「ライフプラン」は問題解決の道標!

ファイナンシャルプランナー(FP)として“お金の相談”を受ける上で、「ライフプラン」という考え方は欠かせないものの一つと言えます。

 

一口に“お金の相談”と言っても、私のところにいらっしゃる方には何か決まったパターンがあるわけではありません。年代やご職業も様々ですし、なにより不安に思っていることや心配のタネも人それぞれです。

 

しかし、私はどんな方にも必ず一度は「ライフプラン」のお話をするようにしています。「ライフプラン」がある意味でファイナンシャルプランニング業務の基礎と言える存在だと考えているからです。

 

残念ながら、最近では保険や不動産営業の「販促ツール」として都合よく使われることも多いライフプランですが、そんな使われ方では到底その真価を発揮することはできません。

 

そこで今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」であるFPが、“モノを売らない”コンサルタントの立場から「ライフプラン」を解説します。


ライフプランは「未来の家計簿」

ライフプランとは、一言で言ってしまえば「未来の家計簿」です。これから先の人生において見込まれる「収入」と予想される「支出」を考慮して、今後の家計がどうなっていくのかをシミュレーションします。

 

ライフプランには様々な切り口がありますが、一番分かりやすいのは下記のような「キャッシュフロー表」でしょう。

 

キャッシュフロー表とは、その家庭の貯蓄額を時系列に表したものです。

 

例えば、今私が「あなたの貯金はいくらぐらいですか?」と伺ったら、大抵の方は自分の貯蓄額を答えられると思います。これが「1年後にはどのくらいになりそうですか?」と聞いても、なんとなくの金額は想像がつくでしょう。

 

しかし、10 年後の、あるいは20年後の貯蓄額を聞かれたらどうでしょうか? 即答できる人はなかなかいないはずです。

貯蓄できる額は家庭によって違う

たとえ同じ年収のご家庭でも、家族構成や支出の考え方が違えば毎年の貯蓄額は当然変わってきます。

 

また、同じご家庭でもお子様の成長や住宅の購入など将来的にライフスタイルが変化すれば、貯蓄額は大きくその影響を受けます。今年できた貯金と3年後にできる貯金が同じ金額であるとは限らないでしょう。

 

そう考えると「未来の貯蓄額」を予想するのはそれほど簡単なことではありません

 

そこでFPは各家庭の現状や今後の予定、そしてなにより「お金に対する考え方」を丹念に聞き取った上でシミュレーションを行います。年毎の家計の収支が予想できれば、それを積み重ねることで「未来の貯蓄額」を導き出すことができるからです。

 

これが「キャッシュフロー表」の考え方です。「ライフプラン」とはこのキャッシュフロー表を含む「将来の家計の考え方」と理解すれば良いでしょう。

 

ですから、「ライフプラン」は誰にでもあてはまるような一般論で考えるべきものではありません。“それぞれのご家庭専用のもの”を作成する必要があります

 

私もこれまでに数えきれないほどのライフプランを作ってきましたが、一つとして同じものは存在しません。人間一人一人の顔が違うように、「ライフプラン」はその人だけの特別なものなのです。


「ライフプラン」があなたにできること

では、この「ライフプラン」を使ってどのようなことができるのでしょうか? 言い換えれば、FPは「ライフプラン」をどのように使って相談に来た方の悩みを解決するのでしょうか

 

代表的な例をいくつかご紹介します。

 

@住宅予算を決める


FPのご相談で、一番多いのが住宅購入に関するご相談です。特に「自分たちに合った住宅予算はいくらなのか?」というご質問は非常によく受けます。

 

マンションギャラリーなどでも適正予算額の試算はしてくれますが、それはあくまでも「現在の年収でその金額の住宅ローンが組めるかどうか」のシミュレーション。「今後の生活がきちんと成り立つかどうか」「無理なく住宅ローンを返済していけるか」とはまったく別問題です。

 

FPは、ライフプランの要素の一つとして「住宅予算」を盛り込むことによって、本当の意味での「住宅予算適正額」を考えます。いくらローンを借りられたとしても、そのために他のことにお金を使えなくなってしまったり、キャッシュフロー表がマイナスになるようでは意味がないからです。

 

A生命保険を決める


FPが生命保険を考える時も、ライフプランを活用することが多くあります。生命保険を「ライフプランを守るためのツール」と考えているからです。

 

保険という“商品”を売りたいわけではないので、もしライフプランを守るために別のよい手立てがあるのであれば、なにも無理やり生命保険に入る必要はありません。逆に、その人のライフプランを守るのに一番効率的な手段が保険であれば、有効に活用すればよいだけです。

 

この考え方が、“モノを売らない”コンサルタントとしてのFPと、生命保険に入ること(=保険を売ること)を前提として商品の比較販売を行う保険ショップとの決定的な“差”となります。

 

ただし、「FP」と名乗っていても、ただ保険販売員がFP資格をもっているだけというケースは非常に多いのでご注意ください。

Bお金の使い方を決める


「収入が十分にあるのにお金が貯まらない」というご家庭もあります。

 

自由に使えるお金がある分だけ管理が甘くなってしまうケースも多いので、逆に「収入が十分にあるがゆえに貯まらない」という言い方もできるかもしれません。

 

