FPの「無料相談」って怪しくない?

「ファイナンシャルプランナー(FP)の“無料相談”ってなんだか怪しくない?」

 

世の中にはそう感じている人も少なくないはずです。いえ、賢明な方であれば、「タダほど高いものはない」の言葉通り、無料相談には必ず裏があると考える方がむしろ自然かもしれません。

 

ただ、その一方で、インターネットで「FP 相談」と検索すると、「無料相談」という言葉が山のようにでてきます。あるいは、テレビで「何回ご相談しても無料です!」と謳っている企業のコマーシャルを目にした人も多いでしょう。

 

かくいう私も初回のご相談は無料で行っていますが、これは「まずは一度お話しを伺わないとコンサル内容が決められない」という理由によるもの。また、FPの認知度が低い現状では、初回のご相談は「FPはどんな職業なのか?」「FPに何ができるのか?」をご説明する私のプレゼンの場でもあるからです。

 

しかしながら何回も無料でご相談を受けてしまっては、正直なところ仕事としてとても成り立ちません(泣)

 

それなのに、なぜ世間には「何回でも相談は無料!」というビジネスが存在するのでしょうか?

 

今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」であるFPが、コンサルタントの立場から「FP無料相談」のカラクリに迫ってみます。


FPの「適正な相談料」とは?

そもそもFPに対する相談料とは、いくらぐらいが適正なのでしょうか

 

「無料相談」のカラクリを考える前に、まずはその点を検証してみたいと思います。

 

例えば、「1回60分のご相談料が1万円です」と言われたらあなたはどう感じるでしょうか。もちろん相談の内容にもよるでしょうが、「そんなに安くていいの?」と思う方はあまりいらっしゃらないかと思います。

 

確かに「時給1万円」ですから、その点だけに着目すれば悪くない収入です。

 

しかしながら、このFPが相談料だけで生活できるかと言えば、答えは「No」です。なぜなら1日8時間、週に40時間、常にその時給で働けるわけではないからです。

 

ご面談にはFP側の準備もありますから、それぞれのお客様にしっかりと対応しようと考えれば、年間で100組程度が限度でしょう。面談回数の平均が3回だとすれば、一組のお客様から頂戴できる相談料は3万円。100組こなしたとしても年間の営業収入は300万円です。

 

さらにここから事務所の賃料や交通費などの経費が最低でも2割程度はかかるでしょうから、サラリーマンの年収(額面)にあたる「税引き前所得」は250万円を切ることになります

 

どうでしょうか? これではFPが相談料だけで生活していくのには少し無理がありそうです。


それでも「販売手数料」が目的であってはならない!

相談料だけで生活できなければどうすれば良いのか?

 

こうした場合、ほとんどのFPは手数料商売との兼業という形になります。

 

「手数料商売」とは、なにかしらの商品を代理販売して販売会社からその分の手数料をもらうビジネス形態です。FP業務に関連するもので言えば、生命保険を売って保険会社から販売手数料をもらったり、株式や投資信託を売って証券会社から販売手数料を受け取ったりするケースがそれにあたります。

 

お客様から直接ではなく、商品販売を通して間接的に費用を負担していただくと考えれば分かりやすいでしょうか。FPが相談料だけで生活できない場合は、こうした手数料商売を使って不足分を補っていくのが一般的です。

 

誤解のないように申し上げておきますが、私は「手数料商売」を否定するつもりはありません。むしろ、それがお客様とFPの双方にとってメリットとなるのであれば、積極的に活用するべきだと考えています。

 

例えば、生命保険などは一部を除きどこに行っても同じように代理販売の形をとっていますから、わざわざ他の販売代理店を使うことに意味はありません。お客様にとってその生命保険が本当に必要なものであれば(ココが重要です)、お客様は信頼するFPが窓口になることで安心感が得られますし、FPはその販売手数料でお客様から高額な相談料を受け取らずに済みます。

 

これが「双方のメリット」です。

 

ただし、手数料商売はあくまでも「オマケ」でなくてはなりません。あくまで“結果として”相談料の不足分を補うものであり、それ自体が“目的”となっては決していけないものなのです。

 

販売手数料がFPの目的となってしまったら、そこに「双方のメリット」は存在しません。FPの頭は「どうやってこの商品を売ろうか」という販売員の発想と同じになってしまいます

 

そのような状態では「“お金の相談”の専門家」として「お客様にとって最善の方法は何か?」を考えることなど到底できるはずがないのです。


その人、ホントにFPですか?

お客様から相談料をいただいているFPでさえこんな状況です。「無料相談」を売りにしているFPはどうやって収入を得ているのでしょう?

 

もうお分かりですね。彼らの収入源はその100%が商品の「販売手数料」なのです。

 

つまりそれは、彼らが「いかに販売手数料を稼ぐか」という行動原理で動いていることを意味しています。彼らの目的は決して「お客様のご相談にのること」ではありません。自分に販売手数料が入るように「商品を売りつけること」なのです。

 

そう考えると、無料相談でお客様からお金を受け取らない彼らは、すでにFPとは呼べません。彼らはただの「FP資格を持った金融商品の販売員」に過ぎないのです。

 

加入したい保険や購入したい証券が決まっていて、ただそれを買いに行くだけなら彼らのところに訪れるのも良いでしょう。しかし「相談」に行くのは大きな間違いです。彼らは相談を受ける気などそもそもないのですから。

 

同じことは、日本各地で開催されている各種の「無料セミナー」にも当てはまります

 

こうしたセミナーはなにもお客様の啓蒙活動のためにボランティア活動を行っているわけではありません。結局のところ、何らかの商品を売りつける販売手法の一つでしかないのです。

 

その点をしっかり理解していないと、セミナー講師に誘導されるまま「自分が必要としていない金融商品」を買わされる羽目になってしまいます。


「現役大家FP」だからできること!

