失敗例F 「黒字だからどんどんお金が貯まる…はずが」

例えば、「ずっと家賃収入がローン返済額を上回っている」としましょう。

 

例えば、「空室期間が全くなく、毎月きちんと家賃が入ってくる」としましょう。

 

大家にとってまさに夢のような状況ですが、このような状態でも不動産投資に失敗することがあると言ったら、あなたは驚かれるでしょうか。

 

具体的にどんな危険があるかと言えば、それは「手元からお金が出ていってしまう可能性」です。

 

こう聞くと、「ずっとローン以上の家賃が入ってくるのに収支がマイナスになるわけがない」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 

そんな方はぜひ思い出していただきたいのです。どんな形であれ、収入があった場合は必ず納税の義務があることを。

 

不動産投資や賃貸経営を行う以上、税金から逃れることはできません。しかし、この税金の知識がないがために、不動産投資に失敗する方は実は非常に多いのです。


まずは所得税の基本から

まずは、所得税の基本を押さえましょう。

 

部屋を貸すことで得られるいわゆる「家賃収入」は、所得税の分類としては「不動産所得」になります。この「不動産所得」について押さえるべきポイントは2点です。

 

一つ目はその計算の仕方です。間違いやすい点ですが、「家賃収入=不動産所得」ではありません

 

課税の対象となる「所得」とは、収入から経費を引いて求めることになっていますから、家賃収入から固定資産税や管理費用などの経費を引いた残りが「不動産所得」となります。

 

通常であればなんらかの経費は発生しているはずですから、「家賃収入>不動産所得」となるのが一般的です。

 

二つ目は不動産所得は「総合課税」という点です。「総合課税」とは他の所得と合算されて課税される所得で、不動産所得の他に給与所得や事業所得等がそれに該当します。

 

ご存知の通り、所得税は「超過累進税率」ですから、合算された所得の額が大きいほど税負担が重くなります。簡単に言えば、不動産以外の所得が多い人ほど、家賃収入の中から多くの税金を支払うことになるわけです。

 

このことはつまり、たとえ家賃収入の金額が同じだったとしても、そこから引かれる経費やその人の他の所得状況によって、実際の手取り金額は大きく変わってしまうということを意味しています。

 

これが家賃収入の大きな特徴です。


まさか!? 経費が減っていく?

そう考えると、いかに手元に多くのお金を残すかのポイントは「不動産所得をいかに減らすか」という点に集約されます。あるいは、「税負担をどれだけ回避するか」と言い換えても良いかもしれません。

 

特に他の所得が多い人にとっては、この点が上手くクリアしないと家賃収入から手元に残るお金が極端に減ってしまうため、不動産投資をやる意味そのものが損なわれると言っても過言ではないでしょう。

 

とは言え、税金を減らすために家賃収入そのものを減らしては元も子もありませんから、節税のためにはいかに不動産収入から引ける「経費」を多く計上できるかが大事になってきます。

 

ところが、賃貸経営においては年数を重ねるにつれて経費は減る方向にあります。普通に考えれば、時間が経てば建物の老朽化も進んで修繕費もかさんできますから、経費は増えていっても良さそうです。

 

それなのに、なぜまったく逆の現象が起こるのでしょうか。

 

ここに「不動産投資独特のカラクリ」とも言える税金の考え方があります。

 

カラクリ@ 「減価償却」


賃貸経営の経費が年々減っていく大きな原因が、「減価償却費」です。

 

減価償却とは「不動産等の固定資産は税務的に見ると徐々に価値を減らしていくものであり、その徐々に減っていく部分だけをその年の経費として認める」というものです。

 

平たく言えば、「何年かに渡って使うものは、その使用する期間に応じて分割して経費としましょう」という考え方ですが、この減価償却費は一般的に年々経費として計上できる金額が減っていきます

 

例えば、新築のアパートやマンションであれば、設備部分を細かく分けて減価償却費を計算します。設備の中には経費として認められる期間(税法上「耐用年数」と呼ばれます)が4年のものもあれば15年のものあり、時が経つにつれて耐用年数が過ぎた設備から経費計上できなくなってしまいます。

