賃貸経営の“最大の敵”とは…

「賃貸経営の“最大の敵”とは?」と聞かれたら、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。


その答は人によって違うかもしれませんが、実際に大家業を営んでいる私にとってそれは明確です。


賃貸経営の“最大の敵”とは、即ちこれ「空室」


よく耳にする「満室保証」を謳うサブリースは実は大家が損をする仕組みですし、また「入居率99%」といった業者の広告は都合の良い部分を切り取って誇張された表現に過ぎず、「空室」はいつの時代も賃貸経営の成否を左右する重要な問題であり続けています。


不動産投資コンサルタントをしている私のところには、既に収益物件をお持ちの大家さんからの相談も多く寄せられます。賃貸経営をとりまく様々な問題の中でも特に大家が頭を悩ませるのは、やはり「空室対策」でしょう。


ところが、実際にその人が行なっている空室対策を聞いてみると、間違いではないものの、あまり効果的とは言えないケースに数多く遭遇します。


賃貸経営の最重要課題であるはずの「空室対策」に、なぜ効果的な手が打てないのか?


今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「大家」であり、同時に「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)でもある“現役大家FP”が「空室対策」について考えてみたいと思います。


「空室対策」ってなにができるの?

あなたは、「空室対策」として具体的にどんなことを連想するでしょうか。

  • 「リフォームをしっかりする」
  • 「家賃を下げる」
  • 「フリーレント期間を設ける」
  • 「不動産業者の数を増やす」
  • 「不動産業者に広告料を出す」
  • 「内装を変える」
  • 「新しい設備を増やす」
  • 「家具を置いてモデルルーム化する」

などなど、様々な意見が出てくると思います。


実際に空室対策の打合せを行うと、大家と不動産業者の双方から多くのアイデアが出てきます。どれも重要な意見であり、活発な議論が行われること自体は非常に良いことですが、論点が定まらないとそのうちどんどん場が混沌としていき、結局「空室対策」として何をすれば良いのかわからなくなってしまう時があります。


誤解のないように申し上げておきますが、一つ一つのアイデアが決して間違っているわけではありません。ただ、そこに優先順位というものがないために、どこから手をつけていいかの判断できなくなってしまうのです。


そうならないためにも、空室対策を論じる前に全ての基本となる「決定的な事実」を大家も不動産業者も改めて認識する必要があるでしょう。


その決定的な事実とはつまり、「ほとんどの入居者はその部屋を見ない限り契約しない」ということです。


「内見なし」は大家にとっても危険?

部屋を探す時、募集図面やインターネットから得られる情報はごくわずかなものに過ぎません。コロナ禍以降は仲介業者によるオンライン内見も増えてきましたが、それでも「できることなら実際の部屋を見てから賃貸契約をしたい」というのは部屋を探している人の本音でしょう


内見をせずに部屋を決めることは入居者にとって不安が伴うことであると思いますが、実は大家側にも少なからずデメリットがあります


まず、入居者が自分の目で確認していないため、入居後に実物とのギャップを感じてそれがクレームやトラブルにつながる可能性があります。これは部屋だけでなく、隣地などの周辺の環境も含めた問題でしょう。


次に、大家も管理会社も入居者に会ったことがなく、その人となりがわからないというのも大家にとっての不安要素です。借主側が強く保護されている賃貸借契約においては、入居者側になんらかの問題(例えば他の住人に迷惑をかける)があったとしても、退去させるのは簡単ではありません。そういった危険の芽をできるだけ事前に摘み取っておく努力も、大家には必要なのです。


ちなみに、私の場合は可能な限り私自身が内見の案内を行い、複数のお申し込みがあった場合はご本人が内見したものを優先するようにしています。大家として将来トラブルが起こる可能性を少しでも減らしたいからです。


空室対策は2ステップで考える

話を「空室対策」に戻しましょう。


「入居者は実際の部屋を見ないと契約しない」という事実は、募集図面やインターネットの情報では伝わりにくい部分をいくら改善して「空室対策」を行ったとしても、そもそも内見する人がいなければ誰もそれに気がつかないということを意味しています。


そう考えれば、話はずっと簡単になります。


効率的な「空室対策」は、

  1. どうやって内見者を増やすか
  2. どうやって内見者の成約率を上げるか

の二段階に分けて、それぞれの対応を考える必要があるのです。


対策@ 「どうやって内見者を増やすか」

まずは「どうやって内見者を増やすか」です。


自分が部屋を探す人の気持ちになってみると良いかもしれません。あなたがインターネットで部屋を探すとしたら、どんな条件を打ち込むでしょうか。


一般的には、エリア・駅からの距離・間取り・築年数などの優先順位が高いと思います。しかし、残念ながらこれらの属性は後から変更することはできません。もし自分が持っている物件でどれか弱い要素があったとしても、それは改善のしようがないものです。


その点をただ嘆いていても時間の無駄ですし、ましてやそこを言い訳にする不動産業者がいたとしたらビジネスパートナーとして失格です。大家としては地道に「自分ができること」をしっかりやっていくしかありません


