不動産投資では「不労所得」は実現できない!

「自分の不動産投資、失敗だったかも…」

 

コロナウイルスによる非常事態宣言が解除され、ご面談を再開した2020年6月以降、こんなご相談が急増しています。

 

元々散発的にこの種のご相談はありましたが、自粛期間後には立て続けに発生しています。自粛中に自分の身の回りを見直す時間が持てたことで、改めて現状に不安に感じた人も多かったのかもしれません。

 

結論から申し上げると、こうした入り口のご相談において、その人が行った不動産投資が失敗ではなかったという例はこれまで存在していません。なにを持って投資を「成功」とするかは人それぞれですが、「やる前に思っていたのと違う…」という意味では、100%の確率で失敗に終わっています。

 

中にはご相談を受けている私が辛くなってしまうような悲惨な例もありますから、実際に失敗したご本人のご心労はいかばかりでしょう。そんな方を目の前にする度に、私はコンサルタントとして「これ以上不動産投資で地獄を見る人を増やしてはいけない」という思いを強くします。

 

現役の大家として私がいつも口にしていることですが、賃貸経営や大家業は決して甘くはありません。ましてや、ゼロの状態から不動産投資で「不労所得」を得ようなどとは夢のまた夢、ある種の「妄想」に過ぎないのです。

 

今回のコラムでは、これ以上不動産投資で不幸になる人を増やさないために、改めて不動産投資で不労所得を実現できない理由、いや、むしろ「不労所得」という言葉に惹かれる人ほど不動産投資に失敗すると言っても過言ではない理由を解説します。


左団扇なのは「大家」だからではなく「富裕層」だから

一体、世の中の「大家さんは左団扇」というイメージはどこから生まれるのでしょうか。

 

ほとんどの人が大家が汗水たらして働いている姿を目にすることがないというのもその原因の一つですが、今回のコロナ禍でもメディアから盛んに指摘されているように、人々が生活していく中で「家賃の負担」は決して軽いものではないため、その家賃を受け取っている大家さんは“楽な商売”というイメージが逆説的に成り立つのかもしれません。

 

確かに世間には左団扇という形容が似つかわしい大家さんも存在します。ただし、ほとんどの場合そういった大家さんは先祖代々から土地を持っていた人で、裸一貫からそうした状態までたどり着いたなどというケースはゼロに近いでしょう。数だけで言えば、宝くじで億単位の賞金を当てた人のほうがよほど多いはずです。

 

代々の地主であれば、その家は「資産家」であり「富裕層」です。会社の経営者という立場の人も多いでしょうから、別に大家業でなくても生活に不自由することはないでしょう。

 

つまり、恵まれた環境の人は大家だから不労所得を得るのではなく、そもそも富裕層だから左団扇の生活が可能となるのです。

 

ここで私が強く訴えたいのは、「現時点で資産家でない人が不動産投資で不労所得を得るのは不可能」だということです。実際に大家を生業としている私には、そう断言できるだけの明確な理由があります。


不労所得を実現できない“明確な理由”とは?

十分な資産のない人が賃貸経営で不労所得を実現できない理由。それは「不動産投資は利回りが低いから」に他なりません。

 

現状、一都三県における不動産投資の平均的な表面利回りは、せいぜい4〜6%程度です。常識的に考えて、このレベルの利回りではどう頑張っても資産を飛躍的に増やすことなどできません

 

ましてや、この利回りは固定資産税などの継続的な経費を計算に入れていませんから、不動産投資での資産の増え方はうまくいったとしても「微増」止まりです。

 

資産の少ない人がその資産を「微増」させて、不労所得を実現できるでしょうか。その答えは火を見るよりも明らかです。


不動産業者の反論は詭弁に過ぎない

こんなことを書くと、収益物件を売っている不動産業者からは以下の2点で反論が出るでしょう。

 

一つは「自己資金が少なければレバレッジ効果でカバーできる」というもの。

 

私も不動産投資のレバレッジ効果自体を否定するつもりはありませんが、現在一般的に認識されているレバレッジとは、「不動産業者が消費者に借金させるための宣伝文句」という側面が否定できず、かなり過大評価されていると言わざるを得ません。

 

また、確かに10億円規模のレバレッジをかけて(つまり“借金”をして)適正な利回りの物件を購入できればまとまった収益が期待できますが、現状で資産を保有していない人がそこまで大きな借入をできる可能性は限りなく低く、こちらも机上の空論の域を出ないと言えます。

 

もう一つは「売却益で保有資産額をジャンプアップできる」という反論ですが、これはそもそも不確定要素のためそのまま鵜呑みにすることはできません。ただ、購入や売却時の費用を償却した上で売却益を出すというのはよほどの運に恵まれないと難しい業であるのは確かです。

