日本一高い税金は「贈与税」!

「税金」とは誰に取っても嬉しくないもの。そんな中でも「特に税率の高い税金」は何かご存知でしょうか?


その答えは「贈与税」。最高税率はなんと55%にも昇り、この数字だけ見ると半分以上が税金で持っていかれるイメージです。


なぜ贈与税はそれほどまでに高いのか? その理由を理解するためには、まずは「贈与税の成り立ち」を知らなければなりません。


逆に考えれば、贈与税が高い理由が分かれば、その対処方法も自ずと理解ができると言えるでしょう。


そこで今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、贈与税が日本一高い税金である理由を通じて「贈与税回避」の対策を解説します。


贈与税の計算方法とは?

まずは現状の贈与税を確認してみましょう。贈与税は2015年1月に改定され、二種類の計算方法が適用されるようになりました。


その二種類とは、20歳以上の人が直系尊属(父母や祖父母)から受け取る場合の「特例贈与財産用」と、それ以外の「一般贈与財産用」です。それぞれの計算式は以下のようになります(国税庁サイトより抜粋)。


《特例贈与財産用》

《一般贈与財産用》


具体的な計算例で見てみると、例えば年間110万円の基礎控除を除いた後の贈与財産が1,000万円だとした場合、

《特例贈与財産のケース》
1,000万円×30%-控除額90万円=210万円

《一般贈与財産のケース》
1,000万円×40%-控除額125万円=275万円

となります。実に贈与される2〜3割が税金として持っていかれることになってしまいます。


一般的に「贈与」という言葉を聞くとどうしても「ただでお金を受け取る」といったようなイメージが付きまといますから、「贈与税は税率を高くしてもいい」と国税庁は考えているのかもしれません。


確かに中にはたいした苦労もせず贈与を受け取るケースもあるでしょう。しかし一方で、長年に渡り懸命に貯めたお金を“贈与”という形で子供に渡そうとする親だっているはずです。


親からの贈与は「特例贈与財産」としてある程度の軽減処置がされているとは言え、それでも“贈与”という一括りでこんなに高い税金を課しても良いものでしょうか?


このように一見理不尽にも思える贈与税率の高さですが、実はこの疑問は「贈与税の成り立ち」を考えると解くことができます

贈与税は「相続税の一部」

実は、「贈与税」は「相続税」と深い関係にあります


より正確に言えば、「贈与税」とはそれ自体が独立したものではなく、相続税を補完する役割を負っているのです。ある意味では、贈与税は「相続税の一部」と言っても過言ではありません。


贈与税が改定された2015年1月に時を同じくして相続税も改定されたのも、このことに無関係ではありません。いえ、むしろ「相続税が改定されるから一緒に贈与税も改定された」と言ったほうがより正しい表現です。


本来であれば、自然発生的に起こる「相続」と、当事者が明確な意志を持って行う「贈与」は全く別の行為のはずです。その二つがなぜ税法上は「一緒のもの」と考えられているのでしょうか?


この現象を「相続税」の側から考えてみましょう。


言うまでもなく、税金は国や自治体の大切な収入源。「取れるところから取っておきたい」というのが彼らの本音です。


そして税金は「取りやすいところから取る」のが鉄則です。そのターゲットになるのはいわゆる「資産家」ですが、現在の日本の税法では資産を持っているだけでは税金を徴収することはできません。保有資産に対して課税できるのはせいぜい不動産の固定資産税ぐらいでしょう。


国や自治体にとって都合の悪いことに、税金は資産が動く時にしか徴収するチャンスがないのが現状なのです。


それでは、資産が動く時に税金をかけるためにはどうしたら良いのでしょうか。


もちろん資産を売ったり買ったりする時に税金をかけることはできますが、それでは資産家に「財産を動かさない」という選択肢を与えてしまいます。これでは思うとおりに徴税することができません。


しかしながら、自分の意思に関係なく大きな資産が動くタイミングがあります。そう、どんな家においてもいつかは必ず発生する「相続」です。


つまり、「相続税」とは資産家から税金を徴収するために「相続」という資産が動くタイミングを狙った税金なのです。


贈与税が相続税より安かったら?

