「儲かる株を教えてください」は愚問!

「これから値が上がる株を教えてください」
「買えば儲かる銘柄はどれですか?」

 

資産運用を始めるにあたり、そんな質問を口にする人も少なくありません。

 

確かに「買っておけば儲かる株」が予めわかるなら、誰だって知りたいことでしょう。マネー雑誌などでも定期的に「これから上がる銘柄はコレだ!」といった内容の記事が特集されます。

 

しかしながら、誤解を恐れずに言えば、こうした質問は“愚問”としか表現の仕様がありません。それどころか、誰かに儲かる銘柄を聞きたがるような人は投資には手を出さない方が良いとさえ言えます。

 

今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、安直に儲かる銘柄を訊きたがる人が資産運用をしてはいけない理由これから投資を始める人が肝に銘じておくべき心構えを解説します。


未来のことは誰にもわからない…はずなのに

なぜ儲かる銘柄を教えてもらいたがることが愚行なのか。その理由は大きく2つあります。

 

一つ目の理由は、相手が誰であれ、「あなたがその質問をした人が答えを知らないから」です。

 

これは、投資セミナーの講師でも、証券会社の担当者でも同じことです。雑誌の特集に書かれている内容にも共通して言えるでしょう。

 

当たり前のことですが、未来のことは誰にもわかりません。投資の専門家と名乗る人たちも、予測することはできても言い当てることは不可能です。

 

その意味で、これは「訊く相手を間違っている」ということではなく、「訊くこと自体が間違っている」と解釈することができます。

 

確かに、専門家の中には過去の膨大なデータを徹底的に検証し、精度の高い予測をする人もいるかもしれません。

 

ただ、もし本当に高い確率で株価の変動を予測できる人がいたとするならば、その人は投資セミナーの講師の仕事をするでしょうか。あるいは、証券会社の一社員として業務に励んでいるでしょうか。

 

未来を予測できる人ならば、そうしたビジネスをするよりも株のキャピタルゲイン(売却益)を目指した方がよほど効率が良いように思えます。

 

その点において、自身のキャピタルゲインだけで生活できるような人がセミナーの講師や証券会社の社員としての仕事に従事している可能性は極めて低いと考えられます。

 

語弊がないように申し上げますが、私はそれらの仕事を卑下するつもりはまったくありません。

 

むしろ、そのような立場の人を無条件に「未来の株価がわかる人」として捉えてしまう投資家の意識に問題があると考えています。

 

誰にも未来がわからないにも関わらず「儲かる株を教えて」という質問をすること自体が、根本的な勘違いをしていると言わざるを得ません。


「安く買って高く売る」が売却益の基本!

それでも、万が一「未来を正確に予測できる人」が実在するとしたらどうでしょうか。

 

残念ながら、その人があなたに将来の株価を教えてくれる可能性は皆無に等しいでしょう。そんなことをしてもその人になんのメリットもないからです。

 

これが、「儲かる株を教えてください」が愚問である第2の理由です。

 

株式の売買でキャピタルゲインを得るためには、「安く買って高く売る」が基本となります。つまり、「購入した株の価格が上がる」ことが重要になるわけですが、それではどんな時に株価は上昇するのでしょうか。

 

これは株式に限らず「市場の大原則」ですが、物の価格は需要が供給を上回った時に上昇します。平たく言えば、それを欲しい人が多い時、人気が出た時に物の価格は上がるのです。

 

株を安く仕入れてキャピタルゲインを得たい人が、その銘柄を他人に勧めることがあり得るでしょうか。

 

多くの人に特定の銘柄を勧めれば勧めるほど、その株価が上昇する可能性が高まります。少なくとも、自分がこれから買おうとしている銘柄であれば、そんなことをする人はいないはずです。

 

少し穿った見方をすれば、既に自分が購入して仕込みが完了している段階であれば、その銘柄を他人に勧めることはあるかもしれません。仕入れた株を高く売り抜けるためには“高掴みをして損をする人”が必要なのですから

