「マイホームの適正価格」って本当はいくら?

「マンションギャラリーに行ったら予算に太鼓判を押されましたが、本当に大丈夫でしょうか?」

 

「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)としてこんな質問を受けることがあります。あるいは、「今度家を買おうと思っていますが、自分たちが無理なく買える住宅予算ってどのくらいですか?」などというのも、かなりの割合を占めるご相談です。

 

“人生で一番大きな買い物”と言われる住宅。

 

しかしながらその予算の考え方はとても難しく、確たる根拠もないままなんとなくのイメージで金額を決めてしまっている人も多いのが現状です。だからこそFPのところに上記のような相談が持ち込まれるのでしょう。

 

それでは、実際にこんなご相談を受けた時、FPはコンサルタントとしてどうやって答えを導き出すのでしょうか?

 

今回のコラムでは、そんな「“お金の相談”の専門家」ならではの住宅予算決定のメソッドを大公開します!


まず最初に「住宅予算」を決めよう!

まず、気をつけたいのが「予算を決めるタイミング」です。

 

家探しをどこから手をつけるかは人それぞれですが、予算の検討から入る人はあまり多くはないようです。

 

むしろ「めぼしい物件が見つかったので予算を確認したくて来ました」という方が多く、中には「明日契約なんですが、直前になって急に不安になりました…」とおっしゃる方も。どちらかと言えば、「家を探し始める前に予算を決めたいと思って…」というご家庭は少数派と言えるでしょう。

 

しかしながら、FPとしてはなるべく早い段階で予算の目安を決めることをオススメしています。極論すれば、「住宅予算を決めてから物件を探し始めるのがベスト」と断言しても良いと思います。

 

なぜなら、予算を早めに決めておかないとそれまで家探しに費やしてきた苦労や時間が無駄になる可能性があるからです。


家探しの苦労が無駄になることも…

実際に自分で住宅購入を検討した人は口を揃えてこう言います、「家探しは相当な重労働」だと。

 

毎週末のように休日を物件の内見に費やしますから、時間的にも体力的にもかなりの消耗を強いられます。そんな状態が短くても数ヶ月、長ければ1年以上も続くわけですから、住宅探しのゴールが見えてくるころにはもうヘトヘトになってしまうのは当然です。

 

そうまでしてやっとの思いで探しあてた物件が、契約直前に実は“予算オーバー”だと分かったらどうでしょうか?

 

それまでの努力が水の泡となるだけでなく、予算を変更してまた一から物件探しを行わなくてはなりません。最悪の場合、モチベーションが途切れて住宅購入を断念したなどという例もあります。

 

そうならないためにはどうすれば良いでしょうか? そうです、始めから「予算ありき」で住宅を探していれば、そんな事態には陥らないはずです。

 

もちろん、物件が決まらなければ最終的な住宅価格は分かりません。それでも、初期の段階でおおよその住宅予算を決めておくことは、“あなたにとって”良い物件に巡り合うための大事な準備なのです。


答えは「ライフプラン」の中にある!

さて、それではFPがどうやって住宅予算を決めるかと言えば、その答えは「ライフプラン」です。

 

「ライフプラン」とは、言ってみれば“人生の予算書”のようなもの。これからの収入と支出を細かくシミュレーションすることで、その人の人生におけるお金の流れを設計します。

 

当たり前の話ですが、人生で使うお金は住宅だけではありません。住宅資金と合わせ「人生の三大資金」と言われる教育資金や老後資金を始め、生活していれば日々お金は出て行くものです。

 

例え現在の年収が同じだとしても、そのご家庭の家族構成やライフスタイルによってこれからのお金の流れは大きく変わってきます。ライフプランでは単年の収支を見るだけでなく、それを20年、30年と重ねていくことで、最終的にその家庭の貯蓄がどうなっていくかを検証します

 

ライフプランの役割はただ予想するだけではありません。むしろ、「早いうちから問題を察知することで、それに対応する時間的余裕を作ることができる」というのが大きなメリットです。

 

住宅予算もそれ単体で考えるのではなく、「ライフプラン」という大きな枠組みの中で包括的に判断する必要があります。確かに住宅は“人生で一番大きな買い物”かもしれませんが、それでもライフプランを構成する数多くの要素のうちのたった一つに過ぎないからです。

 

もし、なんとか住宅ローンを払い終えたとしても自分たちの老後資金が残っていないようでは、やはりそれは「適正な住宅予算」とは言えないでしょう。


マンションギャラリーの「大丈夫」は大丈夫じゃない

実際にライフプランを作って検証した結果、契約を考えていた物件が残念ながら予算オーバーとなってしまうこともあります。

 

そんな時、ご相談者から「マンションギャラリーでは全然大丈夫って言われたのに〜!」というセリフが飛び出すことも珍しくありません。

 

ご相談者にとっては意外かもしれませんが、私から言わせればこれはむしろ当たり前の結果です。マンションギャラリーで言われる「大丈夫」とFPの「大丈夫」では、その意味合いが全く異なるからです。

 

マンションギャラリーでの「大丈夫」は、「大丈夫です。住宅ローンを組めますよ」という意味です。

 

