「オレは離婚してでも買う!」
こんな不穏なセリフが私の面談中に飛び出すことがあります。
まるでご夫婦の問題を扱う弁護士事務所で聞こえてくるような言葉ですが、実はこのセリフが不動産投資のご相談の時に発せられるとしたら皆さんは驚かれるでしょうか。
実際に賃貸経営を営む「現役大家」であり、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)でもある私のところには、日々不動産投資や賃貸経営に関するご相談が寄せられます。
ご夫婦でご相談にいらっしゃるケースも多いのですが、不動産投資に関してはお二人の間で意見が対立することも少なくありません。
どんな状況になれば冒頭のような不穏なセリフが飛び出すのでしょうか。
物件を売ることが目的ではないコンサルタントの立場からFPが「不動産投資をめぐってご夫婦が対立する問題」を解説します。
不動産投資の場合、ご夫婦で意見が分かれる場合が多いと書きましたが、多くの場合、“収益物件を買いたい”ご主人と“それを不安に思う”奥様という組合せになります。
「妻に分からせてやってくれ」とご主人からご連絡いただくこともあれば、反対に奥様から「主人の目を覚まさせてください」とご依頼を受けることもあります。
私は特段どちらの味方というわけではありませんので(笑)、まずは中立の立場からお互いのお話を伺うことにします。
話を聞いてみると、ご主人様が不動産投資を過大評価している場合もありますし、逆に奥様が過度に恐れているケースもあります。一番多いのは「その両方」というパターンかもしれません。
そんな時、私はいつものように不動産投資の“本当のところ”をご説明するところからスタートします。今の世の中に出回っている情報は、そのほとんどが「物件を売りたい」だけの不動産業者の理屈で構成されており、不動産投資の実態が消費者まで正しく伝わっていないからです。
その結果、ご相談者にとって不動産投資や賃貸経営が適切な解決策となり得るのであれば、そのようにお勧めすることもあります。
この時、私が中立的な立場でお話ししたことが伝われば、奥様の抵抗感もずっと弱いものになります。面白いもので、一度納得するとこれまで懐疑的だった奥様のほうが積極的になる例も往々にしてあります。
一方、ご主人様が不動産業者の甘いセールストークに乗せられているだけと判断した場合は、私はその方の不動産投資に強く反対します。実際に自分が行う資産運用の“本当のところ”を理解していなければ、その方法で成功することなど到底不可能だからです。
ただ、中には私が明確な根拠を持って反対の理由を述べたにも関わらず、頑なに物件購入にこだわる方もいます。
ここまで来ると既に感情論の域に達してしまい、「どうしても欲しい」「オーナーになりたい」という気持ちを理屈で抑えるのが難しくなってしまいます。
「どうしても株を買いたい」とか「反対されても投資信託を買うんだ」という理由でご夫婦で揉めるという話はあまり耳にしたことがありませんから、これはある意味で「不動産投資特有の現象」と言えるでしょう。
考えてみれば、投資用でないご自宅に関しても「一国一城の主になりたい」とか「持ち家の安心感」という感情面からの動機で購入を検討する人がいますので、これは不動産という「目に見える現物」が持つ一種の“魔力”のようなものなのかもしれません。
しかし、こうなってしまうと不動産投資肯定派のご主人と否定派の奥様の話し合いは平行線を辿ります。
私もコンサルタントとしてアドバイスはしますが、結局のところ不動産投資は運用の一種。失敗する可能性が高い案件でも、確かな未来は誰にも断言はできません。
そのまま感情が昂ると、冒頭の「オレは離婚してでも投資用マンションを買う!」や、あるいは「収益物件を買って、ダメだったら離婚して自己破産する!」といった物騒なセリフが飛び出す事態になってしまうのです。
ただ、少しシビアなことを言えば、「ダメだったら自己破産する」などと口にする人は、そもそも不動産投資には向いていないと思います。どんな形であれ、不動産投資は立派な事業。始めから失敗を前提に自分の責任を果たそうとしない人にはとても務まりません。
とは言え、ご夫婦でここまで問題が拗れてしまうと今後の家庭生活にも悪い影響を与えかねないでしょう。
ここは一つ、事態収束のためにご夫婦として検討いただきたいことがあります。問題解決のポイントは「心理的コスト」です。
「コスト」と聞くとほとんどの人が金銭的なものを連想すると思います。
しかしながら、コストとはなにもお金のことだけを指すものではありません。何かを行うために使う手間は「労力的コスト」ですし、費やす時間は「時間的コスト」となります。
その中でも認識しづらいのが「心理的コスト」です。何かを行う際に発生する“プレッシャー”や“イライラ”がそれに相当します。
例えば、世の中には運用商品全般に対して強い不安感を覚える人が一定数存在します。
私個人としては「人生には何らかの投資要素を持つべき」だと考えていますが、それでも保有している株のほんの少しの値動きが気になって夜も眠れなかったり、パソコンの前から離れられないようでは日常生活に支障がでます。
もしそんな状況であるならば、その人は資産運用に対し「心理的コストが高すぎる」と考えられます。なにも無理矢理投資をする必要はないでしょう。
不動産投資に不安を抱えている人であれば、配偶者が自分の反対を押し切って収益物件を購入した場合、それから先ずっと「失敗したらどうしよう…」という心理的コストを払い続けることになります。
一方で、「収益物件をどうしても買いたい!」という人は、逆に投資をしないことで心理的コストがかかっている状態と言えるかもしれません。
それによって家庭に不和の風が吹き込むようであれば、ご夫婦でそれぞれの心理的コストの妥協点を見つけるのが現実的な解決策と考えられるはずです。
不動産投資で考えた場合、あまり大きな借入をせずに予算規模を縮小することでお互いの落とし所が見つかる可能性が高くなりますが、もっと視野を広くもって投資方法全般を検討しても良いでしょう。
収益物件の購入にこだわっている人も元々の目的は不動産投資そのものではなく、自分の資産を大きくすることだったはず。資産運用全般を見渡せば、「リスク(=ブレ幅)」が少ない方法で投資をスタートさせることもできます。
既に触れたように投資は結果論であり、正解は後からついてくるものに過ぎません。その意味で、なかなかご夫婦で納得する着地点を見つけるのが難しいのは確かです。
ただ一つ言えるのは、誰にとっても資産運用はその人とライフプランと密接な関係を持っているということ。
そもそも必要な「生活資金」や投資に回せる「余剰資金」がわからないのであれば、自分にとって適切な資産運用を検討することすらできません。
夢のないことを言うようですが、不動産投資は単に資産運用の方法の一つ。他の方法と比べて特に優れているわけでも劣っているわけでもなく、ただ「この方法ならではの特色がある」というだけのお話です。
ご家庭の様々なコストを包括的に考えた上で、不動産投資に固執することなく、自分達にあった資産運用を探すことが大切です。