「レバレッジ信仰」の正体とは?

「レバレッジ効果こそ不動産投資の醍醐味!」

 

不動産投資を語る時、そんな風に断言する人は少なくありません。

 

そのほとんどが不動産業者の営業マンか実際に賃貸経営をしたことのない人なのはご愛嬌ですが(笑)、この「レバレッジ効果」に対する過信は不動産投資の世界においてかなり浸透しています。この状態は、もはや「レバレッジ信仰」と言っても過言ではないでしょう。

 

しかしその一方で、昨今の金融機関の情勢変化により、収益物件に対する融資基準はどんどん厳しさを増しています。

 

実際に「欲しい物件があるけど融資が通らない」という悲鳴があちこちで上がっており、そのために不動産投資自体を断念せざるを得ないというケースも目立ってきています。

 

中には手元に十分な資金を持ちながら、「借入ができないのであれば(レバレッジ効果が期待できないのであれば)、不動産投資はやらないほうが良い」という人もいますが、果たしてこの意見は本当でしょうか。

 

今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、自己資金とリスクの関係を通して、「レバレッジ信仰」のホントのところを解説します。


レバレッジ効果は過大評価されている

まず確実に言えることは、現在の不動産投資の世界においてレバレッジ効果は過大評価されているという点です。

 

私のところに不動産投資の相談に来る方の中には、無邪気に「ローンは借りられるだけ借りた方がいいんですよね!」などと言う人もいて、その度に私はゾッとさせられます。そうした人はレバレッジ効果の良いところだけを聞いて、「借金の怖さ」を認識していないからです。

 

改めて、レバレッジ効果というものを考えてみると、そこに大きな二つの前提があることに気付かされます。

 

その二つの前提とは、即ち「高い利回り」「低い金利」。この二つが揃って初めて、レバレッジはその名の通り「テコの原理」の力を得ることができるわけです。

 

そのことを踏まえた上で、現在の不動産投資市場を見渡してみましょう。

 

アパートローンの「低い金利」はともかく、「高い利回り」の物件はほとんど見当たりません。たまに目を引く利回りのものがあったとしても、それは再建築不可や借地権、あるいは旧耐震の古い物件等のいわゆる“ワケあり物件”です。

 

例えば、表面利回り4%の物件を金利2%のフルローンで購入したとしたら、レバレッジ効果は期待できるのでしょうか。

 

両者の差はわずか2%。しかも4%はあくまで表面利回りですから、管理費や固定資産税などの必要経費を差し引けば、その差はほとんどなきに等しいと言えるでしょう。建物が目に見えないスピードでゆっくりと劣化していくことを考えれば、「テコの原理」どころかむしろ「逆ザヤ」と捉えるべきです。

 

文章にすると実に当たり前のことに聞こえますが、レバレッジ効果とは「借金をすれば良い」ということでは決してありません。「高い利回り」と「低い金利」の二つの要素が揃わなければそもそも「テコの原理」は働かず、ただ徒らに借金をしただけという状態になってしまうのです。


レバレッジの効かない借金は怖い!

率直に言えば、レバレッジ効果の期待できないアパートローンほど怖いものはありません。そんな条件であるならば、よく巷で耳にする「不動産投資なんてやらないほうがいい」という意見にも頷けます。

 

しかしながら、「借金をしてまで不動産投資をするべきではない」という意見と「不動産投資自体が無意味」という主張は本質的に別問題です。

 

一口に「不動産投資」と言ってもそのアプローチ方法は様々です。

 

不動産投資は、「不動産」という金融機関に対して担保価値を提供しやすいものを扱うために、たまたまレバレッジ効果と相性が良いというだけで、「必ず借金をして行わなければいけない」ということではないはずです。

 

むしろ月々のキャッシュフローを手にするのが目的であれば、借入金をなるべく減らして自己資金を多く投入する方法が有効です。借入金の毎月の返済額が少なければ少ないほど、手元に残るお金は自ずと多くなるからです。

 

先ほど例に挙げた表面利回り4%の物件も、借入なしで購入したのであれば立派な資産運用の選択肢となります。諸経費や税金を差し引いた後でも、少なくとも銀行の普通口座に預金を寝かせておくよりはよっぽど効率のよい投資と言えるでしょう。


「レバレッジ」と「リスク」のどちらをとるのか?

不動産投資本や情報サイトを覗くと、レバレッジ効果の威力を声高に謳っている場面によく出くわします。中には「自己資金で不動産投資を始めるなんてバカな人がやること」といって内容まで目にします。

 

しかし、見方を変えれば賃貸経営において「自己資金の多さ=安定性の大きさ」というのは歴然とした事実です。自己資金を多く投入することでレバレッジ効果が薄れる分、「ブレ幅」という意味のリスクを抑えることができるのです。

 

その意味ではレバレッジ効果とリスクは「トレードオフ(二者択一)の関係」と考えることができるでしょう。全ての人にとっての正解があるわけではなく、どちらを重視するかでその人にとっての最良の選択肢は変わってきます。

 

理想を言えば、「高い利回り」と「低い金利」という二つの条件を実現した状態で、なおかつ自己資金を手元に残しておけるのであれば、“最高の不動産投資のスタート”と考えられるかもしれません。

 

現状でレバレッジ効果を享受しつつ、将来的に金利が上昇するようなことがあれば、その時点で手元の資金を投入して(つまり繰上げ返済をして)リスクを回避することが可能になるからです。

 

この場合の追加投入資金は、ブレ幅に対する“特効薬”とも言える存在になるでしょう。


借金への恐怖心をなくす魔法の言葉?

現在の不動産投資業界において、明らかに過大評価と言えるほどレバレッジ効果が喧伝されているのは、ひとえに物件を売りつけたい不動産業者の思惑に過ぎません。

 

平たく言ってしまえば、「手持ち金のない人に物件を買わせるための方便」。それが「レバレッジ信仰」の正体です。

 

誰だって借金はイヤなもの。それが何千万、あるいは何億という額であればなおさらです。

 

その借金への抵抗感を減らすことこそが、不動産業者がレバレッジ効果を声高に叫ぶ目的です。そんな彼らの思惑にまんまと乗っかって、後で痛い思いをするのは投資家である大家に他なりません。

 

既に触れたように、「高利回り」と呼べるような収益物件などほとんど見当たらないのが不動産投資業界の現状です。

 

そんな時期だからこそ、レバレッジ効果の正体を冷静に見極め、改めて不動産投資における“自己資金の役割”を見直す良いタイミングだと言えるでしょう。


(2019/6/19 文責:佐野純一)

よく読まれている人気ページ