「不動産投資に向いている人ってどんな人ですか?」
自ら一棟マンションの賃貸経営を行う大家であり、また「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)でもある私は、時折こんな質問を受けることがあります。
あるいは、不動産投資の相談を受けている中で、私自身が「このお客様は賃貸経営に向いているな」とか、反対に「不動産投資とは相性が悪いな」と感じることもあります。
もちろん、不動産投資や賃貸経営には様々な形があり、正解は一つではありません。大家業という仕事にも、「こうしなくてはならない」という決まった答がある訳ではないはずです。
ただ、それでもやはり「不動産投資に向いている人、向いていない人」というのが存在するのは否定できません。
さらに言えばこれは、「その人にとって最適な運用方法が本当に不動産投資か」を判断する重要な基準ともなります。不動産投資に向いていない人が、数ある資産運用の選択肢の中からわざわざ不動産投資を選ぶ必要はないからです。
そこで今回は、「現役大家FP」である私が考える“不動産投資に向いている人”を解説したいと思います。あくまで主観に基づく判断になりますが、自分に不動産投資という方法が合っているのかお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
不動産投資に向いている人として、まず挙げられるのが「自分の土地を持っている人」です。
「そんなの当たり前じゃないか!」と怒られそうですが(笑)、やはり元から自分の土地を持っているアドバンテージは大きなものがあります。「自分の土地を持っている人は賃貸経営に挑戦する資格を持っている」と言い換えてもいいかも知れません。
ただし、土地を持っている人の全てが不動産投資に向いているわけでもありません。当然ながら、その人が所有している土地によって状況は大きく変わってきます。
もし、あなたが現在使用してない土地を持っていて、その対応を不動産業者に相談しにいったら、すぐに「売りましょう!」という話になるはずです。仲介手数料を収益源にしている彼らは、その土地が売買されなければ商売にならないからです。
一方で同じ土地のことをアパート建設会社に相談に行けば、今度は「アパートを建てましょう!」という流れになります。こちらも建設を受注しなければ自分たちの儲けにつながりませんから、その反応はある意味当然と言えます。
そんな両者の主張に違和感を感じた方が私のところにご相談にいらっしゃることも多いのですが、「この土地をどうすればいいのか?」、これは本当にケースバイケースです。
私は基本的にその土地をどれだけ活用できるかを十分検討した上で、最終的に売却か否かの決定を行うべきだと考えています。結果として売却することになったとしても、その土地の持つポテンシャルを探ることで高値での売却につながる可能性があるからです。
しかしながら、言葉では「土地活用」と簡単に言っても、世の中には「賃貸には向かない土地」というものも実際に存在します。
人口が少ないエリアや駅から遠い場所などはもちろんですが、一般的に高級住宅街といわれるような地域では容積率や高さ制限などの規制が厳しく、ロケーションは抜群でもアパートを建てるには不向きな土地もあります。
まずは、その土地でどのような賃貸経営ができるのか。その見極めを行うことが大切です。
もちろん土地を持っていなくても不動産投資に向いている人はいます。それは、土地以外に「それ相応の資産」がある人です。
この「相応」というのが具体的にいくらのことを指すのかは判断が難しいところですが、端的に言えば、手持ちの現金で土地を購入することができれば、アパート自体はローンで建てたとしても初めから土地を持っている人と同じスタートラインに立つことができます。
土地を即金で購入できるほどの資産を持っている人はそれほど多くはないかもしれませんが、例えば、それぞれ高水準の収入がある子供のいないご夫婦(俗に言うパワーカップル)で、あまりお金を使わない(あるいはお金を使う暇がないほど仕事が忙しい)家庭などでは、気がついたら数千万円の預貯金があったというケースもあります。