一方で、資産家もただ黙ってやられるわけにもいきません。あの手この手で相続税を圧縮する方法を考えてきます。


相続税対策の第一歩は法定相続人に対する正しい知識相続税の計算方法への理解ですが、もしこの時相続税よりも贈与税の方が安かったらどんな現象が起こるでしょうか


そうです、資産家はこぞって相続が発生する前に資産を子供たちに贈与するはずです。


そうなっては国としては堪ったものではありません。大事な収入源である相続税を徴収できなくなってしまいます。


となれば、必然的に贈与税は相続税よりも高く設定しなければなりません。そうすることによって相続開始前に贈与が行われるのを防ぐためです。


その意味で贈与税とは、「相続税を回避させないための税」と定義づけることができるでしょう。


資産家をターゲットにした相続税自体の税率も決して低いものではありませんが、贈与税はさらにその上を行かなければならない宿命を背負った税金です。そう考えれば、贈与税の税率が高く設定されるのはある意味当然のことなのかもしれません。


贈与税を回避する4つの方法

しかしながら、贈与税にも回避する方法がないわけではありません。いつかの条件を満たすことで税負担なしに贈与を行うことも可能です。


具体的な手段をいくつかご紹介しましょう。


@歴年贈与


贈与税の「基礎控除」を使う方法です。一般的に最もよく知られているメソッドと言えるでしょう。


贈与税の基礎控除は年間110万円。このことはつまり、「その年に受け取った贈与が110万円以下であれば贈与税を払わなくてよい」ということを意味しています。


この「110万円以内の贈与」を長年に渡り毎年繰り返し行うことで、贈与税を回避しながらまとまった金額を受け渡す方法が「歴年贈与」です。


ただし、毎年定額の贈与を繰り返し行った場合には贈与税の対象となることがあります。このような形は「連年贈与」と呼ばれ、例えば10年間に渡り100万円ずつを贈与された場合、元々1,000万円の贈与が10回に分けて渡されただけと見なされるようなケースが該当します。


また、送金した口座が子供の名前のものであっても実際に子供自身が管理していないのであれば「名義預金」として扱われ、相続税の対象となりますのでこちらも注意が必要です。


A住宅取得資金贈与の特例


これもよく知られているものですが、「住宅取得の費用について直系尊属(父母や祖父母)から援助をしてもらった場合は一定額まで贈与税が免除される」という特例です。


2024年現在、一般的な建物で500万円、良質な住宅の基準を満たした時は1,000万円までの贈与が非課税枠となります。


注意点としては、贈与を受ける人の立場で上限金額を計算しなくてはならないこと(父母それぞれから上限金額を受け取ることはできない)、あくまでも住宅取得時にかかる費用だけが対象であり、住宅購入後に行う繰上げ返済等に適用できないことが挙げられます。


※参考…国税庁サイト「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」

B教育資金一括贈与の特例


「直系存続(父母や祖父母)からの教育資金贈与を非課税にする」特例です。


金融機関と信託契約を結び教育資金を預けることで、最大1,500万円までの非課税枠が認められます。贈与を受けた側は、金融機関に領収証等で教育資金であることを証明すればそのお金を引き出すことができます。


なお、タイムリミットは贈与を受ける人間が30歳になるまでとなり、その時点で教育資金が残っていた場合は残額に対して通常の贈与税が課せられます。


※参考…国税庁サイト「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」


C結婚・子育て資金一括贈与の特例


上記の教育資金とよく似た仕組みですが、こちらは「結婚資金と子育て資金が対象」です。


非課税枠の上限は1,000万円、信託期限は贈与を受ける人間が50歳になるまでとなっています。


教育資金が「祖父母から孫への贈与」を念頭に置いているのに対し、こちらの特例は「親から子への贈与」を想定していると考えれば理解しやすいでしょう。


※参考…国税庁サイト「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」

贈与の機を逸することなかれ!

当然のことですが、贈与税をくぐり抜けて子や孫に上手に贈与を行うということは、相続資産の圧縮、つまりは相続税の減額に直結します


その意味で贈与税を知ることは、有効な相続対策を行うための大きなポイントの一つと言えるでしょう。


ただし、それは国税庁も十分認識していること。贈与税をくぐり抜けるのは、それほど易しいことではありません。


上で紹介した「歴年贈与」では、まとまった資産を移すには長い時間が必要となります。また、それ以外の各種非課税枠の特例は利用できるタイミングや期間が決まっており、いつでも手軽に行えるというものではありません。


後になって「あの時贈与しておけば良かった…」と悔やむようなことにならないためには、なるべく早く贈与税への理解を深め、「適切なタイミング」で「適切な処置」ができるようにしておくことが大切です。


ただし、節税だけに主眼を置いた相続対策は往々にしてトラブルの元になるもの。相続が「争族」にならないためにも、優先順位をしっかりと考えて対策を検討するようにしましょう。


(2024/07/10改訂 文責:佐野純一)

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