住宅ローンの審査では、年間のローン返済額が年収の一定割合以下に収まっていること(これを「返済比率」呼びます)が融資可能の条件となります。簡単に言えば、その方の年収から「この人にはいくらまで貸せる」という限度額を決めるのです。

 

マンションギャラリーでは、この基準をクリアできることを「大丈夫」と表現しているに過ぎません。もちろん固定資産税等の維持費も考慮されていないわけですから、ライフプランから導きだした住宅予算とはギャップが出るのは当然と言ってもいいでしょう。

 

私の経験上、この「返済比率ギリギリまで住宅ローンを組む」というケースでは、将来的にライフプランが厳しくなってくる可能性が高いと考えられます。

 

その結果、「ローンを借りられたのはいいけれど、後になって返済の負担が重くなってきた…」という例は枚挙に暇ありません。最悪の場合、住宅ローンを返済できずにせっかくのマイホームを手放さなければならなくなることもあるでしょう。

 

マンションギャラリーの担当者(これがFPを名乗っていることが多いので厄介なのですが-苦笑)は、購入者の「ライフプラン」など気にもしません。彼らの仕事は、購入希望者の中から「ローンが組めない人」をふるい落とし、「ローンが組める人」の背中を強烈に押しすることです。それは彼らが誰に雇われているのかを考えれば明らかです。


「年収の5倍が目安」はウソ!

住宅予算の話をしていると、たまにご相談者から「“年収の5倍が目安”って聞いたんですが…」と言われることがあります。

 

この「年収5倍説」は一種の都市伝説のようなもので、私も何度かそうした内容の記事を読んだことがあります。しかしながら、「ライフプラン」という観点で考えればこの説がウソだということは容易に想像がつくはずです

 

確かに年収の5倍が適正金額の人もいるでしょう。でもそれはほんの一部。ライフプランを作って検討した結果、たまたまそうなっただけで全員が同じ答えになる訳ではありません。

 

前述のように、その家庭の家族構成やライフスタイルによっても住宅予算は変わってきますし、選ぶ物件が「マンションか、一戸建てか」によっても購入後のランニングコストが大きく変化します。特に管理費や修繕積立金などのマンションのランニングコストは継続的に家計の負担となるものですが、残念ながら購入前にその点に気付いている人はそう多くありません。

 

適正な住宅予算はまさに「その家庭によって違う」としか言いようがないものなのです。


重要なのは「働くことができる期間」

そんな中でも特に予算を決める要素として重要になってくるのが、「あとどのくらい“働ける期間”が残っているか」という点です。

 

一般的な住宅ローンは最長35年間で組むことができ、ローンを払い終わる年齢は79歳までと決められています。つまり、44歳までであれば最長の35年間で住宅ローンを組むことができるという計算になります。

 

とは言え、会社勤めの人であれば実際に働ける期間は65歳までがほとんどです。ローン自体は79歳まで組めたとしても、その返済原資となる給与収入が65歳で途絶えてしまえば、それ以降の負担は当然重くのしかかってくるわけです。

 

このことはすなわち「現在の年収が同じでも、30歳から住宅ローンを組む人と40歳からの人では適正住宅予算は同じなワケがない」ことを示しています。

 

その一方で、住宅ローン審査の返済比率は両者を同じ計算式で算出します。同じ年収であれば年齢に関係なく同じ金額の住宅ローンを組めますが、ローン期間中に得られる給与収入は同じではありません。働ける期間が10年短い分、40歳からローンを組む場合の方が後々苦しくなるのは自明の理と言えるでしょう。

 

こう考えれば「年収の5倍が目安」という説がいかにいい加減なものであるかがわかるはずです。繰り返しになりますが、住宅予算は他のお金の流れも含めて「ライフプラン」という大きな枠のなかで決めるべきものなのです。


最終的に予算を決めるのは「あなたの価値観」

「住宅予算をライフプランで決める」と言うと、もしかしたら数字ばかりの無味乾燥なイメージを持つ人もいるかもしれません。

 

しかし私はコンサルタントとして「最終的に住宅の適正予算は、その家庭の“価値観”で決まる」と思っています。

 

確かにライフプラン自体は収入と支出という数字だけで形成されています。しかし、入ってくるものにしろ出ていくものにしろ、そのお金の流れには必ずその家庭の価値観が反映されています

 

今の生活水準で無理なく購入できる住宅予算を検討するのも良いでしょう。逆にどうしても手に入れたい物件があるのであれば、その家を買うためにはどうすれば良いかをライフプラン上で考えても良いわけです。

 

これはどちらが正解ということではなく、その家庭の価値観で決まるものです。住宅購入でよくある「新築と中古、どちらがいいか?」という問題も含め、自分たちの住まいに対する優先順位をつけ、他の支出との兼ね合いを考えながら家の予算を決めれば良いのです。間違っても他人の財布を覗いてマイホームの適正価格を決めるような真似は慎むべきでしょう。

 

その意味で、本当に大事なのは「自分たちの価値観が反映されたライフプランを作ること」とも言えるかもしれません。その先に「あなたとっての最適な住宅予算」、そして「理想の住宅の形」がきっと見えてくるはずです。


(2024/03/06改訂 文責:佐野純一)

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