住宅ローンは「繰上げ返済」するべき?

住宅ローンの「繰上げ返済」

 

実際に住宅ローンを組んでいる人であれば、一度は検討したことがあるのではないでしょうか。また、これから住宅ローンを借りる人でも、予め繰上げ返済を前提としたローンの組み方を考えるケースもあると思います。

 

「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)してご相談を受ける時にも度々登場する「繰上げ返済」。相談者の口からこの話題がでることも多く、一般的な認知度はかなり高いと言えます。

 

その一方で、繰上げ返済の効果について深く論じられる事はあまりありません。多くは「早く返したほうがお得」という一元論で片付けられてしまっているのが現状です。

 

そこで今回のコラムでは、この有名な「繰上げ返済」をFPの視点から考えてみたいと思います。実は「繰上げ返済」の本当のメリットは、“お得”とは別のところにあるのです。


繰上げ返済には二種類ある

まず「繰上げ返済」の仕組みをおさらいしておきましょう。

 

繰上げ返済とは、その名の通り「住宅ローンの元金(=借りているお金)を繰上げて返済すること」です。

 

繰上げ返済を行えば当然元金が減りますので、返済した時点での借入残高を基にローンの形をもう一度組み直すことになります。その変更方法には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の二種類があるのはよく知られているところでしょう。

 

期間短縮型とは「毎月の返済額を変えずに期間を短縮する」方法です。例えば、残り30年あったローンを繰上げ返済することによって、毎月の返済額を変えずに残り28年に変更するような形です。

 

一方の返済額軽減型は「ローンの残り期間を変えずに毎月の返済額を少なくする」方法です。ローン期間を変えなければ元金が減った分だけ毎月の返済額は減りますので、家計に対するローンの負担が軽くなります。

 

このように二種類ある変更方法ですが、実際に繰上げ返済を行った人はほとんどが「期間短縮型」を選ぶと言われています。

 

その大きな理由は二つあり、まず一つはトータルの返済額が「返済額軽減型」に比べて少なくなること。もう一つが「少しでも早く借金を返したい」という心理が働くからです。

 

確かにこの二つの理由は住宅ローンという大きな借金を背負う人にとって魅力でしょう。しかし、人生の予算書とも言える「ライフプラン」という観点から考えた時、「“お金の相談”の専門家」としては一度立ち止まってみる必要を感じずにはいられません。

 

繰上げ返済の「期間短縮型」。ホントにそれが正解でしょうか?


ホントに正解? 「期間短縮型」

ライフプランのご相談を受けていると、家計改善の手段として「繰上げ返済」を挙げる人は少なくありません。繰上げ返済の認知度が高いのと同様に、「繰上げ返済は早く行ったほうが効果が高い」というフレーズもよく知られていますから、中には多少無理をしてでも早めに繰上げ返済を行おうとする人もいます。

 

しかしながら、FPとしてはその考えに全面的に同意することはできません。購入から13年間(中古住宅は10年間)は住宅ローン控除によって利息額の大半が補填されるというのも理由の一つですが、それを除いたとしても慌てて繰上げ返済を行うことに反対するシンプルな理由があります。

 

その理由とは、即ち「現状では繰上げ返済に大きな効果を期待できない」ということです。

 

少し大雑把な表現になってしまいますが、繰上げ返済とは「住宅ローンの金利で資産運用すること」とニアイコールです。

 

バブル期のような住宅ローン金利ならいざ知らず、1%程度の住宅ローンをがんばって返済したとしても、それによって得られる効果は1%の運用で得られるものと同程度ですから、その人のライフプランに大きな変化をもたらすことは期待できないでしょう。金利1%の資産運用では家計が大きく改善される可能性は低いというのは、誰にとっても想像に難くないことだと思います。

 

現状の住宅ローンが固定金利か変動金利かによっても少し効果は違いますが、いずれにせよ、現在のようなまだ低金利が続いている状態では繰上げ返済の「お得」にはあまり期待はできません。繰上げ返済をするくらいなら、もっと良い利回りで資産運用をしたほうが効果的だという考え方も十分に成り立つはずです。

 

そこで注目したいのが、もう一つの返し方である「返済額軽減型」。より正確に言うのであれば、「返済額軽減型」で得られるライフプラン上の効果です。


「返済額軽減型」はキャッシュフローを改善する!

