「お金の裏技」とは魅惑的な響きだが…

「お金の裏技」などという言葉を聞くと、世の中には訳もなく胸が躍ってしまう人がいるかもしれません。それによって自分に何か得があると期待できるのであれば、なおさらこの言葉は魅惑的な響きとなるでしょう。

 

実際に私の得意分野である不動産投資の世界では、「お金の裏技」と呼ばれるような手法がいくつか存在しています。

 

いえ、より正確に表現するのであれば、物件を売りたい不動産業者によって「不動産投資のメリット」として宣伝されるような方法があると言ったほうが良いかもしれません。

 

しかしながら、どんなに魅力的に思えてもいわゆる「裏技」とは所詮小細工の類に過ぎません。そして、どんなことについても言えることですが、小細工に溺れてもろくな結果は決して生まれないものです。

 

今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、「お金の裏技」という甘い響きに惑わされたばかりに不動産投資で失敗した実例をご紹介します。


事例@ 「家賃収入は確定申告しなくてもいい?」


一つ目の「お金の裏技」は、「本来必要な確定申告をしない」というものです。

 

「確定申告をしない」ということは、そのまま「払うべき税金を支払わない」ということを意味します。

 

以前ご相談を受けた方で、投資用ワンルームマンションを購入してから20年近くも確定申告をしていない人がいました。私が驚いてその理由を尋ねると、その人は不思議そうにこう答えたのです。

 

「えっ? 家賃収入が100万円ぐらいだったら確定申告しなくていいって聞きましたけど?」

 

おそらくこれは「会社員の副業の所得が20万円以下の場合は確定申告が不要」というルールを曲解したものだと思われますが、そもそも“収入”と“所得”の区別もつかないような不動産営業がテキトーな説明をして、買った人がそのまま鵜呑みにしてしまったのでしょう。

 

不動産所得の計算方法については少し複雑になるので別のコラムに譲りますが、100万円の家賃収入であればどこかのタイミングでその所得が20万円を上回っている可能性は高く、その場合これは立派な脱税行為になります。

 

確かに、現実問題としてはこうしたケースに税務署からの調査が入ることは滅多にないでしょう。調べる側の税務署としても、その労力に見合うだけの追加徴税が期待できないからです。俗な言い方をすれば、税務署にとって「元が取れない業務」ということになるかもしれません。

 

ただ、言うまでもなく納税は国民の義務です。「バレなければ良い」というものでは決してありません。

 

さらに言えば、ワンルームとはいえ賃貸経営は立派な事業です。税金をちょろまかそうなどという甘えた考えでは、とても長いスパンでの経営などできるはずもありません。

 

なお、この案件では結局確定申告をしていなかったことが原因で、新しい住宅ローンを組むことができませんでした。融資申請用の書類でアパートローンを申告している一方で、それに対する確定申告がされていないことを金融機関が問題視したためです。

事例A 「ワンルーム投資で接待交際費が認められる?」


投資用ワンルームの営業マンが、セールストークとしてテキトーなことを言った例は他にもあります。

 

それは「ワンルームマンション投資でも接待交際費が認められる」というもの。こちらは確定申告をすることを前提とした「お金の裏技」です。

 

接待交際費が認められるということは、確定申告の際にそれを経費として計上できるということ。当然その分の税負担が軽くなり、結果として節税になるというのがその理屈です。

 

ただ、冷静に考えてみてください。現実問題としてワンルームマンションを貸している大家が誰を接待するというのでしょう。一棟の賃貸マンションを所有している私でさえ、誰かに対して接待行為をするということはほとんどありません。

 

結局のところ、ワンルームマンションの大家が接待費として計上するものは、自分で飲み食いした飲食費ぐらいのはずです。

 

これも費用対効果を考えれば税務調査が入る確率は低いかもしれませんが、もし税務署からの問い合わせがあった場合、相手が納得する説明をするのは難しいでしょう。自分の飲食費を経費として計上しているとしたら、それは脱税行為となることを忘れてはいけません

 