さて、FPが相談料だけで生計を立てていくには、それなりに高額な相談料をいただかないとやっていけないことが分かりました。

 

こんなことを書いていると「じゃあ、おまえのところはどうなんだ?」というお声を頂戴するかも知れません。少しだけ私の方針をご説明したいと思います。

 

私は敢えて「“生計を立てていくには無理がある”相談料でFP業務をご提供しよう」と考えています。

 

「なぜそうするか?」の前に「なぜそうできるか?」についてお話しさせてください。

 

私はなにもボランティアをするつもりはありません。清貧に憧れることもなく、せめて人並み程度の生活は送りたいと思っています。そしてなにより、二人の娘を育て上げる父親としての責任があります。

 

それでも相談料を抑えられるのは、私が「現役の大家」だからです。

 

株式会社グリュックの業務内容は「賃貸事業」と「FP事業」の二本柱で成り立っています。私自身はなにもお客様からの相談料だけで生計を立てる必要はありません。

 

私は常々「賃貸経営は不労所得ではない」と主張しています

 

その考えに揺るぎはありませんが、その一方で軌道に乗せてしまえばそれほど時間を取られることはなく、また時間の自由も利きやすい仕事であるのも確かです。ですからFPとしての相談業務を中心にスケジュールを組み、空いた時間で賃貸業務を行うことは十分に可能なのです。

 

“二つの事業を効率よく行うことで、お客様に質の高いサービスを適正な価格でご提供する”

 

これが裏表もカラクリもない「現役大家FPだからできること」なのです。


なぜ「最低限の相談料」なのか?

「なぜそうするか?」にも触れておきましょう。理由は大きく二つあります。

 

まず一つは現実問題として、「あまり高額な相談料を設定してしまうとマーケットが狭くなってしまうから」です。

 

一部の人からはFPという業種は「お金持ちのための仕事」だと思われています。

 

確かに資産管理を生業としているFPの中にはそういったケースも見受けられます。しかし、特別お金持ちではない人に対してもFPができることはたくさんあります。そうした方々に広くFPの良さを知っていただくためにも、相談料を抑えてサービスを提供したいと考えています。

 

もう一つは、「やはり最低限の相談料を頂戴しないとFPという職種そのものが発展しないと考えているから」です。

 

販売手数料に重きを置いたビジネススタイルは、どんなに表向きを取り繕ったとしても最終的にはお客様に見透かされます。その結果、多くのお客様に「なんだ、FPって結局は“モノ売り”の商売なのね…」と思われることは、日本のFP業界全体にとって大きなダメージです。

 

私はFPとは人のお役に立てる仕事だと信じていますが、他ならぬFP自身がお客様に誤解を与えるような振る舞いをするようでは、その本質を社会にアピールすることなど到底不可能です。長期的に見れば、販売手数料目的のFPは自らの首を絞めていると言っても過言ではないでしょう。


「中立公正」なFPなんて存在しない…、いや必要ない!

「私は中立公正な立場でアドバイスします!」

 

多くのFPが自分をアピールするために好んで使う言葉です。

 

しかし、こうして相談料の面から考えると、真の意味での「中立公正」なFPなど存在しないという結論に達するのは難しくないでしょう。

 

本当に「中立公正」でいたいのであれば、相反する両者から均等の相談料をもらわなければなりません。例えば、保険の相談に来たお客様からは「相談料」を頂戴し、保険会社からはそれと同額の「販売手数料」を受け取るという形です。

 

現状でそのようなビジネスモデルは存在しませんし、これからも登場する可能性は極めて低いでしょう。

 

言ってみれば、「中立公正」という言葉はFPが自分がまるで「正義の味方」であるかのようにみせるための都合の良い宣伝文句に過ぎないのです。

 

さらに言えば、私は「中立公正なFP」など必要ないと思っています。

 

例を挙げるのであれば、住宅購入のご相談に来たお客様に対して、住宅メーカーとお客様の真ん中に入り中立公正に振る舞う必要があるでしょうか?

 

コンサル契約を結んでいる以上、私はお客様に「プロ」としての責任を負います。一方、住宅メーカーに対してはなんの義理もありません。その状態で中立公正の立場をとるのは、お客様に対してむしろ“アンフェア”ではないかと考えているのです。

 

「誰からお金をもらうのか」は「誰に対して責任を負うのか」と同じ意味です。FPが責任を負う相手は、当然相談者であるお客様でなくてはなりません。

 

「お金のこと、FPに相談してみようかな?」と思った時、改めて考えていただきたいのです。

 

あなたにとって本当に必要なのは「正義の味方」のFPなどではなく、あなたの立場になってあなたにとっての最適な答えを一緒に考えてくれる「アナタの味方」のFPなのではないでしょうか。


(2023/05/31改訂 文責:佐野純一)

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