内見者を増やすために大家ができることは、大きく分けて3つあります。


A.設備をグレードアップさせる


まず一つ目は「設備をグレードアップさせる」方法です。


具体的には浴室乾燥機や洗面化粧台などを後付することで物件としてのアピールポイントを増やし、それを募集図面やインターネットの情報に反映させる形になります。


共用部であれば、宅配ボックスや防犯カメラを取り付けるなんてこともあるでしょう。特に無料のインターネットサービスはもはや必須の設備と言えそうです。


ただし、この方法はどうしても費用がかかります。そのおかげで部屋が埋まったとしても、その費用を回収するためには長い時間がかかるかもしれません。


その割には、特に新築物件と比較した時には差別化がしづらいのも事実。この方法を行うのであれば費用対効果を慎重に見極める必要があります


B.不動産業者を強化する


二つ目は「不動産業者を強化する」方法です。


これは、自分の物件を取り扱ってくれる業者を増やすことで情報の間口を広げるやり方と、広告料などで営業マンの士気を高めることで今あるマーケットを深堀していくやり方に大別されます。


その他の条件が揃っていれば有効な手段ですが、やはりこの方法だけで強行突破しようとしても、部屋を探している人に強引な印象を与えるだけでうまくいきません。ただ内見してもらえば良いというわけではなく、期待感をもって内見してもらわないとその後の展開に続かないからです(いくら良い広告を売っても、その商品自体に力がなければすぐに売れなくなるのと同じことでしょう)。


C.家賃設定を見直す


最後は「家賃設定の見直し」です。


不動産投資コンサルタントとして家賃の見直しの話をすると“無能”のレッテルが貼られそうですが(苦笑)、現役の大家である私から言わせてもらえば家賃とは「常に変動するもの」。建物の経年劣化と共に下がる時もあれば、世の中の物価高(特に建設費の高騰)を受けて上がる局面もあるのは当然のことですから、日頃から自分の物件の適正家賃がいくらなのかを検証し続けるのが大家の義務となります。


もちろん、家賃収入は賃貸経営の全てです。安易に家賃を下げるのは大家として決して賢明な手段ではありません。ただし、そもそも内見に誰もこないようではその物件に未来はないでしょう。勝負しようにも「土俵にすら上がっていない状態」だからです。


繰り返しますが、なにも闇雲に家賃を下げろと言っているわけではありません。自分の物件を構成する様々な要素を考えて、部屋を探している人に「ちょっと見に行ってみようかな?」と思わせる家賃設定ができるかどうか。内見の数を増やし、家賃収入の最大化を目指すポイントは、この点にあると言っても過言ではないのです。

対策A 「どうやって成約率を上げるか」

内見者の数を確保できるようになったら、戦いは次のラウンドに移ります。今度は「内見者の成約率をどう上げていくか」です。


一言で言ってしまえば、成約率を上げるには物件の印象を上げていくしかありません。「そんなの当たり前だよ」と思うかもしれませんが、こんな風に考えたことはあるでしょうか。


「印象を上げる」=「想像を良い方向で裏切る」


実際に部屋を見る前に、誰もが何かしらの想像を巡らせるはずです。「この図面でこの築年数でこの家賃ならば、こんな感じの部屋かな?」といったイメージです。


その想像を良い方向に裏切ることができれば、物件の印象はぐっと良くなります。例えば「“思ったより”キレイ」「“思ったより”収納がある」「“思ったより”広く感じる」「“思ったより”静か」など、なんらかの軽いサプライズがあれば賃貸契約に向けて大きく前進したと言えるでしょう。


また、「内見用のスリッパを用意しておく」「内見前に空気の入れ替えをする」「近隣の資料を置いておく」などの細かい演出も、そのサプライズを後押ししてくれます。ただ、あまり本質的でない部分にばかり注力してしまうと良い結果が得られないことが多いので注意が必要です。


なお、「なるべく家賃を高く設定したい」という場合はこの段階での勝負となります。内見者にどれだけサプライズを与えられるかどうかで、相場より高い家賃がとれるかどうかが決まってくると言えるからです。


既に述べたように、始めの家賃設定が高すぎて内見者がいないようでは、勝負に持ち込むことすらできません。そのためにも、客観的かつ戦略的な家賃設定が非常に重要になってきます。


大事なのは「自分の物件をよく知ること」

こうして順序だてて考えれば、冒頭に挙げた様々な空室対策も、

  1. どうやって内見者を増やすか
  2. どうやって内見者の成約率を上げるか

のどちらかに分類されるのが、お分かりになると思います。


「今、自分たちがどちらの話をしているのか」をしっかり理解するだけでも、空室対策の議論は飛躍的に効率が上がります。もともと内見者がいない状態が問題なのであれば、いくら成約率を上げる努力をしても空室対策の効果は現れません。逆に、内見者の数は十分あるのに決まらないのであれば、その部屋に成約を妨げるなにかしらの要素がないか、もう一度見直す必要があるでしょう。


大家業の基本は、なにはともあれ「自分の物件を良く知ること」です。文章にすると当たり前のことですが、実際にご相談を受けていると自分の物件のことをご存じない大家さんが多いことに驚かされます。


厳しいことをいうようですが、不労所得に憧れる人に大家業は務まりません。自分の物件をもっとよく知って、そのストロングポイントを押し出し、逆にウイークポイントを補うように考えていければ、自ずと効果的な「空室対策」にたどり着けるはずです。


(2025/05/28改訂 文責:佐野純一)

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