「減価償却」は賃貸経営を成功させるカギ

「“減価償却”を知らずに賃貸経営の成功はあり得ない!」

 

資産運用として不動産投資を考えた時、こんな主張をする人もいます。

 

「減価償却」という言葉自体は当サイトにも度々登場していますので耳にされたこともあるかと思いますが、その意味を正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。

 

この「減価償却」とは税法上の考え方の一つ。「税金」と聞くだけでアレルギー反応をおこして脳が活動を停止してしまう人もいますが、この「減価償却」は不動産投資や賃貸経営において非常に重要なキーワードです。

 

そこで今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、そんな「減価償却の考え方」を分かりやすく解説していきたいと思います。


「減価償却」の前に「固定資産」 を理解しよう

減価償却とは、簡単に言えば「固定資産をどうやって経費に計上するかという考え方」です。

 

…はい、よく分かりませんね(笑)。

 

「固定資産」というのも税法上の考え方で、要するに「それは何年かに渡って使えるでしょ」というもののことを指します。

 

例えば、打合せのために電車で移動したとします。この時の交通費は当然経費となるわけですが、これはあくまでもその場限りのもの。電車代を支払っても手元に何かが残るわけではありません。

 

それに対し、仕事の移動手段として自動車を購入した場合はどうなるでしょうか。あくまで業務として使うものですので同じく経費として認められますが、電車賃と同じように扱うわけにはいきません。購入した自動車は一回乗ったらおしまいではなく、何年も乗り続けることができるからです。

 

こうした何年もの間に渡って使い続けることができるものを税法上は「固定資産」と呼び、帳簿上の処理は他の経費と分けて考えられます

 

どうしてそんなことをする必要があるのでしょうか?

 

実は「固定資産」を他の経費と同様に扱ってしまっては、税務署にとって甚だ都合の悪いことになるからなのです。


「減価償却」は税務署の都合!

具体的な例で考えてみましょう。

 

個人で商売をしている人がいたとします。12月に入った時点でその人の予想利益は300万円。このまま行けば所得税はそれなりの額に上ります。

 

税金を払いたくないこの人はこう考えました。

 

「利益となる300万円をなんとか経費として使えないだろうか。そうだ! 300万円で営業用の新車を買ってしまおう!」

 

確かに経費を使えばその人の利益を圧縮できます。利益が300万円の個人事業主が、そのお金で営業用の車を買ったら利益は「ゼロ」。この人が目論み通り、これで税金を払わずに済むのでしょうか?

 

答えはもちろん「No」です。

 

こんなことが認められたら、それこそ誰も税金を払わなくなります。決算に合わせて利益分の大きな買い物をすれば良いわけですから。

 

それでは税務署も商売あがったりです。国税庁はこうした事態を防ぐために、建物や自動車のように長く使うことができるものを「固定資産」と呼び、一回で全額を経費計上できないように定めました。

 

その代わり「固定資産は長い期間をかけてちょっとずつ経費計上していいよ」という概念を生み出したのです。これが「減価償却」です。

 

この「長い期間」というのも納税者が勝手に決められるわけではなく、固定資産の種類によって予め決められています。これを税法上は「耐用年数」と呼びます。

 

例えば、新車であれば耐用年数は6年と決められています。先ほどの例のように300万円の新車を購入した場合、単純計算で「300万円÷6年間=50万円」となりますから、その年に計上できる経費は50万円のみ。残りの250万円に関しては今後5年間かけて毎年50万円ずつ経費計上していくことになります(分かりやすくするため説明を簡略化しています)。


税務署の狙いを逆手にとれ!

こう書くと減価償却とは納税者にとってはあまり良い制度には思えないかもしれませんが、実はそうとも言い切れません。特に不動産投資においては「減価償却費」の扱いがとても重要になってきます。

 

なぜでしょうか?