貯金はもちろん大事ですが、とは言え「このお金使っていいのかな?」と思いながら生活するのも、それはそれで非常にストレスが溜まるものです。

 

そんな時、FPはお金を“色分け”してしまいます

 

貯蓄するべきお金は目的別(住宅・教育・老後など)に分けて、きちんと貯められるようにします。残ったお金は、これは「自由に使っていいお金」ですから、あなたの好きなようにどんどん使っちゃってください(笑)。

 

ただし、こうした“お金の色分け”もご家庭によってそれぞれ目的や金額は違うもの。その家庭専用の「ライフプラン」を通してお金の使い方の設計図を描くことができるのです。

 

C資産運用の方針を決める


資産運用において「リターン」と「リスク」は表裏一体です。そのことを意識せず、「投資の目的」を決めないまま始めてしまうと、目の前のリターンばかりを追い求めていつのまにか「リスクの深み」にはまる危険性があります

 

そもそも、資産運用のスタンスは人それぞれです。

 

いくらぐらいから始めれば良いのか。追加投資はするべきなのか。何年かけてどのくらいまで増やせばいいのか。

 

全ての人にあてはまる正解があるわけではありません。だからこそ、ライフプランはその人の「資産運用のゴール」を決めるのにも役立ちます。

 

あるいは、ライフブランでシミュレーションした結果、「運用をしない」という結論に達することもあるかもしれません。それであれば、人生において無用なリスク(=ブレ幅)を避けることができるはずです。

 

あなたの「資産運用のゴール」が決まれば、そのための手段は自ずと決まってきます

 

株式? 投資信託? 外貨? それとも不動産投資でしょうか?

 

数ある運用方法の中から「あなたに合った投資」をご提案できるのもライフプランの、そしてFPの大きな特長の一つです。

ライフプランの「劇的ビフォーアフター」

ライフプランについて、実際のご面談であった例をご紹介しましょう。

 

ご相談者は40代のご夫婦でした。現状の生活には特に大きな不安はないものの、来るべき「老後」についての心配があり、私の元に訪れたのです。

 

初めにヒアリングした内容で作った「キャッシュフロー表」は上のようなものでした。ご夫婦が心配する通り「老後資金」が不足することは、シミュレーション上でも明らかだったのです。

 

しかし、私のほうから改善すべき「3つのポイント」をご提案することで、下にようにキャッシュフロー表が変化することが分かりました。これにはご相談に来たご夫婦も大変驚かれていました。

 

このケースでの「3つのポイント」とは、以下の通りです。

  1. 生命保険の見直し
  2. 住宅の考え方
  3. 資産運用の考え方

簡単に言えば、「無駄な保険をやめて」「適正な予算の住宅を購入し」「手堅い資産運用を心がける」ようにしたわけですが、もちろん全てのご家庭にとってこれが正解とは限りません

 

繰り返しになりますが、「ライフプラン」とはその人だけの特別なもの。その解決方法も10人いれば10通りあるといっても過言ではないのです。

たかがシミュレーション されどシミュレーション

ご相談にこられた方にライフプランの説明をすると、「でも、それってただのシミュレーションでしょ?」という反応が返ってくることがあります。

 

まさにその通り。ライフプランは現状の数字から弾き出したシミュレーションに過ぎません。決して「未来の予言書」ではありませんから、いくら綿密に作ったとしても今後ライフプラン通りに進まないことも多々あるでしょう。

 

しかしながら、「だから作る意味がない」という意見には賛成しかねます。「ライフプランを作らない」ということは、お金に関して「人生をノープランで進む」のと同じことだからです。

 

長い長い人生。誰にでも「自分が思い描く人生」というものがあるはずです。

 

その「自分が思い描く人生」がゴールだとするならば、たとえ未来に変更が生じるものであったとしても、ライフプランという“人生の地図”があったほうがにゴールに近づけるのは間違いのないところでしょう。

 

誤解が多い点ですが、ライフプランはそれを作ること自体が目的ではありません。初めて作った時のシミュレーション結果で一喜一憂する類のものでは決してないのです。

 

本当に大事なのは、むしろそこから。ライフプランの本領とは「現時点での予測を立てた上で、その対策を立てること」に他なりません。

 

もし現状でキャッシュフローがマイナスになる時期があるのであれば、それをどう改善するか考えるべきでしょう。大きな問題がなかったとしても、人生をより良くできる可能性があるのならその方法を探究するべきです。


あなただけのライフプランを作ってみよう!

その意味では「ライフプランを作る」ということは、単に「スタート地点に立つ」という意味に過ぎません。

 

「まずは人生の基本方針を作った上で、今後に備えて改良を重ねていく」

 

それこそがライフプランがその効力を一番発揮する使い方です。事実、私のところには年に一度の健康診断のように定期的にライフプランの確認に訪れる方も多くいらっしゃいます。

 

もし今現在あなたがお金に関して漠然とした不安を抱えているのであれば、ぜひ一度“あなただけの”ライフプランを作ってみてください。ライフプランを作ることで「解決すべき課題」が明確になり、その課題はあなたに「次にすべきこと」を示してくれるでしょう。

 

それだけでもあなたのお金に対する不安は、大きく軽減されるはずです。それがファイナンシャルプランニング業務の基礎たる「ライフプラン」の本当の役割なのです。


(2023/07/12改訂 文責:佐野純一)

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