また、仮に自分が飲み食いした分を接待費として経費計上できたとしても、ワンルーム賃貸の事業規模を考えれば、その金額はたかが知れています。

 

わずかな額の節税に目が眩んで、そもそも収益物件として成り立っていない物件を購入したのでは本末転倒です。

 

少し厳しいことを言うようですが、このような小細工にばかり目がいってしまう人は不動産業者にハズレ物件をつかまされる可能性が高く、わずかに節税できた分の何倍ものお金が出て行ってしまう未来が容易に想像ができます。

事例B 「収益物件でも住宅ローンが借りられる?」


最後に紹介するのは、「住宅ローンで投資用の物件を購入した」という例です。

 

このケースに関しては、2019年に代表的な住宅ローンの一つである「フラット35」を舞台とした不正融資問題としてマスコミにも取り上げられましたので、ご存知の方も多いかと思います。

 

そもそも論となりますが、フラット35を含む住宅ローンは原則としてお金を借りる人が住む「自宅」専用です。他者に貸して賃料を得る収益物件は借入の対象外となります。

 

その大前提を破ってまで、なぜ住宅ローンで投資用物件を購入しようとする人が現れるのでしょうか。

 

それは「金利が低いから」という理由に集約されます。同じ家賃収入であれば、毎月のローン返済額が低いほどキャッシュフローが良くなるのは誰の目にも明らかです。

 

しかし、これは契約違反という名のれっきとした不正行為です。

 

住宅ローンの金利の低さは、その「自宅専用」という性質が根拠となっています。「生活の基盤である大切な自宅ならばローン返済の意欲も高く保たれるだろう」というのが金融機関の考え方のベースになっているからです。

 

一方、収益物件の場合、借入した本人が住んでいるわけではありませんから、万が一ローンが焦げ付いたとしても住処を失うわけではありません。自宅がなくなるのとは緊急度が違いますから、家賃収入が低下すればローンを払わなくなる人が出てくる可能性も高くなります。

 

一般的に投資用物件のローン(いわゆるアパートローン)は住宅ローンより金利が高いわけですが、その差は金融機関にとっての「危険手当」といった意味合いがあるのです。

 

危険性が異なる両者に対し、同じ条件のローンを組んだのでは公平性が保てません。

 

そのため、住宅ローンを組む時に交わされる金消契約(金銭消費貸借契約)の契約書には「自宅以外の借入には使用できない」という旨が明記されています。もし対象が投資用物件であることがわかった場合には、明確な契約違反となり、即時の全額返納が求められることになります

 

少し前に話になりますが、不動産業者の主導でそういったフラット35の不正利用をしようとしている方からご相談を受けたことがあります。

 

上記のような説明をした上でかなり強く反対しましたが、既に引き返せないようなところまで不動産業者の術中にはまっていたようで、残念ながらその人に私の言葉は届きませんでした。

 

フラット35の不正融資が明るみになった現在、その人はどうしているでしょう?

 

契約違反により全額返納を求められたでしょうか。それともいつバレるかと怯えながら過ごしているでしょうか

 

いずれにしても、不正と知った上で自らが行った行為にはきちんと責任をとらなくてはならないのです。

事業なら経費を上回る利益を出すのが当然!

当たり前ですが、不動産投資や賃貸経営の目的は「家賃収入を稼ぐこと」。この一点につきます。

 

規模の大小はあれ、立派な一つの事業ですから、それにまつわる経費や税金が発生するのは当然です。そうした事業活動で発生する支出を上回るような儲けを出せないのであれば、そもそも行う意味自体がないと言えます。

 

「お金の裏技」という言い方をしたところで、小細工はどこまでいっても小細工です。特に不動産投資の場合は少なくとも数千万円規模の事業を行うわけですから、いくら小細工をしてもそれだけで良い結果を得られるはずがありません。

 

お金儲けは正々堂々と

 

結局のところ、それがあなたの資産を大きくしていくための一番の近道なのです。


(2021/02/17 文責:佐野純一)

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