「借金も財産のうち」ってホント?

「借金」。

 

この言葉を耳にした時、あなたはどんな気持ちになるでしょうか?

 

もちろん、あまり良い感情を持つ人は少ないでしょう。「怖い」と感じたり、条件反射的に嫌悪感を持つ場合がほとんどだと思います。

 

しかしその一方で「借金も財産のうち」などという意見を持つ人たちもいます。特に不動産投資の世界では、「むしろお金は借りられるだけ借りたほうがいい」と主張するケースすらあります。

 

なぜ「借金」という言葉は、このような両極端のイメージを持つのでしょうか。

 

今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、「借金」の正体について考えてみたいと思います。


個人の「借金」には二種類ある

対象が個人ということで考えれば、「借金」は大きく二つの種類に分けられます

 

一つは、「少額の借金」です。

 

いわゆる消費者金融から借りるお金もそうですが、日頃我々が気軽に使うクレジットカードや、携帯電話本体の分割払いなども厳密にはこの仲間です。金額としては数万円からせいぜい数十万円で、返済期間も1ヶ月から長くても5年程度のものがほとんどでしょう。

 

もう一つが「まとまった借金」とでも言うべきもので、代表例が家を買うときに使う「住宅ローン」です。こちらは借入金額が数千万円から時には1億円を超えるものもあり、返済期間も最長35年まで用意されています。

 

前者は、言ってみれば「借りる人を選ばない借金」です。

 

一応審査はあるものの、その基準はそれほど厳しいものではなく、既に借金で首が回らないような人でなければ「誰でも借りられるお金」ということができるでしょう。その分だけ、借入額が少額に限られており、返済期間も短くなっています。

 

それに対して後者は「借りる人を選別する借金」です。

 

平たく言い直せば、「返済できそうな人にしか貸さないお金」ということになります。審査も厳密なものになる場合が多く、その分大きなお金を借りることができ、返済期間も長く設定されています。


「少額の借金」こそ“怖い”と感じてほしい!

ハッキリ言ってしまえば、「少額の借金」は財産でもなんでもありません

 

ただの「負債」、あるいはその場しのぎの「マイナスのお金」に過ぎないのです。

 

典型的な例がクレジットカードによる「リボ払い」でしょう。毎月の支払額を抑えるために借金を先延ばしにして、結果として多くの利息を払うことになるこの方法は、まさにその場しのぎの愚策という他ありません。

 

こうした借入に関しては、「怖い」という思いや嫌悪感があるのが当然で、むしろそうした負の感情を持てないのはかなりの危険信号と言えます。「大した金額じゃないから…」と油断しているうちに雪だるま式に借金が増え、気が付いた時には身動きがとれなくなってしまう可能性があるからです。

 

しかしながら、もう一方の「まとまった借金」については同じ借入金でも少し意味合いが変わってきます。

 

これは“資産”という言葉の本当の意味にも関わってくるところで、この点に関して深掘りするためには「実際にお金を借りられる人」がどんな人なのかを考えるのが近道でしょう。


「お金を借りられる人」ってどんな人?

「お金を借りられる人」として真っ先に思い浮かぶのが、「既にお金を持っている人」です。

 

極端なことを言えば、既に1億円の現金を持っている人が金融機関から5,000万円を借りるのはそれほど難しいことではありません。もし借りた5,000万円が無になったとしても、その人には借金を返済する余力があるわけですから。

 

また、手元に現金がなくても、不動産等のそれに代わる資産がある人も「お金を借りられる人」の仲間です。

 

そうした資産に金融機関が抵当権をつけておけば、返済が滞った場合もその資産を押収することで損失を抑えることができます。

 

現に住宅ローンがまとまったお金を長期間に渡って借り続けることができるのは、購入した自宅を担保として金融機関に差し出しているからに他なりません。簡単に言えば、銀行が「借金のカタ」を確保している状態になっているというわけです。

 

あるいは、これから一定期間の高収入が見込まれる場合もその人は「お金を借りられる人」に分類されるでしょう。

 

現状で手元に資産がなくても、今後のキャッシュフローの中で借金が返済ができると判断されれば、充分にまとまったお金を借りられる可能性が出てきます。


借金は「経済的な体力」の証明なのか?

