
「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、「iDeCo(イデコ)」をわかりやすく解説するコラムの後編です。
前回の「iDeCoが注目されるワケ(前編) 〜メリットとデメリットからその本質を探る〜」では、iDeCoが誕生した理由とそのメリットデメリットについてお話ししました。
≪iDeCoのメリット≫
・運用益が非課税となる。
・掛金が全額所得控除になる→所得税や住民税が安くなる。
≪iDeCoのデメリット≫
・原則として60歳まで掛金を引き出せない。
・自己の責任において資産運用をしなければならない。
後編の今回は、iDeCoの本質を探りながらその有効な活用方法を考えていきましょう。iDeCoの本質を知る鍵は上にあげた二つのデメリットにあります。

一つ目のデメリットは、「一度納めた掛金は原則として60歳になるまで引き出せない」です。このルールはなぜできたのでしょうか?
60歳まで引き出せないということは、60歳まで強制的に貯蓄をさせるという意味でもあります。そう、このルールの狙いは「強制的に老後資金を形成させる」ことにあるのです。
かつては当たり前のようにあった企業の退職金制度。労働者の手が届かない積立金は、まさに「強制的な老後資金の形成」に他なりません。まだ財源が確保できていた年金制度と合わせ、多くの人は特別に自分で準備しなくても勝手に老後資金が蓄えられている状況でした。
現在は違います。退職金制度がない企業も多く、国の年金制度はつぎはぎだらけ。2019年には「老後資金2000万円問題」が大きな話題となりましたが、老後経済的に破綻する人は今後増えてくることが予想されています。
経済的に破綻する人が増えれば、それはそのまま生活保護の利用拡大につながります。ただでさえ苦しい社会保障制度の台所事情。国としてもこれ以上負担を増やしたくないのは山々でしょう。
そこで節税を餌にiDeCoの掛金を60歳までロックすることで、強制的に老後資金を積み立てさせることにしたのです。
老後資金に対する意識は人それぞれですが、同じ1,000万円でも受け取る年齢によって感じ方は変わってくるはず。例えば、40歳の人が手元に1,000万円あれば住宅ローンや教育資金に使ってしまってもおかしくありませんが、それが60歳となれば“目の前に迫った老後”に少なからず意識が向くのは想像に難くありません。
つまり、国としては「将来的に負担となる社会保障料>iDeCoにおける税収減」と試算したわけで、それがiDeCoで掛金を60歳まで引き出せない本当の理由です。

もう一つの「運用の責任は自分にある」というデメリットには、国の「証券市場にもっと個人資産を投入させたい」という思いが透けてみえます。
日本の個人資産は現預金が占める割合が非常に高く、2024年度の調査では金融資産の約51%に上ります(出典:日本銀行「資金循環の日米欧比較」)。同時期のアメリカの平均が約12%ですから、これがいかに高い数字かが分かります。
国民に金融教育を行ってこなかったツケではあるものの、このことが日本経済停滞の大きな原因となっています。お金が銀行口座やタンスに眠っているだけでは経済は活性化しないからです。
そこで、国は人々の金融資産を投資に向けさせようと様々な対策を講じています。運用益が非課税になるNISA(ニーサ)がその代表的な例ですが、こちらも証券会社にNISA口座を開設したものの、実際には運用を行なっていない人が多数いるのが現状です。
投資に対する抵抗感の根底にあるのは、損をすることが「絶対悪」であるという概念です。これは「資産運用への恐怖心」と言ってもよく、「投資」と「ギャンブル」の区別がついていない人も少なくありません。
「増える可能性を一切排除してまでも減る危険性をなくす」というのは、多くの日本人の基本的なスタンスだと言えるでしょう。

そんな人たちを資産運用の舞台に引っ張り出すためにはどうすればいいか?
答えは簡単です。その人たちの「損」の基準を下げてあげれば良いのです。つまり、絶対とまではいかなくても「よほどのことがない限り損しないな」と思わせてあげれば良いわけです。
前回のコラムでご説明したように、iDeCoの掛け金には大きな所得控除がつきます。平均的な所得であれば、年間24万円の掛金で約8万円が節税できるようなイメージです。
ということは、24万円の掛金で購入した金融商品は実際には16万円しか払っていないことになり、もし大きく値が下がったとしても16万円までであれば実質上の損はないという計算が成り立ちます。
証券の価値が2/3まで落ちるという事態は「絶対にない」とは言えませんが、特殊な商品を選ばない限り「よほどのことがないと起きない」とは表現できるでしょう。
どうでしょうか? それならば資産運用を試してみてもいいと思いませんか?(笑)

こう書くと、もしかしたら現金至上主義の人が喜ぶかもしれません。iDeCoの金融商品として預金を選べば、16万円で24万円の貯金ができると考えることも可能だからです。
この点が一部で「iDeCoは絶対に損をしない運用」という伝えられ方をしているようですが、FPとしてはiDeCoの掛金を預金で運用するのは賛成できません。
くどいようですが、iDeCoの掛け金は60歳まで引き出せないというデメリットがあります。元本保証というだけで預金を選んでしまうと長い間のインフレリスクに耐えられずに、結果的に節税分を考慮しても実質目減りする可能性が否定できません。
金融商品としての預金のメリットは、何と言ってもその「流動性」のはず。iDeCoのシステムの中で流動性を損なった預金は、ある意味なんの取り柄もない金融資産となってしまいます。
むしろiDeCoを使えば「長期間に渡って継続的な積み立てを行う」というドルコスト平均法が実践して、自動的に時間的分散を図ることができます。運用初心者こそ、この利点を大いに活用するべきではないでしょうか。

いかがだったでしょうか。iDeCoをFPの視点から解説してみました。
端的に言えば、iDeCoは老後資金形成を目的とし、投資に消極的な国民に「節税した分は損になりませんから、資産運用をやってみましょうよ」と国が仕掛けたシステムです。最近よく「NISAか? iDeCoか?」といった記事を目にしますが、お互いの目的が異なっている以上、両者の比較は無意味でしょう。
大事なのは、そうした国の思惑をうまく利用して、積極的に自分自身の資産形成に取り組むことです。
個人的にはiDeCoはもっと評価されていいし、普及していい仕組みだと考えています。ただ残念ながら現状では「よく分からない」というイメージが先行し、一般に浸透するにはまだまだ時間がかかりそうです。
その原因はいくつか考えられますが、大きな要素の一つに「iDeCoにビジネス的な側面が少ない」という点が挙げられます。平たく言えば「iDeCoを他人に勧めても儲かる人が少ない」ということです。
歴史が示すように、なにか新しいものが社会に広まる時は、必ずその「新しい何か」で大儲けする人がいます。しかし、公的な仕組みであるiDeCoでは、どんなにがんばってもそうした大儲けできるような構造を作ることができません。
それでは、保険販売員はiDeCoの話をせず共通点のある変額保険しか勧めませんし、証券会社もより効率的に手数料を稼げる金融商品販売に注力するのは、ある意味当然のことなのでしょう。
そうした販売者の理屈で自分の資産形成があらぬ方向に持っていかれないように、自らの力で調べ考えることがあなたの資産運用、そしてあなたのライフプランにとって重要なのです。