「不動産所得」の求め方、ご存じですか?

「不動産投資ってあんまり儲からないな…」

 

実際に収益物件を購入した人からそんな言葉が出てくるのは、なにも珍しい光景ではありません。と言うより、「思っていたのと違う」という意味ではほとんどの人がそう感じていることでしょう。

 

賃貸経営が当初考えていたより儲からない理由はいくつか考えられますが、その中の一つに「税金」があります

 

中には「節税になります」というセールストークにまんまと引っかかって、よく考えもせずに物件を買ってしまったようなケースも見受けられますが、そういった人に限って家賃収入にかかる税金のことをよく理解していない場合が多いものです。

 

そこで今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、家賃収入にかかる税金の具体的な計算方法とその注意点を解説します。


「所得」とは“課税対象となる金額”のこと

まず確認しておきたいのが、「収入」と「所得」は全くの別物であるという点です。両者の意味を混同している人も多いのですが、「収入」とは単純に“入ってくるお金”、そして「所得」はあくまで“課税対象となる金額”のことを指します。

 

賃貸物件から得られる家賃収入は、税法上10種類ある所得の中の「不動産所得」に該当します。所得はその種類によって課税額の算出方法が異なっているのですが、中でも不動産所得はその計算の仕方が複雑ですので注意が必要です。

 

原則としては、「所得=利益」と考えて大丈夫です。

 

実は日本で最も対象者が多い「給与所得」は計算方法が特殊で、一番わかりやすいのは個人店舗などの「事業所得」でしょう。

 

例えば、年間1,000万円の売り上げがある飲食店が、材料費や家賃、そして人件費などで700万円の支出があるとすれば、その人の事業所得は「1,000万円-700万円=300万円」となります。入ってきたお金(売上)から出ていったお金(経費)を差し引いた利益が、そのまま「所得」として扱われます

 

それでは家賃収入に関わる経費とはなんでしょうか。

 

これが「出ていくお金=経費」とならないところに、不動産所得の計算の難しさがあります


ローンの元金は「経費」にならない!

まずは賃貸経営において「実際に出ていくお金」を考えてみましょう。

  • 管理会社に支払う管理委託料
  • 作業した清掃費や修繕費
  • 所有する物件の固定資産税
  • 管理費・修繕積立金(区分マンションの場合)

などが挙げられると思います。

 

ただ、多くの場合、出ていくお金の大きな部分を占めるのは借りているアパートローンの返済でしょう。

 

実際に毎月金融機関に返済しているわけですからこれも経費として認めてほしいところですが、現実にはそうはいきません。ローンの返済額のうち、経費に計上できるのは利息の部分だけ。元金はいくら払ったとしても経費とは見なされないのです。

 

毎月の返済額のいくらが利息でいくらが元金なのかを意識している人は少ないかもしれません。特に元利均等返済であれば毎月の返済額は同じですからなおさらでしょう。

 

しかし、税制上の考え方では、利息は「賃貸経営という事業を行うために必要な費用」であるのに対し、元金は「ただ借りていたお金を返すだけ」に過ぎませんから、両者は異なるものとして扱われます。

 

具体的な数字で計算してみましょう。

 

例えば、新築の木造アパートを購入したとします。価格は7,000万円で、6,500万円のアパートローンを組みました。借入期間は30年、元利均等返済で金利は2%です。

 

この場合、初年度の返済額は約288万円。その内、元金は160万円、利息が128万円となりますから、実際に出ていくお金は288万円でも、経費として計上できるのは128万円のみということになります。


「減価償却費」は節税の味方?

不動産所得の計算を複雑にしているのはローンの元金だけではありません。もう一つの大きな要因が「減価償却費」です。

 

「減価償却」とは税制上の考え方で、機械や建物など長期間に渡って使用するもの(固定資産)に関しては購入したその年に一括で経費計上するのではなく、何年かに渡って少しずつ処理していこうというものです。対象によって償却期間が何年になるか(耐用年数)は予め決められていて、例えば住居用の木造アパートであれば22年間となります。

 

先ほどの例のアパートが、売却価格7,000万円のうち半分の3,500万円が建物部分だとすれば、「3,500万円÷22年間=159万円」となり、毎年159万円が経費計上されていくようなイメージです(実際には設備等を細かく分けてそれぞれ減価償却費を計算します)。

 

ローンの元金が「出ていくけど経費にできないお金」だったのに対し、減価償却費は反対に「実際には出て行かないけど経費にできるお金」と理解すれば良いでしょう。

 

