不動産投資って本当に節税効果があるの?

「なぜ不動産投資を始めようと思ったのですか?」

 

不動産投資のご相談にいらした方に、私が一番初めにする質問です。お客様の目的を知り、その達成に最適な方法が本当に不動産投資なのかどうかを考える。私のコンサルティングはこんなところからスタートします。

 

この質問をすると、稀に「節税目的で」と答える方がいらっしゃいます。

 

おそらく不動産業者のセールストークの影響を受けているのでしょうが、ここは慎重に考えていただきたいところ。このように節税目的で不動産投資を始めた方が、実は結果として損をするというケースは結構あるものだからです。

 

なぜそんなことが起こるのでしょうか?

 

今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が不動産投資における「節税効果のウソ」を解説します。


節税のカラクリは「総合課税」にあり

そもそもなぜ不動産投資は節税になるのでしょうか? その仕組みを簡単におさらいしておきましょう。

 

節税効果のポイントは二つです。

  1. 不動産所得が総合課税であること
  2. 不動産所得は帳簿上マイナスになりやすいこと

順を追ってご説明しましょう。

 

税法上「所得税」には10種類ありますが、この10種類はまとめて税金を計算する「総合課税」とそれぞれ個別に税金を計算する「分離課税」に大別できます

 

不動産所得は「総合課税」の仲間ですから、もし不動産所得がマイナスであれば他の給与所得や事業所得と相殺することで全体の所得税を減らすことができます

 

これが「総合課税」の基本的な仕組みです。

 

しかも所得税は課税対象額が多くなればなるほど税率が上がっていく「超過累進税率」を採用していますから、他の所得が大きい人ほどその節税効果は大きくなります。

 

例えば不動産所得で100万円のマイナスがあった場合、他に300万円の給与所得がある人であれば節税効果は10万円程度に過ぎませんが、1,500万円の給与所得の人のケースでは33万円ほどの節税効果が見込めます。

 

収益物件を取り扱う不動産業者がある程度の年収がある人をターゲットにするのは、こういったアピールポイントがあるからです。


そもそも賃貸経営が赤字ではお話にならない

次に、どんな場合に不動産所得がマイナスになるのかを考えてみましょう。

 

まず思いつくのが、空室が続き十分な家賃収入が得られないケースでしょう。いわゆる赤字経営ですから、当然不動産所得はマイナスになります。

 

この場合も、もちろん他の所得と合算すれば節税効果は期待できますが、そもそもが赤字経営では意味がありません。節税で浮いたお金以上の金額が「損失」として財布から出て行くことになるからです。

 

ですから、不動産投資で節税を実現させるためには、「実際のお金の出入りはマイナスになっていないが、帳簿上で不動産所得がマイナスになる」という状況を作り出す必要があります。

 

ここでポイントとなってくるのが、不動産投資の特徴でもある「減価償却費」です。

 

減価償却の詳しい説明は他のコラムに譲りますが、この「減価償却費」の特性を上手く利用することで、実際にキャッシュフローが増えているのに「帳簿上」は赤字にすることができるのです。

 

手元に現金が残る上、他の所得の税金は圧縮できるわけですから、これほどオイシイ話はありません。不動産業者がセールスポイントとして節税効果を声高に謳うのも、そう考えれば不思議ではないのです。


減価償却は「諸刃の剣」!

ただし、この「減価償却費」には賞味期限があります

 

建物の構造や築年数によって経費として計上できる金額の計算方法は違いますが、ここでは一つ端的な例を挙げてみましょう。

 

ある人が築25年の木造アパートを購入したとします。この場合、木造の耐用年数(減価償却費を計算する基準となる年数)である22年を過ぎていますので、通常で考えれば建物の減価償却費は「ゼロ」となります。

 

しかし実際には、このようなケースで耐用年数の20%に相当する期間で減価償却費を計上することが税法上認められています。木造ですと「22年間×20%=4.4年間→4年間(端数切捨て)」の減価償却が認められているということになります。

 

仮に購入したアパートの建物価格が2,000万円だった場合、「2,000万円÷4年間」で1年間になんと500万円もの減価償却費が計上できるのです。

 

減価償却費とは実際には出て行かないお金ですから、これだけの経費を計上できればキャッシュフローをプラスにしながら帳簿上は不動産所得をマイナスにすることが可能となります。その分、他の所得に対する大きな節税効果が期待できるでしょう。


償却期間が終わったらどうなる?

ところが、冷静に考えてみればこの効果はたった4年間しか続きません

 

減価償却できる期間が終わってしまえば不動産所得を帳簿上マイナスにすることは難しく、逆に総合課税として不動産所得からも所得税をとられることになります

 

先ほども触れたように所得税は「超過累進税率」ですから、他の所得が高い人ほど家賃収入に対する税負担は重く、借入金の状況によっては所得税のせいでキャッシュフローがマイナスになることもあり得ます。それどころか、キャッシュフローが既にマイナスなのにその上に所得税の追い打ちをかけられる可能性だって考えられるのです。

 

つまり、減価償却費に活用した節税は他の所得が高い人ほど大きな効果を得られますが、その反面、賞味期限が切れるとそのまま裏返しとなって大きな負担となる可能性があるということになります。その結果、初めの数年間こそ大きな節税効果を得られたものの、その後の税負担増加で結局節税した分は帳消しになったという話は珍しくありません。

 

さらにそこからキャッシュフローのマイナスが続くようであれば、結果的には追加で資金を持ち出すことになってしまうでしょう。


節税狙いで不動産投資をするべからず!

しばしば収益物件を取り扱う不動産業者は、高所得者をターゲットに「節税効果」を謳ったセミナーを開きます。

 

ご説明したように短期的な数字で見せれば節税効果をアピールしやすいのもその理由ですが、私は彼らの本当の目論見は別のところにあるでしょう。

 

それは、高所得者であれば自己資金を持っている場合も多く、さらに金融機関からの借り入れも比較的容易という点です。

 

不動産を売るのが不動産業者の商売ですから、実際に不動産を買えない人を彼らは相手にしません。言葉は悪いですが、節税効果で釣れる高所得者は彼らにとって「良いカモ」なのです

 

少し厳しいようですが、私は節税目的ならば不動産投資はやめたほうが良いと思っています。始めの数年はその効果が見込めても、出口戦略をしっかり考えておかないと結局は損をすることになるからです。

 

節税以外にも「不動産投資は生命保険の代わりになります!」というセールストークもありますが、賃貸経営とはあくまで家賃収入を稼ぐことが目的のはず。節税や保険代わりといった“オマケ”にばかり目を向けても良い結果を望むべくもありません

 

大事なのは、その賃貸経営が「事業として成り立つか否か」

 

私の口癖ですが、「賃貸経営はマラソンのようなもの」。目先の効果ばかりに目を奪われず、長いスパンで収支計画を練ることが大切です。


(2023/11/01改訂 文責:佐野純一)

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