古いマンションを買っても本当に大丈夫?

最近テレビなどの報道で「マンションの寿命問題」をよく見聞きします。

 

建替えの議論が一向に進まない中で、ただ老朽化を待つだけの古いマンション。年々増え続ける空き家問題とも無関係ではなく、社会問題としてメディアに取り上げられることも多くなってきました。

 

一方で、古いマンションの一室をフルリフォームする、いわゆる「リノベーション」産業が盛り上がりを見せています。築古のマンションを安価で購入して自分の好きなように作り変えられることから注目を集めている業界ですが、購入を検討している人からはマンション自体の寿命を不安視する声があがることも少なくありません。

 

「実際のところマンションの寿命ってどうなの?」

 

この質問は誰にすれば良いのでしょうか?

 

もちろん、不動産の販売を目的としている不動産業者ではありません。新築マンション業者なら自社商品を売りたいために「中古だと死ぬまで住めないですよ」と言います。反対にリノベーション業者は仕事受注のために「100年は大丈夫です」と主張するでしょう。

 

それでは、不動産を売るのが仕事ではない「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)がこの問題に答えたらどうなるのでしょうか。

 

今回のコラムで取り上げるのは、住宅購入を検討している人であれば誰もが気になる「マンションの寿命」。これは日本社会が抱える「もう一つの高齢化問題」です。


マンションの寿命はどうやって決まる?

そもそも「マンションの寿命」とはどうやって決まるのでしょうか。

 

内装だけであればリノベーション業者が謳うようにすっかり新しくすることが可能です。肝心なのはそれを覆う外側の問題です。

 

この外側の鉄筋コンクリート部分のことを「躯体(くたい)」と呼びます。マンションの寿命とは、結局「この躯体がどのくらい持つのか」で決まってくると言えるでしょう。

 

1990年代くらいまでは、一般的に「マンションの寿命は60年」というのが定説でした。

 

鉄筋同士を溶接した骨組みの周りにコンクリートを流し込んで作られる鉄筋コンクリート造(RC造)のマンション。言わば鉄筋をコンクリートで覆って保護しているわけですが、このコンクリートは長い間雨風にさらされることで徐々に削られていきます。目に見えるようなスピードではありませんが、それでも年々確実にコンクリートは痩せ衰えていくわけです。

 

鉄筋を覆うコンクリートの厚さのことを「かぶり厚さ」と言い、建築基準法で厚さの最低値が決められています。もし最低値のかぶり厚さだった場合、劣化で鉄筋がむき出しになるまでの時間は「60年程度」と試算されていました。むき出しになった鉄筋は風雨によってさびてしまいますから、建物としてはそこで寿命を迎えることになります。

 

これが「60年説」の根拠です。

 

2000年代に入ってからはコンクリートの品質改良が進み、計算上の劣化速度も遅くなってきました。新築マンションの広告などで「100年コンクリート」といったキャッチフレーズを目にした人もいるでしょう。それだけ鉄筋を保護しているコンクリートが丈夫になってきており、その結果マンションの寿命も延びたと言われています。


データが物語る驚きのマンション平均寿命!

それでは「最近のマンションの寿命は最低でも60年以上なのか」と言えば、残念ながら答えは「?」です。

 

不動産専門の情報サービス会社である東京カンテイが2022年に発表したデータによると、全国のマンション建替事例276件の建築年数の平均はなんと40.3年。60年の約2/3という驚くべき数字になっています。

 

もちろん調査事例の中には築40年以上の建替られていない物件は含まれていませんから、マンション寿命という意味ではもう少し数字が伸びるでしょう。それにしてもコンクリートの耐久力から導き出した60年には程遠い数字です。

 

誤解のないように申しあげておきますが、このデータは「すべてのマンションが40年程度しか保たない」ということを示しているわけではありません。ただ、「適切な管理をしないとマンションの寿命は大幅に短くなる」、言い方を変えれば、「ただ放っておいただけではマンションは資産価値を維持できない」という事実を示唆しているのです。

 

短い寿命を終えたマンションは、なぜそのような事態になってしまったのでしょうか。それを知る鍵は「鉄筋コンクリート劣化のメカニズム」にあります。


鉄筋コンクリートが劣化する原因とは?

