「資産運用」や「投資」という言葉にあなたはどんな印象をお持ちでしょうか。
まったく興味がないという人はあまりいないかもしれません。しかし、一方で「怖い」とか「失敗したらどうしよう」といったネガティブなイメージを持っている人も多いでしょう。
資産運用の世界ではよく「9割の人が失敗する」と言われます。
“失敗”の定義も人それぞれですから、本当に9割の人が失敗するかどうかは分かりませんが、実際に投資の世界に足を踏み入れたものの、大なり小なりの損失を出して撤退する人が少なくないのも事実です。
実は、こうした「資産運用に失敗する人」には一つの共通点があるように思えます。この共通点は「投資初心者がやってしまいがちなミス」と言い換えてもいいかもしれません。
今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、金融商品を売らないコンサルタントの立場から、投資初心者が資産運用のスタート時点でつまづくその理由を解説します。
そもそもこれから投資を始めようとする人は、どんなきっかけで行動を起こすのでしょうか。
「今ある資産をもっと大きくしたい」
「銀行に預けておくだけじゃもったいない」
「手っ取り早く儲けたい」
「他人の成功談を聞いて真似しようと思った」
こんな理由で資産運用を始める人も多いかもしれません。
しかしながら、こうした動機で投資を始めた人は、その時点で既に致命的なミスを犯しています。
そのミスとは、自分が「なぜ資産運用をするのか」をきちんと考えもせずに、ゴールを決めないでにとりあえず船を漕ぎ出していることです。
例えば、どんな仕事でも同じだと思いますが、まずは目標やゴールがあるはずです。
予算や納期、そして品質等クリアしなくてはならない条件がいくつもある中で、その目標を達成するために様々な方法論を検討していくでしょう。
これは仕事以外の多くのことにも共通する、なにか行動する時の“正しい手順”だと思います。
ところが、なぜか資産運用の世界だけは圧倒的に方法論から入る人が多いのが現実です。
「不動産投資をやれば不労所得が得られるらしい」
「仮想通貨で資産があっという間に増えるらしい」
「あの投資信託がランキングの1位だ」
と言った具合に、その場の欲に駆られて流行り物に手を出す初心者が後を断ちませんが、これなどは自分の目標を決めずにとりあえず方法論だけに目がいってしまう典型的な例でしょう。
たとえビギナーズラックで一次的な利益が出たとしても、これでは後がつづきません。
なにしろ資産運用のゴールが設定されていないわけですから、自分がどこに向かえば良いのかもわからず、目先の情報に囚われて右往左往するだけなのです。
そんなやり方で継続的に利益を出し続けるのは不可能に近いですし、目的がわかっていない分、すこしでもうまくいかなくなると不安感ばかりが募ります。
最終的にどこまで我慢したら良いかも判断できないので、元手がマイナスになると気持ちが保たず投資の世界から撤退していくのでしょう。
資産運用を始めてみたものの、結局やめてしまった人の多くがこのパターンに当てはまると思います。
そうならないためにはどうすれば良いのか?
もし、あなたがこれから資産運用を始めようと考えているのであれば、必ず覚えておいて欲しいことが二つあります。
まず一つ目は「資産運用のゴールを決めることの重要性」です。
「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)であれば、資産運用を始める前にまずその人のライフプランを作成します。
ライフプランで人生における大きなお金の流れを掴むことで、「いくらの元手」を「いつまで」に「いくら」にすれは良いかの判断ができるからです。
先程の仕事の例であれば、これは「予算」と「納期」と「品質」を決める作業と言えるでしょう。実際にどんな資産運用をしていくべきかという「方法論」はそれからでも遅くありません。
どんな投資方法にも必ずメリットとデメリットがあります。いたずらに他人の真似をしても上手くいくはずもありません。
大切なのは、定めた投資目標を達成するために、「自分にとって一番良い資産運用の形はどれか」をよく考えることです。
二つ目の大切な点は「流行りものに乗ってはいけない」ということです。
言うまでもなく、投資とは自分の持っている資産を大きくするのが目的です。そのためには、どんな金融商品であれ、これから価値が上がるものを選ぶ必要があります。
ところが、今現在ブームになっているものや、いわゆる「人気商品」はその条件に当てはまりません。
「人気がある」ということは「それだけ買いたい人が多い」ということで、これは経済の原則から考れば明らかなように、その金額が上がっていることを意味しています。
現時点で既にブームとなっている商品は、当然価格も最高値に近い状態になっているわけで、売り時ではあっても決して買い時ではないのは誰の目にも明らかなはずです。
少し極端な言い方をすれば、ブームが来た金融商品を買うのであれば、その時点で「投資の負け」が確定していると言ってもいいでしょう。
資産運用初心者の9割が失敗するワケ。それは「目標を定めずに、ブームに乗っかって、方法論から入る人が多いから」と言えるのではないでしょうか。
誤解のないように申し上げますが、私はなにも「未経験者が投資をしてはいけない」と言っているわけではありません。
確かに日本ではまだまだ資産運用に対してアレルギー反応を持つ人も多いですが、ライフプランをコンサルティングの基本とするファイナンシャルプランナー(FP)としては、むしろ「人生の中には何らかの投資的要素が必要」と考えています。長い人生の中では貯蓄だけでは対応の難しい局面も十分に想定できるからです。
ただ、残念なのが、世の中には何の準備もしないまま“資産運用”という大海原に漕ぎ出す人が多いことです。
投資を始める前には、「ライフプラン」という全体的なお金の流れの中で投資的要素が占めるバランスを知ることが大切です。そして、その“適切なバランス”とは100人いれば100通りの答えがあるものでしょう。
まずは、資産運用で自分がなにを達成したいのか。
ゴールを明確に定めることが、失敗しない投資の第一歩なのです。