家賃収入を“最大化”する方法とは?

「家賃設定はいくらにするべきでしょうか?」


賃貸経営のご相談の時に相談者からこんな質問を受けることがあります。


実際にやってみると、世の中で言われるような“不労所得”ではなく、多くの“経営的判断”が求められる賃貸経営。中でも「自分が所有する部屋にいくらの家賃をつけるか」は、大家の最大の敵である“空室問題”とも直結する非常に重要かつ難しい問題です。


なぜ、家賃設定はそれほど難しいのでしょうか?


実際に大家経験のある人であれば分かるはず。そう、不動産とは「この世の中に同じものが二つとない商品」だからです。


例え全く同じ間取りだったとしても、階数や向きが違えばそれは同じ部屋ではありません。ですから、家賃には「標準価格」というものは存在しておらず、その意味で「100個の部屋があれば100通りの家賃設定がある」と考えられるのです。


「自分の部屋を1円でも高く貸したい!」と大家業を営む全ての人が願う一方で、「家賃設定が高すぎて空室が続いたらどうしよう…」と不安に思うオーナーも多いでしょう。


借りる側の理屈ではなく、貸す側の大家にとって最適な家賃設定とはどんなものなのか?


今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、長年の大家としての経験に基づいた“家賃収入を最大化する秘訣”をお教えします。


大家にとって「本当に大事なこと」

あなたが所有する物件の家賃を決める時、一番始めに何を参考にするでしょうか? ほとんどの場合、近くにある似たような物件の家賃が比較対象となるはずです。


こうしたいわゆる「競合商品」の価格設定を元に自社製品の価格を決めるのは、なにも家賃に限らずどんな商品でも行われている、ごく自然な行為です。家賃の場合はそれが“相場”と呼ばれていて、物件検索サイトを見ればエリアや駅ごとに間取り別の家賃相場が載っています。


「それなら、相場と同じぐらいの家賃にすれば大丈夫だろう」と思う人もいるかもしれません。それは自然な発想ですが、本気で大家業を営もうとするのであればもう一歩踏み込んで考える必要があります。


思い出してください、不動産とは「この世の中に同じものが二つとない商品」だということを。


そんな特殊な商品である不動産にとって、賃料の相場はあくまで“相場”。実際のところ、参考程度にしかなりません。本当に自分の物件の適正家賃を知りたいのであれば、ぐるっと180度考え方を変えてみる必要があります。


改めて考えてみましょう。大家にとって大切なのは「できるだけ高い家賃で部屋を貸すこと」でしょうか?


私はそうは思いません。大家にとって本当に重要なことは「高い家賃で貸すこと」ではなく、「年間を通して1円でも多くの家賃収入を得ること」であるはずだからです。


「えっ? それって同じことじゃないの?」と思った方、ごもっとも。確かに、高い家賃で部屋を貸せるのであれば、年間の家賃収入だって自ずと多くなるに決まっています。


しかしながら、一見同じことに見えるこの両者は、実はまったく違うものです。そして、その違いこそがあなたの物件の適正家賃を決めるカギとなるのです。


私はこれを“家賃の最大公約数”と呼んでいます。


“家賃の最大公約数”を目指せ!

もし、あなたが自分の物件をどうしても相場より高く貸したいのであれば、そのような家賃設定をしたって構いません。いつの日かその物件を気に入ってくれる人が現れるはずです。


ただし、それがいつになるかは分かりません。1ヶ月後、あるいは3ヶ月後かもしれません。もしかしたら半年経っても借り手が現れない可能性もあります。


「それでは困る。一刻も早く部屋が埋まって欲しい」と思うのであれば、逆に相場よりぐっと低い家賃設定にしてみればよいでしょう。極端な話、相場の7割程度の家賃であれば、よほど難のある部屋でないかぎりすぐに入居者が決まります


こう考えれば分かるように、「家賃設定」と「空室期間」は表裏一体の関係。言い方を変えればこれは、「家賃下落率」と「空室率」は反比例するということを意味しています。


家賃を下げたくなければ、ある程度空室期間が長くなることを覚悟して募集しなくてはなりません。反対に空室期間を短くしたいのであれば、家賃設定を抑えるという手段が何よりも有効となります。不動産投資業者の広告で高い入居率を謳うものがありますが、「家賃収入の最大化」という観点から見れば、これは物事の片面しか捉えていないことになるのです。


どっちの家賃設定が正解?