 

さらに冷静になって考えてみれば、将来的な売却益が見込める物件をみすみす第三者に売ってしまうような不動産業者が存在するはずもありません。そんな業者がいるとしたら、無能のレッテルを貼られても文句は言えないでしょう。


賃貸経営のメリットは「安定性」と「自助努力」

私は実際に長年大家業を行っている身として、賃貸経営のメリットとは大きく二つ、「安定性」と「自分で利回りを上げられること」だと考えています。

 

「安定性」に関して言えば、リーマンショックも今回のコロナ禍も経験した上で、世の中が大きく動いたとしても、家賃収入には「短期的な」そして「致命的な」影響が出ないということを身をもって知っています。

 

反対に考えれば、安定性が抜群だからこそ少々の利回りの低さをカバーできる。不動産投資にはそんな特性があるのかもしれません。

 

そして、大事なのが「自分で利回りを上げられること」。これは賃貸経営は「自助努力」で改善する投資方法だと言い換えてもいいでしょう。

 

私がこれまで出会ってきた、いわゆる「成功している大家さん」の中には楽して儲けようなどと考えている人は一人もいません

 

どんな収益物件であれ完璧なものは存在しないわけで、どうやって自分の物件のストロングポイントを押し出し、ウィークポイントをカバーできるか。あるいは、継続的に発生する経費をどうやって抑えていくか。

 

しっかりと収益をあげ続けている大家さんは、それこそ他の業種の経営者と同じように常に企業努力をしているのです。


「不労所得」を目指さない人だけが「不労所得」を実現する?

そんな人であれば、少しの運に恵まれれば、あるいはまとまった資産がない状態から不労所得を得る領域に達することができるかもしれません。

 

しかし、彼らにはそもそも「楽して儲けよう」という発想がないので、もしそのような状態になったとしても自らのアクセルを緩めることはないでしょう。

 

始めから不労所得を望まない勤勉な人だけが、結果的に不労所得に近づくことができる。そんなある意味皮肉な現象が、賃貸経営の世界では見られるのです。

 

反対に、やり始める前から「不労所得」という言葉に惹かれて不動産投資をする人は、自分では何もしませんし何も考えません。実際の管理も全て人任せにするために継続的な経費もかかってしまい、ただでさえ低い不動産投資の利回りを食い潰していきます。

 

さらに物件に対するメンテナンスの意識も低いので、不動産投資の最大のメリットである「安定性」を享受することもできないのです。


不動産投資はお金持ちが勝つ世界

ここでハッキリとさせておきましょう。

 

世の中には「家賃収入=不労所得」と考える人が多いのは事実です。ただ、そういう人ほど不動産投資はやめた方がいいと断言できます

 

数ある資産運用方法の中でも、特に不動産投資は資産があればあるほど有利な世界です。

 

例えば、同じ投資信託であれば貯金がない人も資産が数億円の人と原則として同じ利回りを得ることができます。ところが不動産投資では、たとえ同じ物件を購入したとしても両者の前には全く違う景色が広がります。

 

不動産投資に“ロマン”を求める人も少なくありませんが、実際はまったくの逆で、「強い者が勝つ」という身も蓋もない弱肉強食の世界が口を開けて待っているのです。

 

そんな世界で資産もなく、その上労を惜しむ人が生き残っていけるはずがありません。だからこそ、不労所得という言葉に惹かれる人ほど不動産投資に手を出してはいけないのです。


楽して儲けたい人ほど向いていない!

「現役大家FP」という仕事柄、私はこれまで不動産投資で大火傷を負った人をたくさん見てきました。

 

不動産投資はなにも特別なものではなく、単に数ある資産運用の方法の一つに過ぎません。

 

他の方法と同じようにメリットもデメリットもあるわけですが、動くお金の単位が大きい分、少なくとも生半可な気持ちで選択する手段ではないと言い切ることができます。

 

既に述べたように、本来低い利回りをどう工夫して改善していくが勝負の分かれ目になる手法ですから、楽して儲けようと考えている人には最も縁遠い世界と言えるはずです。

 

残念ながら、今日も日本中の至る所で投資不動産の広告が垂れ流され、毎日のようにどこかでセミナーと銘打った不動産業者の営業行為が繰り返されています。

 

そうした不動産業界全体の動きに比べたら、不動産投資への警鐘を鳴らすこのコラムなど存在しないに等しいちっぽけなものでしょう。

 

それでも、この文章を目に留めたことで不動産業者に騙される人が一人でも減るのであれば、このコラムを書いた意味があると私は考えます。

 

それが、私が「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)として果たすべき社会的義務だと信じているからです。


(2020/07/22 文責:佐野純一)

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