先ほどのかぶり厚さの話からも分かるように、マンションの躯体を支えているのは外側のコンクリートではなく、内側に組み込まれた鉄筋です。「躯体の劣化」とは即ち「鉄筋の劣化」に他になりません

 

街を歩くと、マンションの外側を足場で覆い何らかの作業をしている光景によく出くわします。あの作業は大体12〜15年程度の周期で行われる「大規模修繕」と呼ばれるものですが、あれほど大掛かりな作業にも関わらず、なぜ必要なのかを知っている人はあまり多くありません。

 

大規模修繕にはいくつかの目的がありますが、なかでも「クラック」と呼ばれるコンクリートのヒビを塞ぐことが重要となります。

 

常に外気にさらされているコンクリートは、夏は熱い日差しを受けて膨張し、逆に冬は冷たい空気で収縮します。一見頑丈そうに見えるコンクリートも伸縮を繰り返すことで劣化が進み、それが「クラック」という形で現れます

 

一度クラックができてしまうと、そこから雨水が侵入し中の鉄筋を錆びさせてしまいます。錆びた鉄筋は急速に強度を失い、ひどい時には外側のコンクリートの重みに耐え切れず壁や柱が剥がれ落ちてしまうこともあります。

 

大規模修繕はクラックが鉄筋に達する前に塞ぐ大切な作業であり、裏を返せばこれは、クラックの処理をきちんとしているかどうかでマンションの寿命は大きく変わってくるということを意味しています。いくらかぶり厚さが大丈夫だとしても、中の鉄筋が錆びてしまったら躯体がもたないからです。


「マンションは管理を買え!」と言われる理由

中古物件を探す時、良心的な不動産業者であれば「マンションは管理を買え!」と言ってくれます。

 

いくら他の条件が良かったとしても管理状態が良くなければ、そのマンションは長くはもちません。最悪の場合、住宅ローン返済中にマンションの寿命が来てしまうことだってあり得るのです。

 

実はそのようなマンションはそれほど珍しい存在ではありません。私が実際に目にした例でも、管理がうまくされていない物件が「格安」で売られていたことがありました。

 

マンションの価格だけを見れば、そのエリアとしては「掘り出し物」に思えたその物件。しかしながら、よくよく調べてみると修繕積立金の運営がまったくできていなく、とうの昔に行っていなければいけない大規模修繕もできていない状態であることが分かりました。

 

購入価格がいくら格安でも、これでは後々になって大きな支出を強いられるのは目に見えています。結局は「安物買いの銭失い」になってしまうでしょう。

 

ここまで極端な例ではなくても、1970年代までのいわゆる「高度成長期」に大量に建てられたマンションの中には、現在ほど管理に対して意識が高くない物件は少なくありません。立地や間取りももちろん大事ですが、中古マンションを購入するのであれば管理の面にも意識を向けることはとても重要です。

 

「戸建てか? マンションか?」は住宅購入の永遠のテーマの一つと言われますが、特に中古マンションの場合は物件ごとに管理面でのランニングコストに差が出やすいので、住宅予算を決める際にはその点にも考慮が必要となります。


大事なのは見た目よりも「器」

私も不動産関係のご相談が多いFPとして、商売柄いろいろなリノベーション会社の人と会う機会があります。しかし、全体として「器(=躯体)の議論が深まっていないなぁ」という印象を強く持ちます。

 

少し意地悪な言い方をすれば、リノベーション業界全体として目に見える“表面”をキレイに取り繕うことに意識がいきすぎていて、肝心の“器”の話がおざなりにされているような気がします。

 

もちろん住む人にとっても見た目がキレイなことは大事です。ただし、せっかく大きなお金をかけてリノベーションしてもそれを入れる器自体が壊れてしまっては元も子もありません

 

リノベーション会社の中には、中古マンションの購入とリノベーションをセットで行うところもあります。そうなるとその業者は物件を販売することが目的となりますから、購入希望者に対し常に「マンションの寿命」についての客観的な説明ができるとは限りません。

 

大切なのは、あなた自身がマンション劣化のメカニズムを理解して、その物件の状態を判断すること。近頃では建物検査(インスペクション)を専門に行う会社もありますから、中古物件の購入を検討している場合はそうした「物件を販売しない第三者の視点」を活用しても良いでしょう。


(2024/03/20改訂 文責:佐野純一)

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