「スルガメソッド」で有名だったスルガ銀行

「スルガ銀行」という金融機関をご存知でしょうか?

 

その名の通り、駿河国、現在の静岡県に本拠地を置く地方銀行であるスルガ銀行は、2018年に起こったある事件を機に特に不動産投資の世界に於いてその悪名を轟かせました。

 

その事件は、俗に「かぼちゃの馬車事件」として世に広く知られています。

 

「かぼちゃの馬車事件」とは、シェアハウスの運営会社であったスマートデイズが、サブリース契約を餌にビジネスモデルとして成立していない物件を多くの個人投資家に売りつけたあげく、経営が破綻してしまったというもので、同社がブランド名として使用していた「かぼちゃの馬車」からその名がついています。

 

この事件により、約束されていたはずの家賃収入がなくなり、莫大な借金だけを背負った被害者が多く生まれたことで社会問題にもなり、当時ブームと言われてた不動産投資に冷や水を浴びせる格好になったのは記憶に新しいところです。

 

売主であるスマートデイズの詐欺紛いの商法と相まって、主に当該物件の融資を請け負ったスルガ銀行にも非難の声が寄せられました。社内で融資を通すために、投資家に無断で様々な資料を改竄していたことが明るみになったからです。

 

世の中の注目を集めたタイミングが同じだったため、スマートデイズとスルガ銀行の問題は同一視されがちですが、両者の問題点は本質的には全く別のものです。

 

かぼちゃの馬車事件が起こる前から、スルガ銀行の独特な融資方法は「スルガメソッド」として不動産投資の世界では有名であり、スマートデイズの物件に対する融資はその氷山の一角にすぎません。

 

一連の不祥事で「スルガメソッド」は消滅し、ある意味“過ぎ去った不動産投資ブームの象徴”となったわけですが、スルガメソッドが個人不動産投資家に残した爪痕は未だ至るところに残っています。

 

不動産投資時代の徒花となった「スルガメソッド」の本当の罪とはなんなのか?

 

自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が検証します。


スルガ銀行の独特な融資方法とは?

そもそも「スルガメソッド」とはどのような融資方法なのでしょうか。

 

一般的にアパートローンは3つの要素でその全体像が決まってきます。「融資金額」「金利」「融資期間」の3つです。

 

そのうち「融資期間」は、通常のケースでは建物の耐用年数に準じて決められます。例えば、新築の軽量鉄骨アパートであればその法定耐用年数である27年間が融資期間の基準になります。

 

これが中古物件になると「耐用年数-築年数」が計算のベースとなります。つまり築10年の軽量鉄骨アパートであれば、「27年-10年=17年」が考え方の出発点になるということです。

 

もちろん、全てのローンがこの計算式にはまるわけではありませんが、いずれにしても融資期間が短くなるということは大家にとっては決して喜ばしいこ事態ではありません。借りる金額が同じであれば、期間が短くなればなるほど毎年の返済額は多くなるからです。


築古物件でもスルガ銀行なら融資が通った!

そこで「スルガメソッド」です。

 

簡単に言えば、スルガ銀行では築年数の経った古い物件でも長期間のローンを組むことができました

 

当然、物件が古くなれば家賃の低下や修繕費の増加等の懸念が高まります。その分は金利を上乗せすることで、ローン全体のリスクヘッジを図ったのです。

 

こうして「古い物件でも長期間のローンが組めるが、その分金利は高い」というスルガ銀行特有のスタイルが出来上がりました。

 

冷静に考えれば、「金利が高い」ということは「融資期間が短い」と同じように投資家にとってはデメリット以外の何者でもありません。

 

ただ、この方法によって「古いけどある程度利回りが期待できる物件」を手元資金なしで購入できるため、スルガメソッドは急速に規模を拡大したい不動産投資家の間で特に重宝されたのです。

 

逆説的に考えれば、“利回りの良い物件”とは「利回りを高く設定しないと(=売値を安くしないと)売れない物件」とも言えますから、そんな物件を高い金利で購入するのが本当に良いかどうかは甚だ疑問です。

 

こうした傾向には「お金は借りられるだけ借りろ」という不動産業者主導の“レバレッジ信仰”が大きく影響しているように思えます。


スルガメソッドで古い物件を買った人の末路

さて、「現役大家FP」として皆さんの不動産投資のご相談を受けている私のところには、ある程度の頻度で「不動産投資の敗戦処理」のような案件が持ち込まれます。

 

