「ゼロサムゲーム」って知ってますか?

皆さんは「ゼロサムゲーム」という言葉をご存じでしょうか。

 

一般的には、「勝つか負けるか」といった、いわゆるギャンブル的なイメージが強い言葉かもしれません。そのため、あまり自分には関係ないと感じている人も少なくないでしょう。

 

しかしながら、このゼロサムゲームというキーワードはなにも賭け事のことだけを指すのではなく、実は資産運用とも密接に関係している考え方だったりします。

 

そこで今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」であるファイナンシャルプランナー(FP)と一緒にゼロサムゲームという言葉を通して「ギャンブルと投資の本質的な違い」、そして「証券運用では長期保有が推奨される理由」を考えてみることにしましょう。


ギャンブルで勝つのは難しい?

「ゼロサムゲーム」の本来の意味、それは「勝者と敗者の総計がゼロになる状態」を指します。

 

例えば、アメリカ映画などでビリヤードの最中にお金を賭けるシーンが登場します。成功すれば敗者から勝者に賭け金の10ドルが支払われるわけですが、この場合、敗者はマイナス10ドル、勝者はプラス10ドルですから、両者の総計は0となります。

 

これが「ゼロサムゲーム」と呼ばれる状態です。

 

「なんだ、ゼロサムゲームってやっぱりギャンブルのことなのね」と思った方、ちょっと待ってください。実際にはほとんどのギャンブルはゼロサムゲームではないのです。

 

仮にパチンコ店で勝った客と負けた客の総和が0だったらどうでしょうか。当然のことながら、店舗として設備を整えたり従業員の給与を支払う原資がなくなってしまいます。

 

あるいは、競馬がゼロサムゲームだったらどうでしょうか。競馬場を維持することはもちろん、競走馬や騎手の存続そのものが難しくなるでしょう。

 

そうです。ほとんどのギャンブルでは興行主が経費と利益を確保した上で、その残りが分配されます。そのため、勝者と敗者の総和は必ずマイナスとなり、このような状態は「マイナスサムゲーム」と呼ばれます。

 

「ギャンブルはトータルで見ると損をする」と言われる所以はまさにこの点で、そのビジネスとしての構造を考えれば、たとえ一時的に勝てたとしても最終的にプラスで終えるのがいかに難しいかは想像に難くありません。

 

ちなみに、還元率(興行主の経費と利益の残り)は「競馬>パチンコ>宝くじ」の順番で低くなると言われています。これはこのまま「トータルでプラスにするのが難しい順番」と言い換えられるでしょう。


証券運用は「非ゼロサムゲーム」

さて、資産運用に話を移しましょう。

 

株式や投資信託のいわゆる証券運用。その舞台となる株式市場はどうでしょうか。

 

短いスパンで考えると、高く売り抜けて儲ける人もいる一方で安く手放して損をする人もいますから、ゼロサムゲームのようにも思えます。あるいはギャンブルと同じように運営側の経費や利益がありますから、マイナスサムゲームと表現することもできそうです。

 

結論から言えば、証券運用は「非ゼロサムゲーム」と言われています。ゼロではなく、またプラスでもマイナスでもないのは、市場全体のパイが定まっていないからです。

 

少し具体的な数字を見てみましょう。

 

ご存知の通り、東京証券取引所は2022年4月で新しい区分となったわけですが、新しい区分になる直前の東京証券取引所市場第一部(東証1部)の時価総額は「約714兆円」と記録されています。

 

それに対し、そこから10年前の2012年末、第二次安倍内閣が発足した当時の東証1部の時価総額は「約296兆円」に過ぎません。つまり、10年間で市場の総額が2.4倍にも膨らんだ計算になります。

 

全体の規模がこれだけ大きく成長していれば、ただ証券をもっていただけでも値が上がった可能性が高いでしょう。このように市場全体が拡大する局面では、ほとんどの人がプラスに転じる「プラスサムゲーム」と呼べる状態になっていたわけです。


証券運用で長期保有が推奨されるワケ

ただ、だからと言って、何の準備もせず闇雲に証券運用に手を出すことはオススメしません。

 

株式市場はあくまでも「非ゼロサムゲーム」。プラスサムゲームになることもあれば、当然マイナスサムゲームの様相を見せることもあります。

 

例えば、リーマンショックで世界が揺れた2008年末の東証1部の時価総額は「279兆円」であり、わずか一年前の2007年末の「475兆円」から40%も下落しています。当然のことながら、こうした局面では大多数の投資家が敗者となったはずです。

 

また、成長するといってもそれは株式市場全体のお話です。個人としてマイナスになっているのであれば、いくら全体が大きくなっても意味がありません。そうならないためは、自分の投資目的に合わせた銘柄のチョイスが重要になってきます。

 

リーマンショックの例を見るまでもなく、株式市場の縮小は一瞬で訪れます。しかしながら、元の状態まで再拡大には少なくとも年単位の時間を要します。

 

その点において、短期的に考えてしまうと証券運用はどうしてもゼロサムゲームの側面が強くなります。勝った負けたの話に見えるので、特に初心者の方には心理的なハードルも上がってしまうでしょう。

 

証券運用において長期的な保有が推奨される理由は、ここにあると言えるはずです。目先の損得ではなく、時間をかけて市場の拡大を待っていればプラスサムゲームになる可能性が高いからです。


株式市場は拡大し続ける?

では、株式市場とは永遠に拡大し続けるものなのでしょうか。そんな疑問を持つ方もいるかもしれません。

 

東証1部の例をとれば、先ほども触れた通り、2022年4月の時価総額は「714兆円」。これはバブル経済といわれた1989年の「590兆円」を大きく上回った数字です。

 

ただし、ここには物価上昇率(インフレ率)が加味されておらず、単純に両者を比較することはできないでしょう。特に人口減少局面にある現在の日本では、これから大きく市場が拡大するというのは想像しにくいかもしれません。

 

それでも世界に目を向ければ未だ人口は増え続けており、人口の増加はそのまま経済活動の規模拡大に直結します。

 

まだまだ現金信仰の根強い日本社会ですが、普通口座に入った10万円は何年経っても10万円のまま。資産の一部を証券に移して株式市場の拡大の恩恵を被ることができれば、少なくともインフレ対策の一環にはなるはずです。


ギャンブルと投資の決定的な違いとは

投資に対してアレルギーが強い日本では、ギャンブルと資産運用を同一視している人も少なくありません

 

しかし、ここまで見てきたように、ほとんどのギャンブルは「マイナスサムゲーム」。そして証券運用は「非ゼロサムゲーム」であり、両者は全く性質を異にするものです。

 

証券運用を行うときには、あまり銘柄単体での値動きに意識を奪われ過ぎず、株式市場全体の拡大でプラスサムゲームになる局面を目指すイメージを持つというのも一つの考え方でしょう。

 

そうすれば、マイナスサムゲームであるギャンブルとの明確な違いが実感できるかもしれません。


(2023/07/26 文責:佐野純一)

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