インターネットや不動産投資指南本ではよく「相場より高い家賃で貸せた!」というような宣伝文句や自慢話を目にします。


しかしながら、もう皆さんは「高い家賃で貸すこと」が必ずしも最善の策ではないことがお分かりのはずです。具体的な数字で考えてみましょう。


例えば、家賃相場が80,000円の部屋が二つあったとします。二つの部屋は別の大家の所有物件ですが、たまたま入居者がその年の12月末で同時に退去することになり、二人の大家は新しく入居者の募集を始めました。


大家のAさんは「この部屋をなるべく高い家賃で貸したい」と思い、相場より5%ほど高い84,000円で募集を開始しました。その結果、1〜2月は反響が少なかったものの、企業の異動や学校の入学などで引越しが活発になる3月に無事に次の入居者が決まり、4月からの入居となったのです。


一方の大家Bさんは、対照的に「なるべく空室期間を短くしたい」と考え、相場より2,000円安い78,000円で募集を始めました。すると退去後まもなく申し込みがあり、2月から賃貸契約が発生することになりました。


Aさんの家賃設定「84,000円」とBさんの家賃設定「78,000円」。両者の差は6,000円もあり、一ヶ月分の家賃としてはかなり大きな開きがあります。高い家賃で貸すことが全てであれば、当然Aさんの方が“正しい家賃設定”ということになりますが、果たして本当にそうでしょうか。


大事なことなのでもう一度言います。大家にとって本当に重要なことは、「高い家賃で貸すこと」ではなく「年間を通して1円でも多くの家賃収入を得ること」です。


Aさんがその年に得た家賃収入は「84,000円×9ヶ月(4〜12月)=756,000円」。それに対し、Bさんがその年に得た家賃収入は「78,000円×11ヶ月(2〜12月)=858,000円」になります。なんと月額の家賃が6,000円も低いBさんの方が、年間としては102,000円も多く家賃収入を手にしていることになるのです。


「そんなこと言ったって、ずっと長く貸していればいずれAさんが逆転するでしょ?」と思う人もいるでしょう。ただ、2ヶ月早く賃料が発生しているBさんのアドバンテージは156,000円。この差を月々6,000円の差額で埋めるためには、単純計算して26ヶ月の期間が必要となります。


26ヶ月といえば2年2ヶ月。一般的な賃貸契約は2年毎の更新ですから、初回の契約中にはAさんは逆転できないという計算になるわけです。それでも本当にAさんの家賃設定が正解だったのでしょうか?


家賃にもセール価格がある?

Bさんが家賃設定をする際に、相場より安くしないまでもせめて「相場の80,000円で募集をかける」という選択肢はあったはずです。


Bさんがそうしなかったのは、これまでの大家としての経験から「家賃にもセール期間があること」を知っていたからに他なりません。いわゆる入居の旬である3月までに次の入居者を決めるには、相場よりも安い価格設定で募集をかけたほうが効率的だと考えたからです。


「家賃にセール価格なんてあるの?」と大抵の人は思うかもしれませんが、大家にとって自分の所有する部屋はれっきとした一つの“商品”です。


様々な商品にそれぞれの旬があるように(例えばアイスなら夏、鍋なら冬というように)、家賃にも「旬」があります。旬ではない季節に値下げやキャンペーンを行うのはどの商品も一緒です。家賃だけが例外と考える方がむしろ不自然でしょう。


高く売れる「旬」でなければ家賃にセール価格を設定するやり方だってあってもいいはずです。仮にわずかな金額の差でその部屋の空室期間が一ヶ月のびてしまった場合にどうなるか。その答は上の例からも明らかです。