住宅ローンの終わりが変わらない返済額軽減型では、「借金を早く返したい!」という気持ちに答えることはできません。また、期間が長くなる分、最終的な利息も期間短縮型よりも多くなってしまいます。

 

しかし返済額軽減型には、それらの弱点を補ってあまりあるメリットが存在します。そう、それは「家計の支出を圧縮できる」という効果です。

 

一般的なライフプランでは、どうしても支出が収入を上回る、言い方を変えれば「貯金が減っていく時期」が出てきます。特に顕著なのが、子供が大学に行く「教育費の負担が重い時期」でしょう。

 

もちろん、その時期を予見した上でそれに備えられれば一番良いのですが、そんなことが可能なケースばかりとも限りません。いざそうした時期に差し掛かって、年々減っていく貯金を目の当たりにすれば大きな不安を感じる人もいるはずです。

 

こんな場合には、何よりも日々のキャッシュフロー改善が最優先課題となります。そのアプローチ方法はいくつかありますが、毎月のローン返済額を減らすことで家計の支出を圧縮できる「返済額軽減型」の繰上げ返済も有力な選択肢となり得ます。

 

「最終的な支払い額が少なくなるから」と言って期間短縮型を選び、そのために現在進行形の家計がまわらなくなってしまうようでは意味がありません。確かにその苦しい時期を乗り越えられればその後の老後が楽になるかもしれませんが、それまでに貯蓄が底をつきてしまうようではそもそも老後まで辿り着けない可能性もあるのです。

 

そうならないようにするためには、少しばかりの金利を払ってでも「キャッシュフローを改善する」、つまり「期間短縮型」よりも「返済額軽減型」の繰上げ返済を行ったほうが良いケースは少なくありません


賃貸経営にも同じことが言える!

少し話がそれますが、大家業を生業とする「現役大家FP」として言えば、この繰上げ返済の考え方は賃貸経営にもあてはまります

 

私はいつもご相談の時に「賃貸経営をする時に気をつけなくてはいけないのは“借入金の元金”」というお話をしています。アパートローンの元金は、毎月確実に出ていくお金なのにも関わらず賃貸経営の経費として計上できないからです。

 

そのため、この「ローン元金の毎月返済額が減る」というのは、賃貸経営に於いてとても大きなメリットとなります。

 

家賃は基本的に毎月安定して入ってくる収入ですから、借入元金として出ていくお金が少なくなれば経営の安定感は飛躍的に高まります。増えたキャッシュフローはストックしてもいいですし、税金のことを考えればなにか有意義な経費として投入してもいいでしょう。

 

さらに言えば、賃貸経営の場合は、金利分の支払いが増えることに対してそれほどナーバスになる必要もありません。元金と違い借入の金利は経費として計上できますので、その分税金を圧縮することが可能です。金利が増えたからと言って、その金額がそのまま「損」になるわけではないという点が自宅の住宅ローンを大きく違うところです。


目先の損得に惑わされるな!

こうして改めて考えてみると、耳馴染みの深い「繰上げ返済」という仕組みも意外と奥が深いことが分かると思います。

 

ライフプランも賃貸経営も、本当に大事なのはキャッシュフローですが、あまり目先の損得ばかりに気を取られてしまうと全体のキャッシュフローが見えなくなることがあります。特にライフプランや賃貸経営は何十年という長いスパンで物事を考えなくてはなりませんから、なおさら俯瞰的な視点が重要になってくるのです。

 

実際にあった相談例ですが、繰上げ返済を希望していた方が最終的にはこれまで経験のなかった資産運用を始めたケースもありました。様々な選択肢を比較検討した結果、繰上げ返済しようと思っていた分の資金を投資に回したほうがライフプランとしてプラスの影響になると判断されたからです。

 

もちろん、正解はその人その家庭によって違います。繰上げ返済をするのであれば、「どのタイミング」で「どのくらいの金額」を「どちらの方式」で良いのか。あるいは、繰上げ返済ではなく他の方法をとったほうが良いのか。ぜひあなた自身のライフプランと照らし合わせながら、自分の最適解を考えてみてください。


(2024/06/26改訂 文責:佐野純一)

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