収益物件を購入したものの、残念ながら思っていたようにはならなかったというケースで、やはり新築ワンルームマンションに関するご相談が多いのですが、中には一棟アパートの処理についてのものもあります。

 

このような案件の場合、対象物件は大抵地方のアパートで、築年数も経っているために稼働率も低く、尚且つ修繕費もかかるようなパターンになりますが、先日、そんな中でもまともに「スルガメソッド」の負の遺産を引き継いでいる案件がありました。

 

その物件は地方都市ですらなく、「こんな場所に賃貸需要があるのかな?」と思わずにはいられないような不便なエリアに存在しました。当然、家賃も低く、稼働率も悪く、古さゆえの修繕費も発生している、いわば「賃貸経営の三重苦」を背負った物件だったのです。

 

こうしたハズレ物件を持ち続けていてもよいことはありません。

 

所有者としては売却損を覚悟してでも売り払って「損切り」を行うべきですが、この物件はスルガメソッドで長期ローンを(しかも高い金利で)組んだもの。

 

ローン残債もまだまだ大きい状況では、それを上回る金額で売れなければ現実問題として売却することすらできなかったのです。


そして転売の目が消えた…

それでは、ローン残債を上回る金額で売るためにはどうすれば良いのでしょうか。

 

残念ながら、状況は絶望的と言わざるを得ません。スルガ銀行が不祥事を起こした今、「スルガメソッド」が使えないからです。

 

スルガメソッドがなくなった現状では、耐用年数を過ぎたような物件に融資する金融機関は見当たりません。売却するのであれば、「現金で買える人」を探すしか道はないのです。

 

ただし、現金でアパートを買える人がこうした物件を買う気になるかどうかと言えば、その答えは「No」です。

 

当然のことながら、不動産投資の世界において「現金を投入できる」というのはかなり有利なカード。

 

その有利なカードを持っている人が、わざわざ金融機関が融資をしないような物件に手を出すでしょうか。もっと条件の良い物件を探すと考えるのが自然でしょう。

 

このことはつまり、「スルガメソッドでしか融資できない物件を購入した人は、転売の目が消えた」ということを意味しています。

 

もちろん売却益を得るのは夢のまた夢で、損切りもできないままダラダラと血を流し続ける選択肢しかなくなってしまったのです。

 

さらに悪いことに、長期間に渡り血を流し続けたとしてもその先に良い結果が待っているわけでもありません。

 

元々が古い物件ですからローンが終わる頃には収益物件としての寿命を迎えているでしょう。持ち主は多額の解体費を払ったあげく、大した価値のない土地だけが手元に残るといった結末です。


「買えないものは買ってはいけない」はずなのに…

落ち着いて考えればどう見てもハズレの物件を、それでもなぜ購入してしまうのでしょうか?

 

相談者には申し訳ありませんが、率直にその疑問をぶつけてみると、「だって、これしか買えるものがなかったんです!」という返答がありました。

 

ご本人にとってみれば正直な思いかもしれません。しかしながら、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)から見れば、これはとても不思議な理屈です。

 

現代社会において、ほとんどの人が日頃から常に自分のお金を意識しながら生活しているはず。お財布の中に3万円入っていたとしても、そう簡単に3万円の食事をしたり、3万円の洋服を買ったりはしません。

 

そう、我々は「買えるけど買わない」という判断を毎日のように繰り返しながら暮らしているのです。

 

その延長線上には「買えないものは買わない」という結論が当たり前のように存在するわけで、生活必需品でもない収益用の不動産であれば、なおさら「買えなければ買っちゃダメ」と考えるべきなのが自然だと思います。

 

そうした冷静な判断ができなくなってしまう原因は、不動産業者の巧みなセールストークでしょうか。あるいは、儲け話を目の前にした投資家自身の高揚感でしょうか。

 

いずれにせよ、不動産投資とは行う人を選ぶ資産運用の形です。不動産業者の宣伝文句にあるような“誰にでも簡単にできる”という類の投資手法では決してありません。

 

世の中に溢れる都合の良い情報ばかりを鵜呑みにするのではなく、投資することのリスク(=ブレ幅)もよく吟味した上で、不動産投資にこだわることなく自分に合った資産運用の方法を考えることが大切です。


(2020/10/21 文責:佐野純一)

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