日本社会で「貧富の差」が拡大中?

今、日本の社会では「貧富の差」が広がっていると言われています。

 

一定の金融資産を持つ「富裕層」が増える一方で、将来に不安を感じている人の数もまた増えており、「富の二極化」あるいは「格差社会」などという言葉も頻繁に耳にするようになりました。

 

こうした現象がなぜ現在の日本で起こっているのか? 

 

様々な専門家が自分の意見を各メディアで述べており、それぞれ納得する点があります。ただ、個人の方からの“お金の相談”を仕事にしているファイナンシャルプランナー(FP)の視点で考えると、また違った意見があるのも確かです。

 

そこで今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」FPがこれまでの様々な相談を受けてきた経験を生かして、日本の「格差社会」の正体を探りたいと思います。


アベノミクスが日本経済にもたらしたもの

現在の「経済格差」を考えるにあたり、2012年に発足した第二次安倍政権を無視するわけにはいきません。安倍内閣が導入した経済政策、通称「アベノミクス」は日本経済に大きな影響を与えました。

 

安倍政権がアベノミクスの効果として胸を張るのが「株価の上昇」です。

 

民主党政権時代、安倍政権が発足する前の日経平均株価は8,000円台の前半で、その低迷する様は長く続く日本経済のデフレの象徴でした。それが政権交代で上昇を開始し、紆余曲折はあったものの、2017年には24,000円に届く勢いを取り戻したのです。

 

約6年という短い期間で、日経平均株価はなんと3倍近くまで上り詰めた計算になります。単純に考えれば、このことで保有する資産が大きく増えた人もいるはずです。

 

株価を「景気のバロメーター」とするのであれば、なるほど、アベノミクスは景気回復の効果があったと言えそうです。

 

しかしながら、その一方でこうした株価の上昇を“他人事”として捉えている人たちも大勢いるのも事実です。そうした方達からは異口同音にこんなセリフが聞こえてきます。

 

「景気回復の実感がない…」

 

日本証券業協会による「証券投資に関する全国調査(平成27年度)」によると、 一般的に「リスク資産」と呼ばれる有価証券(株式・投資信託・債券等)を保有している人の割合は、国民のうち僅か18.2%。有価証券を持っているのは日本人の5人に1人もいないということが数字で明らかになっています。

 

他の4人にとってはいくら株価が上がったところで自分の資産には全く影響しないわけですから、それは確かに“他人事”です。景気回復の実感が湧かないのも無理はありません。


どんな時に「景気回復」を実感する?

それでは、有価証券を持っていない人たちはどんな時に「景気の回復」を実感するのでしょう。

 

端的に言えば、それは「収入が増えた時」、会社員であれば「給料が上がった時」ではないでしょうか。

 

先ほどの日経平均株価と同じように、アベノミクスの前と後で給与がどうなったかを比べてみましょう。

 

国税庁の「民間給与実態統計調査」によりますと、2012年の全国の平均給与は約409万、それに対し2016年は約421万円となっています。

 

確かに増えてはいますが、上昇率はたったの3%に過ぎません。日経平均株価が約3倍になったことに比較すると、どうしても物足りなさを感じてしまいます。これでは有価証券を保有していない人たちが景気回復を実感できないのは、当たり前の話かもしれません。

 

景気回復のため、安倍政権下で日銀が目指すインフレ率2%。当然、物価だけが上昇すれば良いというものではなく、一緒に給与も上がっていかなければ景気は回復しません

 

言わば、「物価の上昇」と「給与の上昇」は表裏一体。この「給与の上昇」が加速しない点が、現状ではアベノミクスの蓋になっていると言えそうです。


日本国民に巣食う「病気」とは?

