「FP=保険屋」? それ、大きな誤解です!

「ああ、保険屋さんね…。」

 

私がファイナンシャルプランナー(FP)と名乗ると、こんな反応が返ってくることがあります。

 

ひどい時になると、いきなり「保険は間に合っています!」と断られることもありますが(笑)、この「FP=保険屋」というのは「FPはお金持ちのための商売」と並び、FPという職業に対する大きな誤解の一つです。

 

では、実際のところFPと保険屋は何が違うのでしょうか?

 

そして、本当に両者が違うものであれば、なぜこのような誤解が生まれてしまうのでしょうか?

 

今回のコラムでは、保険を売らない「“お金の相談”の専門家」FPが、それぞれの仕事の進め方を通じて両者の違いを解説します。


面談の流れから見る「FP」と「保険屋」の違い

まずは実際の面談の流れを見ながら、両者の違いを比較してみましょう。

 

保険屋の場合


あなたが保険屋と面談をする場合、どんな流れで話が進んでいくでしょうか。

 

もちろん最終的には保険の加入を勧められるわけですが(笑)、ちょっと気の利いた保険セールマンであればいきなり具体的な保険商品を勧めてくることはありません。まずは「なぜ保険に興味を持ったのか?」というあなたの考えを聞いてくるでしょう。相手のニーズによって提案する保険商品が変わってくるからです。

 

さらにできるセールスマンであれば、あなたに新しいニーズを作り出すことを試みます

 

さすがに「こんなことになったら大変ですよ〜!」と相手の不安感を煽って保険を売るようなレベルの低いセールスマンは、このご時世それほど多くはないでしょう。しかし、その商品のメリットを前面に押し出して、当初とは違う目的の保険商品を販売するというのはよくあるパターンです。例えば、学資保険の相談に行ったのに、気がついたらガン保険に入っていたなどという話も珍しくありません。

 

改めて考えるまでもなく、彼ら保険屋の商売は「保険を売ること」です。相談がどのような入り口であれ、面談の内容が「一つでも多くの保険を売ろう」という流れになるのはある意味当然のことでしょう。

FPの場合


一方、FPに相談した場合はどのような流れになるでしょうか。

 

「“お金の相談”の専門家」FPのところにはお金に関する様々なご相談が持ち込まれますが、今回は「保険の相談」という前提でお話しさせていただきます。

 

一口に「保険の相談」と言ってもいろいろなパターンが考えられます。ただ、FPに相談した場合はいきなり保険の商品説明から入らず最初はライフプランを作ってみるのが一般的です。

 

まず、「その人に生命保険が必要か」。そして、本当に必要ならば「どのような保険が良いのか」。ライフプランを通じてそれらを見極める必要があるからです。

 

極端な話、一家の大黒柱に万が一があった時の保障(いわゆる「死亡保障」)も、そのご家庭にそれを補うだけの十分な蓄えがあれば必要がないケースもあり得ます。始めから「生命保険ありき」で考えてしまうと、適切な解決策を導き出せない危険性があると言っても良いでしょう。

 

そう考えると、やはりいきなり商品の比較販売を行うような保険の売り方には大きな疑問を感じます。その保険がいくら良い商品だとしても、そもそもその人にとって“必要のないもの”であるならばまったく意味がないからです。

 

FPの仕事は、「ご相談に来た方のライフプランを作り、それを守ること」

 

ライフプランを守ることを考えた結果、そのための最適な手段が生命保険であればそれを使うだけに過ぎません。逆に言えば、他の手段を使ったほうが良ければそちらの案を採用するべきでしょう。

 

FPにとって大事なのは「生命保険を売ること」ではなく、「相談者のライフプランを守ること」なのですから。

決定的な違いは、その“収益構造”にある

両者の違いは、その“収益構造”にも現れます。言い方を変えればこれは、「その人の“雇い主”は誰か」ということでもあります。

 

保険屋の場合


改めて考えてみてください。保険屋の“雇い主”は誰でしょう?

