「不動産投資の時代」は本当に終わったのか?

「誰でも不動産投資ができる!」

 

そんなフレーズをあなたも耳にしたことがあるはずです。TVのコマーシャルで聞いたことがある人もいるでしょう。あるいは、巷に溢れる不動産投資本の帯に書いてあったのかもしれません。

 

つい最近まで、日本では“不動産投資ブーム”が起こっていると言われていました。冒頭のような不動産業者の宣伝文句も日常的に飛び交っていたものです。

 

しかし、そんな状態も今は懐かしさすら感じます。ここ1〜2年で誰も“不動産投資ブーム”などという言葉を口にしなくなってしまったからです。

 

果たして、現在の日本において「不動産投資の時代」は終わってしまったのでしょうか。そして、そんな時代が終わったのであれば、それはどんな理由によるものなのでしょうか。

 

自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、平成の最後を彩った“不動産投資ブーム”を検証します。


海外資本が日本の不動産投資を加熱させた

今、改めて振り返ってみて、日本を席巻した“不動産投資ブーム”とはどんな現象だったのでしょうか。

 

日本における不動産投資がブームと呼ばれるまで加熱したのには、大きく二つの理由があるように思えます。

 

一つ目は、日本の不動産に海外の資本が入ってきたことです。特に中国からの資金流入は激しく、そうした顧客層に対応するべく中国語に堪能なスタッフを大幅に増員する不動産業者もあったほどです。

 

中国というお国の特殊性もありますが、当時の日本の不動産は世界的に見ても割安感が強く、海外投資家がこぞって購入に動くのは自然の流れだったのかもしれません。

 

海外の投資家ですから実際に物件を見ないで購入する人も少なくなく、労力の点からも不動産業者にとっては「良いお客さん」でした。そのため営業に力を入れる不動産業者との相乗効果もあり、多くの物件が海外投資家によって買われていったのです。

 

ただ、そんな状態は永くは続きません。日本の不動産人気が高まれば、マーケットの原則から当然物件価格は上昇傾向に入ります。いわゆる「売り手市場」と呼ばれるものです。

 

加えて東京でのオリンピック開催決定を主原因とする建築費の高騰により、徐々に日本の不動産は割安感を失うことになります。

 

その結果、海外投資家の熱も冷めていき、不動産市場は高止まりのまま、動きがどんどん鈍くなっていきました


低金利化で「誰でもお金が借りられる時代」に

もう一つ、“不動産投資ブーム”を牽引したのが、アパートローンの低金利化です。

 

2016年1月に日銀によって導入されたマイナス金利に象徴されるように、これまでに例のないほどの低金利時代を迎えている日本の金融業界。

 

住宅ローンでは十分な利益を確保できなくなった多くの金融機関が収益物件への融資を積極的に行うようになり、土地をもっていない(=担保を提供できない)人でも大きなお金を借りられるようになりました。貸す側の金融機関にも競争原理が働き、中には一般的な住宅ローンよりも低い金利で貸し出しを行う銀行もあったぐらいです。

 

そんな“不動産投資ブーム”に大きなブレーキをかけたのが、2018年に表面化した「かぼちゃの馬車事件」です。

 

「かぼちゃの馬車」をブランド名として、「高利回り&サブリース(家賃保証)」を謳った自社のシェアハウスを販売していた株式会社スマートデイズ。実際にはビジネスモデルとしてそもそも成立しておらず、会社の破綻により家賃保証を維持できなくなったことで多くの投資家が被害を被りました。

 

スマートデイズの姿勢もさることながら、融資を担当したスルガ銀行の違法行為もメディアの注目を浴び、、大きな社会問題となったことは記憶に新しいところです。

 

実は「かぼちゃの馬車事件」より一年以上前から、金融庁は加熱するアパートローン市場に警告を出していました。無理な融資で債務不履行が増えることを既に懸念していたのです。

 

その意味では「かぼちゃの馬車事件」は単なるトリガーでしかなく、遅かれ早かれ似たような事案は発生していたでしょう。


「不動産投資ブーム」は忘れた頃にやってくる?

ともあれ、「かぼちゃの馬車事件」をきっかけに「不動産投資は怖いもの」という認識が一般的に広がりました。

 

そのころから“不動産投資ブーム”という言葉はぱったり聞かなくなり、逆に「不動産投資の時代は終わった」とあちこちで囁かれるようになったのです。

 

どんなことについても言えることですが、栄枯盛衰はこの世の常。全てのものに流行り廃りがあり、不動産投資もその例外ではありません。

 

“不動産投資ブーム”についてもなにも今回が歴史上初めてというわけではなく、かつてのバブル時代には「土地は借金してでも買え!」と言われたのは有名な話であり、その結果、バブルが弾けて地獄を見た人が大勢出たことは誰もが知るところです。

 

バブル時代とは昭和の終わりから平成の始め頃を指すものですが、それから30年近い時を経て、平成の末期に再び“不動産投資ブーム”が起こりました。

 

少し意地の悪い言い方をすれば、“平成最後の不動産ブーム”とはバブル崩壊時に味わった痛みを知らない人たちによって支えられていたもので、そのことはつまり、また時が経って今の痛みが風化してしまえば、同じようなブームが起きる可能性が高いことを意味しています


資産運用の「ブーム」とは“売り時”のこと!

これは不動産投資に限らず資産運用全般に言えることですが、そもそもブームに乗っかっている限り投資で成功するのは難しいと言わざるを得ません。

 

「ブームになっている」ということは「需要が供給を上回っている」、つまり「価格が上昇している」ということに他なりませんので、それは「買い時」ではなく「売り時」であることが明らかだからです。

 

ブームに乗っかって新規参入してきた人はそれまで地道に仕込んできた人の格好のカモでしかなく、事実ここ数年で「所有している物件が高く売れた!」という案件は多くても、「収益物件を買って良かった!」というケースにはなかなかお目にかかれません。

 

不動産投資の世界においては、長期間に渡る大きな流れを知らないと物件に対する鑑定眼を養うのも難しく、ましてや賃貸経営を「不労所得」と甘く見ている人は、控えめに表現しても「不動産業者の餌食」になるだけなのです。


不動産投資の新しい時代が幕を開けようとしている!

結局のところ、「誰でも不動産投資ができる」という宣伝文句の真の意味は、「誰でも不動産投資を“始めることができる”」ということに過ぎません。

 

決して“成功できる”と主張しているわけではなく、宣伝している不動産業者側もそんなことは百も承知でしょう。

 

その意味では、数年前の日本では“不動産投資ブーム”は確かに起こっていたかもしれませんが、「不動産投資の時代はそもそも始まっていなかった」とも考えられるはずです。

 

投資家目線で考えれば、「売り時」とは資産運用の一つのサイクルの終焉を示すものであり、同時にこれから訪れるであろう“不動産投資ブームの下火”は仕込み時期へ移行を意味しています

 

不動産投資のことを真剣に考え、なおかつ実行する力がある人にとってはチャンス到来とも考えられ、むしろそれは「新しい不動産投資時代」の幕開けを告げる合図なのかもしれません。


(2020/04/22 文責:佐野純一)

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