さて、こうした現状を踏まえ、「“お金の相談”の専門家」FPとして着目したいのが、先ほども触れた「有価証券の保有率の低さ」です。

 

近年、有価証券の世界は最もフィンテック(IT技術で金融に新しい形を生み出すこと)が進んだ場所でもあります。今や誰でもインターネットを通して気軽に、そして費用をあまり掛けずに資産運用ができる時代になりました。

 

ところがです。これだけ環境が整っているのにも関わらず、実際に有価証券を保有している人の割合は18.2%に過ぎません。

 

残りの80%以上の中には「自分には資産運用はできない」とか「投資は関係ない」と考えている人も多いでしょう。しかし、投資は富裕層だけのものではありません。毎月コツコツと積み立てていくような形の資産運用もあるのです。

 

その点において、ほとんどの人にとって資産運用とは「できないもの」ではありません。「できるのにやらない」ことを自らの意思で選択しているのです。

 

これは「投資アレルギー」とも言える、日本の国民病です。

 

そしてこの病気の原因は、大多数の人が「資産運用について教育を受けていないこと」にあります。


「損をしないこと」だけを考えると見失うもの

もちろんFPは証券会社の営業マンではありませんから、無闇にリスク資産を持つことには反対です。貯蓄の大部分を株や投資信託につぎ込むというのは、ライフプランの観点からもオススメはできません。

 

ただ、もし自分の貯蓄のほんの一部、仮に10%だけでも安倍政権が発足する前に有価証券にしていたらどうなっていたでしょうか。

 

日経平均株価が約3倍になるような上昇を見せたわけですから、その10%は給料が地道に上がる以上のプラス要素をその人にもたらしてくれたはずです。

 

多くの人がそうした可能性を考慮せずに、「資産運用」と聞くとギャンブルのようなイメージで頭から否定してしまうのが今の日本社会です。資産が増える可能性を完全に排除してまでも“損をしないこと”を選択する様子は、まさに「アレルギー」という表現がピッタリきます

 

そして、金融を取り巻く世の中の仕組みの変化にも注意が必要です。

 

例えば、比較的新しい制度である「NISA」や「iDeCo」も、少しでも貯蓄をリスク資産に回させたいという国の思惑がその背景に見え隠れします

 

この両制度は使い方によっては資産運用の大きな力となってくれるものですから、そうした仕組みの変化を感じ取れるかどうかでもその人の資産運用の内容は変わってきます。

 

社会に蔓延する「投資アレルギー」から脱却することで、初めてその信号を受け取ることが可能になるのです。


「終身雇用」と「兼業禁止」が崩れるとき

さらに言えば、今後は働き方そのものにも大きな変化が訪れるかもしれません。

 

まだ少し先の話になりますが、サラリーマンの「終身雇用」や「兼業禁止」が完全に崩れる時、自分の資産を増やすためにもっと積極的な手が打てるようになるはずです。

 

それは、「自分で会社を持つこと」です。そうすれば、これまで給与収入だけだった世界が劇的に変化します。

 

現政権が個人の所得税を上げて、反対に会社の法人税を下げていく方針であることはよく知られています(だからこそ、少し給与が増えても「景気回復を実感できない」わけなのですが…)。

 

自分で会社を持つことができれば、個人と法人で税金の掛かり方をコントロールすることが可能となり、特に所得が多い人ほどその節税効果の恩恵を受けることができます。事実、私の専門である不動産投資の場合も、規模が一定のラインを超えるケースでは法人化して個人の所得税を抑えるメソッドが一般的です。

 

その他にも経費の使い方などで法人のメリットは大きく、誤解を恐れずに言えば「自分の会社を持つことこそ究極の資産運用」という表現もできるかもしれません。


本当の“格差”は「貧富」ではなく「知識」にある

様々な視点から考える時、確かに今の日本社会において“格差”は広がっているように感じます。

 

しかし、それは単純な「貧富の差」ではありません。「貧富の差」はあくまで結果であり、本当の格差とは「知識の差」ではないでしょうか。

 

かつて日本にも「一億総中流家庭」と呼ばれる社会が存在しました。誰でも同じ会社でずっと勤めあげさえすれば、国や企業がそこそこの人生を歩ませてくれたのです。

 

残念ながら、そんな時代はとうに終わりを告げています。今の日本社会は、知っている人間が得をし、自分で動かない人間が損をする構造になっています。

 

先ほども触れたように、その大きな原因は教育のあり方にあると思いますが、我々に日本の教育が変わるのを待っているだけの時間はありません。自分で知識欲を持ち、様々なことを学び、実践して経験を積むことが、結局自分の身を守ることになるのです。

 

見方を変えればこれは、ある意味では「“格差”のどちら側につくかは自分で決められる時代」とも言えそうです。

 

後になって悔いを残さないようにするためにも、あなたにとって「今自分にできることは何か」をこれを機にぜひ改めて考えてみてください。


(2018/03/14 文責:佐野純一)

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