 

生命保険に加入してくれる人は保険屋にとって「お客様」でありますが、決して「雇い主」ではありません。彼らが手にする報酬はお客様から直接払われるわけではなく、保険会社から「販売手数料」という形で受け取るものだからです。

 

つまり彼らにとって“雇い主”とは保険会社であり、少し意地悪な言い方をすれば、保険会社の売り上げからおこぼれを頂戴しているに過ぎないのです。

 

当たり前の話ですが、どんな商品にだって良い点もあれば悪い点もあります。この世の中には「完全無欠な商品」など存在しません。

 

それは生命保険だって同じこと。ただ、保険会社から販売手数料を受け取っている保険屋が、その保険のデメリットを説明してくれるでしょうか。残念ながら、自ら進んで自分の商品のデメリットを説明してくれる保険屋は皆無でしょう。それどころか質の悪いセールスマンであれば美辞麗句だけを並べてなんとか保険に加入させようとするはずです。

 

保険屋の“収益構造”を考えれば、彼らの思考がどう働くかを想像することはそれほど難しくありません。「優秀な保険の営業マン」とはあくまで「保険を売るのが上手い人」に過ぎないという点を忘れてはいけないのです。

FPの場合


それに対し、FPはご相談にいらした方からコンサル料を頂戴します。そうすることによって相談者はFPにとって「お客様」であると同時に「雇い主」となるのです。

 

お客様と雇い主が別の人間である場合、往々にして両者の利益が相反することがあります。生命保険の場合であれば、「お客様が必要としている商品」と「保険会社は売ってほしい商品」が食い違うことなど日常茶飯事です。

 

しかし、両者が同一人物であればその心配をする必要はありません。集中して「その人にとってのベストな選択肢」を考えることができます。ですからFPは加入を検討している保険のデメリットも相談者にキチンと説明することができるのです。

 

もちろん、他により有効な手段があれば、生命保険にこだわることなく広い視野で様々な方法を検討します。それができるのは「“お金の相談”の専門家」FPならでは大きなメリットでしょう。

 

平たく言ってしまえば、FPに相談料を払う意味はこのような“収益構造”を作り出すことにあります。専門家の知恵を自らの役に立てるために、あなた自身が“雇い主”となるのです。

「FP資格をもった保険販売員」にご注意を!

いかがでしょうか。FPと保険屋は同じものではなく、むしろ全く違う業種であることがお分かりいただけたのではないかと思います。

 

残念なのは、保険のセールスマンがFPを名乗っているケースが多いということです。よく混同される「ライフプランナー」という言葉も、ある保険会社の営業マンの単なる呼称に過ぎません。

 

彼らは「FP」という言葉が持つクリーンなイメージを利用したいがためにそうしている訳ですが、それが「FP=保険屋」という誤解を生む大きな原因になっていることは否定できないでしょう。

 

しかし、ここで断言します。

 

お客様から相談料を受け取らない人間は、決してFPではありません。彼らはただの「FP資格をもった保険販売員」でしかないのです。

 

宅建資格を持っている人のすべてが不動産業者でないのと同じように、あるいは教員免許を持っている人が必ずしも教師という職についているわけではないのと同じように、FPの資格を持っているからといって、その人が職業としてFP業務を行っているとは限りません。冷静に考えてみれば、極めて当たり前のお話です。

 

さらに言えば、どんな分野であれ、その道の専門家が無料であなたに力を貸してくれることはないのです。プロの仕事として行う以上、これもまた当然のことです。

 

最近では保険屋の「無料相談」が大々的に宣伝されていますが、いくら面談自体が無料でも販売側が売りたい商品のセールストークを聞きに行くだけでは、相談者にとって「時間」と「手間」というコストの無駄遣いです。

 

真の意味で「アナタの味方」になってくれるプロフェッショナルはどこにいるのか? 迷ったらそのプロの“収益構造”から考えてみても良いかもしれません


(2024/01/10改訂 文責:佐野純一)

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