つまり、「大きな借入をできる人」とはなんらかの形で「経済的な体力がある人」であり、裏を返せば、既に大きな借金があるということは、その人が「それ相応の財産を持っている証明」であるという考え方が成り立つわけです。

 

また、簿記の世界では借入金などの「マイナスの財産」を“負債”、実際に手元にある「プラスの財産」を“純資産”、そして両者を合わせたものを“資産”と呼びますから、「“負債”は“資産”の一部である」という主張もあながち間違いではありません

 

そうした点をもって「借金も財産のうち」という言葉が生まれてきたのだろうと推測されますが、個人的にはこの言葉はかなりの拡大解釈、あるいは恣意的に意味をねじ曲げられた文言のように感じます。

 

確かに既に大きな借入をしている人はそれに見合うだけの経済的体力をもっていることが多いでしょう。

 

しかし、そのことが借金を正当化する理由には到底なり得ません。借入金自体はどこまで行っても「マイナスのお金」でしかなく、それ自体が財産になることは決してないはずです。


「借りられるだけ借りる」がホントに正解?

私の専門である不動産投資の世界では「借金も財産のうち」という言葉を真に受けて、金融機関から借りられるだけお金を借りようとする人が多く見受けられます。

 

これは、不動産業者が借金を「レバレッジ効果」と言い換えて、なるべく消費者の心理的抵抗をなくそうとする動きも影響していて、中にはアパートローンという名の借金で「不労所得」を得ようと考える人までいます。

 

私は実際に大家業を営む者として「賃貸経営=不労所得」と考えたことはありませんが、もし本当に不動産投資で「不労所得」を得ようとするのであれば、かなりの割合で自己資金を投入しなければなりません。

 

例えば、家賃収入だけで子育て中の4人家族が暮らしていこうと考えるのであれば、時価1億円程度の一棟アパートを“借入金なしで”所有していても心許ないでしょう。

 

利回りが6%だとして、家賃収入が年間600万円。そこから各種経費や修繕費、そして税金を引かれたら家族4人の生活費として十分な額は残りません。一方で所有している物件は確実に老朽化していきますから、収益が増えていくことも考えづらい状況です。

 

つまり、現時点で1億円が手元にあったとしても、それだけで悠々自適な人生を送れるわけではない。これが不動産業者が口にしない真実なのです。


「借りればいい」という主張には矛盾がある

そんな話をすると今度は「アパートローンの額を増やして、もっとレバレッジ効果を高めればいい」などと主張する人もいます。

 

確かに、借入金を3億とか5億に増やした上でそれなりの利回りを確保できるのであれば、自己資金が少なくても家賃収入だけで暮らしていくことは理屈の上では可能かもしれません。

 

しかしながら、既に触れたように誰にでも3億や5億の借金ができるわけではなく、もともとまとまった資産を持っていなければそうした規模の借入自体が不可能です。

 

逆に考えれば、それだけの借入をできる経済的な体力があるのであれば、始めから自己資金を投入して借入額を圧縮すれば良いわけで、こうした「自己資金が足りなければその分借りればいい」という考え方には根本的な矛盾が含まれています。

 

賃貸経営において十分なキャッシュフローを生み出すためには自己資本比率を高めることが重要で、その意味でも現状で自己資金のない人が不動産投資で不労所得を得ようとするのは夢のまた夢でしかありません。

 

そんな甘い考えで不動産投資をスタートするのであれば、100%の確率で惨敗に終わるでしょう。


「借金」はただの“道具”に過ぎない!

結局のところ、「借金」とは単なる“道具”に過ぎません

 

それ自体が“善”でも“悪”でもなく、便利な道具ほど使い方によっては毒にも薬にもなるというだけのお話です。よく切れる包丁があれば便利ですが、使い方を誤れば怪我をしてしまうのと同じことでしょう。

 

せっかくの“便利な道具”なので、使わないともったいないという考え方も充分に成り立ちます。

 

ほとんどの人にとって住宅購入は住宅ローンという「借金」をすることで初めて実現可能になるわけで、人生にはそういった“借入を前提とした選択肢”も数多く存在します。

 

ただし、「借金」は便利な分だけ使い方を誤ると大きな害をなす存在であることも確かです。これは「借金」に限らず、世の中の全ての“道具”に当てはまることでしょう。

 

「借金」という道具をうまく使いこなすには、まずは自分の経済的体力を客観的に判断することが重要です。

 

便利なはずの「借金」が牙を剥いて襲いかかってこないようにするためには、自分の経済的な体力と照らし合わせながら「適切な借金の使い方」を心がけることが大切になってきます。


(2020/06/17 文責:佐野純一)

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