 

確かに購入した年に全額を経費計上することはできません。しかし逆に考えれば、これはその後長い期間にわたって「実際には出ていかないお金を経費として計上できる」ということを意味します。総合的に考えれば、この点が効果的な節税につながるのです。

 

思い出してください。税金とは決して「収入」によって決まるものではありません。あくまでも収入から経費を引いた「所得」で決まるものです。

 

本当は出ていかないお金を経費として計上できるのであれば、実際のキャッシュフローに比べて所得を少なくできる、つまりは税負担を軽くすることができるのです。

 

この方法をうまく使えば、家賃収入を得ながら不動産所得にかかる所得税を抑えることも可能です。

 

それだけでなく、不動産所得は給与所得や事業所得などの他の所得と相殺できますので、減価償却費で不動産所得をマイナスにできるのであれば、他の所得に掛かる税金まで減らすこともできるようになるのです。


具体例で見る減価償却の“凄さ”

簡略化した計算例でシミュレーションしてみましょう。

 

ある人が自分の土地に木造アパートを建てたとします。建築費の2,200万円は全額自己資金でまかない、家賃収入は年間100万円となりました。

 

木造建築物の耐用年数は22年間ですから、一年間に減価償却費として計上できる金額は「2,200万円÷22年間=100万円」となります。100万円の家賃収入に対し100万円の経費。この時点で不動産所得はゼロとなり、これに掛かる所得税もゼロとなります。

 

さらに固定資産税や火災保険料、不動産業者への手数料などの実際に出て行くお金は経費として計上出来ますから、この分は不動産所得がマイナスとなり他の所得から差し引くことができます。

 

結果として家賃収入に所得税がかからないだけでなく、他の収入に対する所得税も圧縮することができるのです。

 

これが「減価償却」の凄さです。


節税目的の不動産投資はダメ!

そのせいか、特に高収入のために税負担が重い人が「減価償却」を目的として不動産投資を始めることがあります。あるいは、節税を切り口に収益用物件の購入を勧める不動産業者も少なくありません。

 

ただし、これはかなり危険な考え方です。生兵法で挑むとそれこそ大怪我の元になってしまいます

 

ここまでこのコラムを読んた人ならお分かりでしょう。減価償却を用いた節税は確かに効果的なものではありますが、いつまでも続くわけではないのです。そうです、全ての固定資産には予め「耐用年数」が決められているからです。

 

上記の計算例では分かりやすくするために触れませんでしたが、実は建物の減価償却は「建物本体」と「設備」に分けて計算されます。その設備も工事見積りを元に細分化されますが、その耐用年数は建物本体より短く、最長でも15年程度です。

 

このことはつまり、設備の耐用年数が経過するたびに「減価償却費は減っていく」こと、さらに建物本体の耐用年数が過ぎてしまえば「減価償却費そのものがなくなってしまう」ことを意味しているのです。

 

減価償却費がなくなれば、たとえ家賃収入がずっと変わらなくても税負担が増加します。家賃収入から差し引ける経費が減っていくからです。

 

この構造を理解しておかないと、「節税目的に収益不物件を購入しても、効果があるのは最初の数年だけだった…」という結果になりかねません。


「減価償却」の出口戦略を考えよう!

不動産投資において非常に大きな武器となる「減価償却」。

 

しかし、「減価償却」はその意味と使い方をしっかり理解しておかないと自分自身を傷つけることにもなりかねない、いわば「諸刃の剣」でもあります。

 

繰り返しになりますが、減価償却は「耐用年数」という“賞味期限”がある考え方です。減価償却をうまく利用するのであれば、賞味期限を見据えたうえで予めその出口戦略も用意しておかなくてはなりません

 

不動産投資において本当に大事なのは、長期的なスパンで考えた事業計画です。購入当初数年間の節税効果だけに着目するのではなく、「減価償却」の考え方もその事業計画の一部としてしっかりと理解しておくべきでしょう。


(2023/04/19改訂 文責:佐野純一)

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