冒頭に触れた「節税できます」という不動産業者のセールストークは、この減価償却費が元になっています。

 

確かに、理論上はキャッシュフローをプラスにしながら不動産所得をマイナスにし、他の所得(給与や事業など)の税金を圧縮することは可能です。

 

ただし、それには自己資本率を高くする、つまりローンの借入額を抑えることが絶対条件になりますので、それほど簡単な話ではありません。税金は減ったけど手持ち資金が流出しているとしたら、その状態を「節税」と呼んでいいのかは大いに疑問です。


賃貸経営は「右肩下がりの商売」

さて、私は常日頃から現役の大家として「賃貸経営は右肩下がりの商売」というお話をご相談者にしています。

 

夢も希望もない表現ですが、それにはこの正反対の性質を持つ「ローン元金」と「減価償却費」が大きく関係しています。

 

具体例で改めて「不動産所得」と「キャッシュフロー」を計算してみることにします。

物件:木造新築アパート
価格:7,000万円(内建物価格 3,500万円)
家賃収入:年間420万円(表面利回り6%)
アパートローン: 6,500万円(返済期間30年 金利2%)
年間返済額:288万円(元利均等 初年度内訳 元金160万円 利息128万円)
年間経費:71万円(固定資産税40万円・管理委託料 21万円・修繕費等10万円)

まず初年度の「不動産所得」と「キャッシュフロー」はそれぞれどうなるでしょうか。

不動産所得の計算(初年度)

家賃収入420万円-経費71万円-利息128万円-減価償却費159万円=不動産所得62万円

キャッシュフローの計算(初年度)

家賃収入420万円-経費71万円-ローン返済288万円=税引き前手取り額61万円

不動産所得が62万円ですから、仮に税率を所得税住民税合わせて30%だとすると「62万円×30%=18.6万円」が所得に対する税負担となります。最終的なキャッシュフローは税引き前手取り額から税負担を引いた42.4万円となります。

 

このケースではローン元金と減価償却費がほぼ同額ですから、両者の性質の違いをあまり意識することはないでしょう。


25年後には所得税が5倍に?

ただ、時の流れにつれて状況は大きく変わっていきます。

 

元利均等の場合、徐々に返済額の元金比率は増えて経費計上できる額が少なくなりますし、木造アパートの減価償却は22年で終わってしまい、その後は経費として計算できないからです。

 

今度は25年後の両者を計算してみましょう。家賃収入を含め、諸条件は変わらないものとします。

不動産所得の計算(25年後)

家賃収入420万円-経費71万円-利息25万円-減価償却費0万円=不動産所得324万円

キャッシュフローの計算(25年後)

家賃収入420万円-経費71万円-ローン返済288万円=税引き前手取り額61万円

不動産所得の324万円に対する税率が先ほど同様30%であれば「324万円×30%=97.2万円」まで税負担が膨らみます。税引き前の手取り額は61万円ですから、税金を払えばマイナス36.2万円となってしまいます。

 

どうでしょう。たとえ25年間家賃収入が変わらなくても、建物が古くなって修繕費がかからないとしても、キャッシュフローには80万円近い差がついてしまいました。

 

これは、「ローン元金」と「減価償却費」がお互いに正反対の性質を持ちながらも、時間と共に「計上できる経費が少なくなる=税負担が増える」という同じ影響をもたらす結果です。

 

実際には、新築時の家賃設定をキープすることは難しいですし、建物の老朽化で修繕費は増える一方ですから、25年後のキャッシュフローはもっと厳しいものになるでしょう。

 

こう考えれば、私が「賃貸経営は右肩下がりの商売」と主張する意味がお分かりいただけるのではないでしょうか。


「節税」よりも大事なこと

どんな事業にも言えることですが、税負担とどう向き合っていくかというのはその成否を決める重要なポイントです。

 

ただ、誤解していただきたくないのですが、税金を納めることは決して悪ではありません

 

中には課税を回避することだけに躍起になるような例も見受けられますが、税金を納めなければ、個人の資産が増えることもありませんし、法人の基盤が安定することもありません。

 

納税額を抑えることが重要ではなく、上手に税金と付き合っていくことが大事なのです。

 

不動産投資や賃貸経営において、不動産所得の計算方法を理解することは上手く税金と付き合う第一歩です。税金と聞くだけで苦手意識を持つ人も多いようですが、基本をしっかり押さえるようにしましょう。


(2023/01/25 文責:佐野純一)

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