空室率50%のアパートが満室になったお話

実際に私のところに持ち込まれたご相談の中にこんなケースがありました。


物件は築10年を超えたアパートです。新築当初は順調でしたが、あまり交通の便が良いところではなく、5年ほど経って複数戸の法人契約が解約になったことで一気に空室が増えてしまいました。


他の入居者の手前もあり現状の家賃を維持しようとした結果、空室率は上がる一方。相談を受けた時には10室中5部屋が空いている状態で、空室率はなんと50%となっていました。平均の家賃を6万円として入居しているのは5部屋ですから、家賃収入は月に30万円、年間で360万円という状況です。


ご相談を受けて検討すると、立地条件やマーケットなどを鑑みて「現在の家賃設定が少し相場を上回っている」と判断するに到りました。


それでも、空室が一つや二つであれば家賃を相場に合わせて様子をみる方法もありましたが、既に空室率が50%という状態。部屋を探している人の気持ちを考えても、半分の部屋が空いているアパートには心理的抵抗が大きいと思われましたので、ここは思い切って家賃を相場の70%まで下げることにしました。


その結果、入居の旬ではなかったにも関わらず、3ヶ月かけて残りの5部屋が埋まり無事に「満室」となりました。家賃収入は月額で51万円、年額としては612万円にまで達したのです。


家賃収入を“最大化”させるために

実は相談者は当初大幅な家賃の値下げには反対でした。入居者が決まったとしても家賃収入が下がってしまうことはもちろんですが、既に入居している方から「ウチの家賃も下げてくれ!」と言われる可能性を危惧していたからです。


その心配自体は大家として当然と言っていいでしょう。ただし、私の経験上、既に入居している人が自分のアパートの家賃を常にチェックしている確率はそれほど高くはありません。そのことをお話した上で相談者にこう伝えました。


「もし家賃を下げてくれと言われたら、下げてあげればいいんです」


確かに、今6万円の家賃収入がある部屋が30%も家賃が下がってしまったら大家にとって痛手です。ただ、それでもやはり「満室」にしたほうが良いのです。


仮に元から入居者のいた5部屋を全て70%の家賃にしたとしても(そうなる可能性は低いですが)、月額家賃収入は42万円、年間では504万円になります。これは当初の家賃収入360万円の40%増の金額になるからです。


さあ、お分かりいただけたでしょうか?


「むやみに高い家賃設定をするのではなく、空室率を睨みながら、年間の家賃収入が最大になるように価格調整をしていく」


これが私が提唱する“家賃の最大公約数”です。


大家業は経験がモノを言う商売!

正直に言うと、この“家賃の最大公約数”を目指すのはそれほど簡単なことではありません。一年を通してマーケットの動きを体感的に覚えたり、自分の物件のベースとなる家賃設定を見極めたりするのには、ある程度の「大家としての経験」が必要となってくるからです。少なくとも、全てお任せのサブリース契約ではその経験値を得ることはできないでしょう


賃貸経営のご相談を受けてよく感じるのは、「空室に悩んでいる大家さんは自分の物件をよく知らないことが多い」ということ。自分の持っている物件の何が強みで何が弱点なのかを把握していなかったり、空室の清掃状態のチェックを怠っていたりすることもあります。


そのような状態では、自分の物件の適正家賃を見極めることなど到底できませんし、その人の経営状態によっては、「安い家賃ですぐに入居者を決めた方がいいのか」、それとも「高い家賃設定で待ちの姿勢をとった方がいいのか」の判断も当然変わってきます。


その意味で、常に自分の物件の状況・賃貸経営の収支・マーケットをチェックしている大家だけが最終的な勝者となれると言っても、決して大袈裟ではないでしょう。私が口癖のようにいう「大家業は不労所得でなく、むしろ不労所得に憧れる人は不動産投資をやらないほうがいい」という言葉には、そんな意味も込められているのです。


(2025/09/03改訂 文責:佐野純一)

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