このようなケースでは、手元にある資金を上手に使うことで収益性のある賃貸経営を始めることが可能でしょう。
それ以外にも、これまで証券運用で築いてきた資金を不動産投資に投入したり、あるいは相続財産として多額の現金を手に入れた等、「土地に相当する資産」を持っているのであれば、この人も賃貸経営に挑戦する資格を有していると言えます。
ただし、土地を含めたアパート購入(いわゆる「一棟買い」)で不動産投資を始める場合は、現実的には条件の良い土地の確保が難しく、結果として「元々賃貸経営に向いた土地を持っている人」ほどの利回りに達しないことが多いという点には留意するべきです。
裏を返せばこれは、既に土地を所有している場合、その土地を手放すのには十分な検討が必要であることを意味しています。
「土地がなくても、自己資金が少なくても、賃貸経営はできる」
どこかの不動産業者がこのような宣言文句で大々的に広告を展開していますが、賢明なあなたにはおわかりのはずです。もちろん、世の中はそれほど甘くありません。
この場合の“できる”は、不動産投資を始めることが“できる”という意味。決して、不動産投資を成功させることが“できる”わけではありません。現在の不動産投資の利回りでは、フルローンで組んだ借入を自分の手出しなしで返済することなど夢のまた夢だからです。
本当に土地もなく自己資金も少ない状態から賃貸経営を始めるのであれば、始めてからの追加投資を覚悟しなければなりません。開始時に投入しなかった資金を、その後の長い不動産投資の中で少しずつ出していくようなイメージです。
この方法を実現するためには、日々の生活の中に継続的なキャッシュフローがあることが絶対条件になります。サラリーマン大家であれば、これからのライフプランにおいて単純にお金に困らないだけでなく、大きな余剰資金が生まれるような状態です。
これから大きな余剰資金を生み出すことができる家庭が、現時点で自己資金がないという状況には大きな矛盾を感じますが(反対に言えば、今現在で手持ち資金が少ない人がこれから余剰資金を生み出し続ける可能性は低い)、一時的な大きな出費等、なにか特別な理由があればこのようなシチュエーションも考えられなくはありません。
仮に現時点手持ち資金がなかったとしても、本当に今後長期間にわたり所有する物件に追加投資を行えるのであれば、その人も不動産投資を行う資格があると言えるでしょう。
注意したいのが、「キャッシュフローがある人」=「高収入な人」ではないという点です。
一般的に「高収入」とされる家庭でも日々のキャッシュフローに余裕のないケースは数多く見られます。いくら稼いでも、右から左へとお金が出て行ってしまうような家庭では、今後長期間に渡って追加投資を強いられる不動産投資に手を出すのは危険すぎます。
さらに言えば、こうした人はその収入から高額なアパートローンを組めてしまうのが厄介なところ。属性の良さで大きな金額のアパートローンを組んでみたものの、追加投資が行えずに身動きが取れなくなるパターンは、ある意味典型的な不動産投資の失敗例と言えるかもしれません。
不動産投資の醍醐味はいろいろありますが、最も大きな魅力の一つに「自分で利回りを上げることができる」という点があるでしょう。
例えば、募集方法に工夫を凝らして家賃設定を上げてみたり、業者を選定することで管理費等の支出を抑えることができれば、その物件の利回りを自らの手で上げることができます。これは証券運用などにはない、不動産投資の大きな特徴です。
もちろん、そうした工夫がいつもうまくいくとは限りません。まったくの徒労に終わったり、最悪の場合、逆に利回りが下がることもあるでしょう。しかし、それが自分が一生懸命に考えた結果であれば、それを受け止め反省として次に活かすこともできるはずです。
大家として大事なのは賃貸経営がうまくいくための努力を継続的に行うことであり、誰かに作業を任せっぱなしでは、自分の経験値として蓄積することはできなくなってしまいます。
その意味で賃貸経営は、「自分であれこれ考えるのが好きな人に向いている」と言うことができます。