 

そこまで懐疑的になることもないのかもしれませんが、いずれにせよ、セミナーや証券会社で勧められた銘柄をそのまま鵜呑みにするのは考えものです。

 

彼らのビジネスは証券売買の手数料を稼ぐことであり、決してあなたの資産運用を成功させることではないからです。


不動産業者の「オススメ物件」とは…

これと似たような現象は、不動産投資の世界でも起こっています。

 

実際に不動産業者から収益物件を購入した人の中には「この物件は不動産業者にもオススメと言われました」と胸を張る人がいますが、そんなセリフを聞くたびに、私はなんとも言えない居心地の悪さのようなものを感じてしまうのです。

 

当たり前の話ですが、不動産業者は物件を売ってナンボの商売

 

いくら見込み客と打合せを重ねようと、何度物件に足を運ぼうとも、実際に売買契約が成立しなければ彼らの懐には一銭も入りません。

 

そんな彼らが口にする「オススメの物件」には、どのくらいの意味があるでしょうか。

 

彼らの「オススメの物件」とは、いうならば「自分が客に売りやすいと考えている物件」と同義でしょう。


“お宝物件”が存在しない当然の理由

それであるならば、彼らにとっての「普通の物件」とは「自分に売る自信がない物件」のことを指すと言ったら、さすがに捻くれ過ぎでしょうか。

 

ただ、一つ確実に言えることは、本当にお買い得と言える収益物件が市場に出てきたとしたら、不動産業者がただ指を咥えて見ているだけということはありません。

 

仲介手数料以上に売却益が出ると判断したのであれば、即座に自社でその物件を購入するはずです。彼らが自分の儲けを削ってまで、あなたに「オススメの物件」を紹介する理由がないからです。

 

その意味では、万人にとっての“お宝物件”などが市場に存在しているはずもありません。

 

不動産投資を始めようとする人が不動産業者に「良い物件ありますか?」と聞くのは、「儲かる株を教えてください」と同じように愚問と言えるでしょう。


努力なくして成功なし!

くれぐれも誤解のないように申し上げますが、私は決して「危ないから投資をするな」と主張しているわけではありません

 

預貯金だけに頼った「現金至上主義」では、インフレや円安に耐えられず資産が実質目減する可能性がありますから、むしろ人生には何らかの資産運用の要素が必要と考えています。

 

しかしながら、自分では何の準備もしないで、ただ他人の力をあてにして「楽して儲けたい」と考えるのはあまりに危険です。

 

少なくとも金融商品を売る業者のオススメを鵜呑みにしない程度には、“自分なりの判断基準”というものをしっかりと決めておくべきでしょう。

 

繰り返しになりますが、証券にせよ、不動産にせよ、運用商品を売っている業者の目的は、必ずしもあなたの資産運用を成功させることとは限らないからです。


パンチの打ち方も知らずにリングに上がるな!

なんの勉強もせず投資を始めるということは、例えるならば、パンチの打ち方も知らずにボクシングのリングに上がるようなもの。試合に勝つことなど望むべくもありませんし、大怪我をしなければラッキーと言う他ありません。

 

リングに上がる前には入念なトレーニングが必要となりますし、この先も勝ち続けるためには継続的な努力も怠ることはできないのです。

 

世の中に「楽して儲かる」といったうまい話は存在しません。ましてや「うまい話が向こうからやってくる」などということはあり得ないと断言できます。

 

「儲かる株を教えてください」という質問には、そんな当たり前のことさえも理解できていないような危うさを感じます。そのままでは怪しい投資話に騙されてしまうこともあるかもしれません。

 

そうならないためにも、最低でも自分の投資目標を設定できる程度の基礎知識は身につけておく必要があるでしょう。そうした地道な努力があなたの資産運用を成功に近づけていくのです。


(2022/11/16 文責:佐野純一)

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