 

また、中古アパートなどでは構造によって建物自体の耐用年数が数年で終わってしまうこともあり、その場合は大きな金額の経費を失うことになります。

 

面白いのが、「減価償却費」という経費はあくまで帳簿上のもので、実際にお金がでていくわけではないいう点です。

 

ですから、体感としてはなにも変わらないように思えるのですが、実際には「年々計上できる経費が減っていく」、つまり「年々税金が高くなっていく仕組みになっている」のが、「減価償却費」の大きな特徴です。

 

カラクリA 「借入金の利息」


もう一つ、経費を減らしていくのが「アパートローンの利息部分」です。

 

アパートローンを組む場合、ほとんどの方が「元利均等払い」を選びます。これは金利が変わらなければ、毎月返済している金額が同額という返し方ですが、実は返している金額が同じでもその内訳は毎月変化していきます

 

と言うのも、毎月の返済額は「元金+利息」の合計額なのですが、元利均等払いの場合、回数を重ねることに利息部分が減っていき、逆に元金部分が多くなっていく構造になっているのです。

 

不動産所得の「経費」として考えた場合、利息部分は経費計上できますが、元金の部分は経費として認められません。実際に出て行くお金を経費にできないのはおかしな感じもしますが、よく考えれば元々は借りていたお金をただ返すだけですから、経費とならないのは仕方のないところです。

 

毎月返済している金額が同じなので意識しにくいのですが、先ほどの「減価償却費」と同じく、「アパートローンの利息」という経費も実は年々減っていってしまうのです。


本当に怖いのは、「元金」の取り扱い

賃貸経営という事業を行う上で、ただ「経費」が減っていくだけであればそれほど神経質になる必要はありません。もし税金が増えたとしても、その分を稼いだ中から払えば良いだけの話です。

 

不動産投資において本当に怖いのは、アパートローンの「元金部分」の取り扱いです。

 

前述の通り、ローンの元金部分は経費として認められません。減価償却費と逆に、「実際にお金が出ていっているのに経費計上できないお金」となります。そして、アパートローンが元利均等払いであれば、それはその「経費計上できない出費」が年々増えていくことに他なりません。

 

ということは、たとえ月々の家賃収入がローン返済額を上回っていたとしても、経費計上できる金額が減少して帳簿上黒字となれば、新たに税負担が発生することが考えられるのです。

 

言い方を変えれば、無事にローンは返済していても所得税を納めると全体のキャッシュフローがマイナスになる事態が起こりうるというわけです。

 

「ローン返済だけで手一杯なのに、その上税金も持っていかれるなんておかしいじゃないか!」と思われる方もいるかもしれません。

 

しかしながら、帳簿上黒字であるならば、所得税は必ず発生します。たとえキャッシュフローがマイナスだとしても、税務署には関係ありません。手元にお金が残ってなくても、税金が免除になるわけでは決してないのです。


賃貸経営はマラソンのようなもの

こうした事態は、特に家賃収入とローン返済額の差額が少ないと起こりやすくなっています。始めのうちは減価償却費が大きく税負担がなかったものが、途中から所得税が発生し収支を圧迫するようなケースが多いからです。

 

そうした事態を避けるためには、常にキャッシュフローをプラスに保つための様々な工夫が必要となります。私が口癖のように「賃貸経営は“不労所得”ではない!」と言うのは、常にこうした努力を惜しまないようにしていないと大家として成功できないからです。

 

少し夢のない表現かも知れませんが、私は相談に来られた方によく「賃貸経営は右肩下がりの商売」とお話ししています。建物が古くなるにつれて家賃収入が減少することはもちろんですが、このように税負担の増加により手元に残るお金が少なくなっていくことが多いという点は、不動産投資を始める前によく理解しておくべきでしょう。

 

賃貸経営は、言わば長い長いマラソンのようなもの

 

物件を売りたいだけの不動産業者は一番良い部分のみをクローズアップしてセールストークを展開します。しかしながら、不動産投資の成功には長期的視点が不可欠ですから、くれぐれも初期段階の収支だけで判断するのはやめていただきたいと思います。