逆の言い方をすれば、自分で考えたり、実際に行動を起こすのが苦手という人にはオススメできません。大家としての他の条件が同じであれば、自分で利回りを上げようと努力する人には敵わないからです。
業者の広告では「不労所得」という言葉が踊ることが多い不動産投資ですが、そう考えると実際にはその逆であることがわかります。
どれだけ自分の物件のストロングポイントを押し出せるかが、大家としての勝負の分かれ目。そのためには日頃から労を惜しまず、所有する物件の細部まで目が行き届いているかどうかが重要になってきます。
私の経験上、「不労所得」という言葉に食いつく人ほど自分で考えようとする力が弱く、本来であれば不動産投資に向いていない人が不動産業者の広告に惹きつけられる様は、なんとも皮肉な光景としか言いようがありません。
不動産投資に向いている人、最後はやはり「不動産が好きな人」、これに尽きます。
大家として成功するためには労を惜しんではいけないということは既に述べた通りですが、賃貸経営に積極的に携わっていくということは、そこに費やす時間も多くなるということ。不動産に興味がない人であれば、その時間は苦痛以外の何物でもないでしょう。
これは他の運用方法にも言えることで、例えば株式投資をおこなうのであれば、その対象となる企業はもちろん、世界のマーケット全体に関する知識は不可欠です。元々そうしたことに興味があり、楽しみながら知識を集められるのであれば継続した安定運用も可能でしょうが、市場についてなんの知識も興味もなく、ただ一時的な情報を元に株式投資を始めたのであれば最終的な成功を収めるのは難しくなります。
もし、市場情報の収集に多大な努力と苦痛が伴うのであれば、その人は株式投資に向いていないと言っても過言ではないはずです。
不動産投資にもまったく同じことが言えます。
元々不動産が好きな人であれば、普段街を歩いている時からいろいろな建物を自然と見ています。そのことが観察眼を養い、不動産投資に必要な「物件を正しく見る力」を形成していくのです。
そもそも不動産に大した興味もなく、ただ業者の甘い言葉に乗っただけの人には、物件の良し悪しを判別することはできません。その結果、とんでもないハズレ物件を買わされる羽目になったりします。
また、長い賃貸経営の中ではうまくいかない時期も必ず存在します。そんな時、不動産が好きな人、“不動産の力”を信じられる人であれば、その難局を乗り越えていくことも可能でしょう。反対に不動産に興味がない人は、その時点で心が折れてしまっても不思議ではありません。
賃貸経営は一つの事業です。食に無頓着な人が飲食店を経営してもうまくいかないのと同じように、あなたが不動産に興味がないのであれば、それを扱う事業を成功に導くのはやはり至難の技だと言えるでしょう。
冒頭にも触れたように、大家業には「決まった正解」があるわけではありません。ここで挙げた以外にも、「不動産投資に向いている人」についての色々な意見があってしかるべきだと思います。
ただ、確実に言えるのは、大家とは決して誰にでも簡単になれる職業ではないということ。
これはどんな仕事であっても同じことで、もしよくある不動産投資指南本のいうように「誰でも大家になれる」のであれば、もっと世の中に大家が溢れかえっていないとおかしいはずです。
加えて言えば、不動産投資とは数ある運用方法の一つの形に過ぎず、他のやり方に比べて特別に優れているわけでもありません。もし不動産投資が圧倒的に有利な手法であれば、他の運用方法は自然淘汰されてなくなっていくはずですから、いくつもの資産運用方法が共存している現状がそのことを証明しています。
私自身は大家として生計を立てている身であり、「“お金の相談”の専門家」FPとして人生には何らかの形で資産運用の要素を組み入れるべきだと考えていますが、だからと言って不動産投資が全ての人にとってベストな選択肢だとは思いません。
不動産投資に興味がある人も、不動産業者の都合の良い宣伝文句や不必要に煽る不動産投資指南本に踊らされることなく、「自分にとってベストな選択肢は何か」をじっくりと考えてみましょう。