“まがいもの”のライフプランが蔓延してる?

「ライフプラン」とはファイナンシャルプランナー(FP)にとって、“コンサルティングの要”となる存在です。

 

最近では「ライフプラン」という言葉自体はかなり知名度を得てきたようで、私のところにご相談に来る方にも「そんな言葉は聞いたこともない」と言われることはほとんどありません。それどころか、以前どこかで作ったことがあるという場合も珍しくなくなってきました。

 

確かに、今や生命保険の相談に行けば担当者が“無料で”ライフプランを作ってくれますし、新築マンションのギャラリーではFPらしき人がライフプランを通して「大丈夫。買えます!」と太鼓判を押してくれたりします。「ライフプラン」という存在もだいぶ身近なものになってきたことは間違いないでしょう。

 

ところが、このように以前ライフプランを作ってみた人が、改めて私のところでライフプランを作り直してみると二つのライフプランの間に大きな差が生まれることがあります。中には似ても似つかないライフプランが出来上がってしまうケースさえあるのです。

 

これはなかなか不思議な現象です。「同じ人」「同じ家庭」なのに、なぜライフプランを作り直すとそこまでの違いができてしまうのでしょうか

 

今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」であるFPが、金融商品を売らないコンサルタントの立場からこのナゾに迫ってみたいと思います。


なぜ「ライフプラン」が重要なのか?

念の為、最初に「ライフプランとは何か」を確認しておきましょう。

 

ライフプランとは、言ってみれば「未来の家計簿」のようなものです。

 

現在の貯蓄額をベースに、これからの収入と支出を積み重ねていくことによって、将来の貯蓄額をシミュレートすることができます。最近世間騒がしている「老後資金2,000万円不足問題」などにも直結するシミュレーションですので、その点でも注目を集めているのかもしれません。

 

「“お金の相談”の専門家」であるFPは、このライフプランをコンサルティングの基本にします。

 

例えば、その家庭にとっての「適切な貯金額」が知りたければ、ライフプランを作ることで「何歳の時にいくら貯まっていれば良いか」を考えます

 

「住宅購入の適正予算」が知りたければ、住宅ローンだけではなく他の将来的な支出も合わせて包括的に算出します

 

あるいは、無理のない資産運用をするために、「いくらのお金をどのくらいの予定利回りで運用していけば良いか」を導き出すこともできます。

 

ライフプランを作らないまま細かいお金の話をしてしまうと、その家庭の経済的体力を考慮していない提案になる危険性があり、「木を見て森を見ず」という状態になりかねません。

 

ですから、ライフプランはFPにとって“コンサルティングの要”となる存在なのです。


保険屋の手にかかると…

ただ、これはあくまでコンサルティングを仕事としている場合のお話。

 

あなたになんらかの金融商品を売りつけることがその人の目的であれば、コンサルティングなど関係ありません。そういったセールスマンにとってはライフプランはただの“販売促進ツール”に過ぎないのです。

 

保険屋を例にとって考えてみましょう。広く知られているように、近頃ではライフプランを突破口に生命保険を売りつける手法が一般化しています。

 

もちろん、ライフプランを作成することで、その家庭に必要な保険であったり、適切な資産運用の形が見えてくることは確かでしょう。ただし、この作業では“目的”と“手段”の順番が大事になってきます。

 

まずはライフプランを作った上で、その先に保障や投資の話があるのが本来の姿。その人のライフプランを守る、あるいはより良いものとすることを“目的”として、そのための“手段”としてどんな金融商品が適切なのかを考えるべきです。

 

それが、「生命保険に加入させるため」「投資商品を買わせるため」を“目的”に、“手段”としてライフプランを作るのでは、まさに本末転倒です。


そんな方法で加入した保険が「適切」なわけがない!

実際に多いのが、過度な貯蓄型の保険に加入してしまうケースです。

 

「銀行に預けておくよりお得ですよ〜」という文句で貯蓄型の保険を契約させるのは保険屋の常套手段ですが、そもそも貯金ができない体質の家庭ではこの戦法が使えません

 

FPがこのようなライフプランに遭遇した場合、まずは家計改善の提案から行います。将来的に考えてそもそも家計が成り立たないのでは、「銀行に預けておくよりお得」でもまるで意味がないからです。

 

ところが、私のところに持ち込まれる「保険屋が作ったライフプラン」を見ると、毎月のキャッシュフローに余裕を持たせて貯蓄型保険に加入しやすくなるように安心感を与えたり、逆に不安感を煽って保険料に「強制貯蓄」の役割を背負わせるようなものが多く見受けられます。

 

これらのライフプランは保険のセールスマンにとっての「都合の良い販売促進ツール」であり、決して「コンサルティングの基本」となるものではありません。

 

繰り返しになりますが、その人のライフプランを守ったりより良いものするために生命保険に入るのが本来の順序。このように順番を取り違えたライフプランを元に生命保険に入っても、その保険がその人にとって適正なものである可能性はかなり低いはずです。


デベロッパーに雇われたFPもどきもいる

「販売促進ツール」としてのライフプランの最たる例は、新築マンションのギャラリーで作成されるものでしょう。

 

マンションギャラリーにはよくFPを名乗る人がいますが、ライフプランを作ってもらったところで「そのマンションを買えません」とは彼らは口が裂けても言いません

 

それはそうです、彼らにとっての雇い主は他ならぬデベロッパーなのですから。その雇い主の売り上げを妨げるような行為をしないことは、お金の流れを考えれば明らかです。

 

そうした場所で作成されるライフプランは大したヒアリングもせず、なんとなく平均値のデータを使うものがほとんどです。それでも住宅予算がその人のライフプランにはまらなければ、今度は住宅ローンに合わせて他の支出を削減していきます。

 

その結果、誰でもその部屋が買えるように見えるライフプランという名の「販売促進ツール」が出来上がるのです。


この二つは「似て非なるもの」

こうして考えてみれば、保険屋やマンションギャラリーで作った「ライフプラン」と、コンサルティングを生業にしている私が作る「ライフプラン」で差が生まれるのは当然です。

 

前者が「販売促進ツール」であるのに対し、後者は「コンサルティングの基本」となるもの。違う目的で作られたものが同じ結果になることのほうが、よほど不自然と言えるでしょう。

 

残念なのが、コンサルの時にこの両者の違いを見つけ出す、言わば「間違い探し」の状況に陥るケースがあることです。

 

「ライフプラン」という同じ名前で違うものができてしまった以上、その原因を知りたくなる気持ちもわかります。しかし、そもそも両者の目的が異なるのであれば、違うものが出来上がるのは当たり前。その「間違い探し」は時間の無駄以外のなにものでもありません。

 

特に有料のコンサルであれば、なおのこと。せっかくお金を払ったのですから、ご相談者にはその時間をもっと有意義に使っていただきたいと切に願います。

 

だからこそ、私はライフプランを販売ツールとして使う人たちに声を大にして訴えたいのです。

 

「商品販売のためにテキトーなライフランを作るのはやめて!」と。


(2019/07/17 文責:佐野純一)

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