合、途中で解約して現金化しようとすると、払った保険料を下回る金額しか返ってこないことが一般的です。特に「低解約返戻金型」と呼ばれる形の保険では、保険料を全て払い終わるまでに解約してしまうと戻ってくるお金(解約返戻金)が大幅に少なくなってしまいます。
流動性が低いと、例えば怪我などのトラブルで急に現金が必要となった時に、すぐ引き出せるお金が手元にないという事態が想定されます。あるいは、ライフプランの変化で現状の保険料が家計の重荷となったとしても、保険料を全て払い終わるまでは他のことを犠牲にしてでも払い続けなくてはなりません。
緊急時には「契約者貸付」と呼ばれる仕組みで、これまで払ってきた保険料を担保にお金を借りこともできますが、当然このお金には利子がかかってきますので、それであれば「始めから貯金をしておけばよかった」ということになってしまうでしょう。
二つ目のデメリットは、「インフレリスクを抱え込んでしまうこと」です。
急激な物価上昇に生活が脅かされている昨今、貨幣価値は大きく変動しています。仮に30年後に払った保険料以上のお金が戻ってくるとしても、30年後は今より物価が上がっている(インフレ)と考えたほうが自然です。「今の100万円」と「30年後の100万円」が同じ価値と考えるのはあまりに楽観的です。
インフレが起こって貨幣価値が下がった場合は、金額としては同等以上でも実質的に目減りしていることも十分に考えられるのです(これは“安全資産”と呼ばれる預金にも同じことが言えます)。

ここで一度整理してみましょう。
【貯蓄型保険のメリット】
【貯蓄型保険のデメリット】
つまり、「貯蓄型保険に加入する」ということは次のように言い換えることができるでしょう。
「“流動性”と“インフレリスク”を犠牲にして“保障”を得る」
払ったお金が戻ってくるという「損得」だけで考えてしまうと流動性の大切さになかなか気がつきにくいのですが、「ライフプラン」という長いスパンで物事を考える時は、流動性はとても重要になります。実際にご相談を受けた中でも、流動性を損なったがために十分な収入がありながら家計が回らなくなったというケースもありました。
また、インフレに備えるのであれば、ライフプランを通して自分自身の「余剰資金」を計算し、地道な資産運用を行うのが効果的です。高額な保険料が家計を圧迫して余剰資金が生まれないようでは、こうした手段は使えなくなってしまいます。
貯蓄型保険に「保障」と「貯蓄」の二役を負わせるにしても、大前提として「本当に必要な保障とは何か」、そして「ライフプランで考えた無理のない貯蓄額はいくらか」のバランスを考えなくてはいけません。

冷静に考えれば、貯蓄型保険という一つの商品に無理に「保障」と「貯蓄」の二役を背負わせる必要もありません。
例えば、保障の部分は定期保険にすることで支出を抑えておいて、余った資金を証券運用に回せば、保障を得ながらある程度の流動性やインフレ対策を確保した貯蓄をすることができます。これは、それぞれの役割を違う分野の商品に任せることでその商品の特性を生かす方法と考えられます。
自分で資産運用をすることに抵抗がある場合は、同じ保険でも投資の要素を含んだ変額保険にすることで少なくともインフレ対策の一端にはなるはずです。但し、この方法では流動性を損なうことになりますから、現預金等の流動性が確保できる資産も用意しておくべきです。
もちろん資産運用には「リスク」という名の不確実性が付き物ですから、その点に対する考え方には個人差があるでしょう。大事なのは全ての方法や商品にはメリットとデメリットがあり、万人にとっての正解は存在しないということ。数ある選択肢の中から自分にとっての正解を探す必要があるのです。

もし、保険販売員のセールストークに乗って加入してしまった貯蓄型保険が、ライフプランとしてのバランスを欠いているものであれば、近い将来それが家計の重荷になる可能性は高いと考えられます。
また、予定金利が回復してきたとしても、今後もインフレがずっと続くようであれば、今加入した貯蓄型保険は、何年後かに見直せば低い水準の予定金利のものになっているかもしれません。
「低解約返戻金型」のように、中途解約すると戻ってくるお金が大幅に減ってしまう場合は途中でやめることに躊躇してしまいがちですが(それこそ保険会社の狙いでもあります)、逆の考え方をすれば、後になってやめるぐらいなら早いうちに解約してしまったほうが「傷が浅い」という捉え方もできるはずです。証券運用でいうところの「損切り」という考え方です。
「銀行に預けておくよりもいいですよ」という常套句で貯蓄型保険は売られることが多いわけですが、預金には生命保険にはない“流動性”という大きなメリットがあります。こうしたセールストークがその利点を無視したものであることは明らかです。
既に貯蓄型保険に加入している人も、これから貯蓄型保険に加入しようと思っている人も、流動性の大切さをよく認識した上で、もう一度自分に合った「貯蓄型保険の在り方」を検討してみてもいいかもしれません。