「税額控除」と「所得控除」は何が違う?

「税額控除」と「所得控除」

 

あなたはこの二つの違いを説明できるでしょうか?

 

控除とは元々「差し引く」という意味を持つ言葉。このことからなんとなく「どっちも税金が安くなるんだろうなぁ」というイメージを持っている人は多いと思います。

 

それ自体は間違いではありませんが、実は税額控除と所得控除にはその内容に大きな差があります

 

今回のコラムでは「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、「税額控除」と「所得控除」の違いを解説すると共に、“節税よりもっと大切なこと”を考えます。


税金そのものから引くのが「税額控除」

二つのうちわかりやすいのは「税額控除」のほうでしょう。先ほども触れた通り、控除とは「差し引く」という意味ですから、税額控除とは「税金そのものを差し引く」ということになります。

 

税額控除の代表例は、「住宅ローン控除」「ふるさと納税」です。

 

「住宅ローン控除」とは、年末における住宅ローン残高の0.7%をその年の所得税から引くという制度。例えば、年末のローン残高が3,000万円であれば、その0.7%に相当する21万円が所得税から引かれ、さらに控除額が所得税額を上回った場合は、翌年の住民税が安くなります。

 

「ふるさと納税」も同じような仕組みで、返礼品を受け取る代わりに自治体に収める寄付金のうち2,000円を超える部分については所得税の還付が受けられます。大まかなイメージとしては、各種の返礼品が実質2,000円で手に入ると考えてよいでしょう。

 

このように節税効果の大きい税額控除ですが、注意点もあります。控除される上限がその年の所得税と翌年の住民税の合計額となりますので、それを超えた場合は差し引かれるべき税金がありません。

 

仮に住宅ローン控除で所得税と住民税の合計額を使い切っているのであれば、同じ年にふるさと納税を行ったとしてもそれ以上税金は引かれず、ただ表示されている金額で返礼品を購入しただけということになってしまうのです。


「所得控除」の対象となるのは?

一方の「所得控除」を理解するためには、まずは「所得」という言葉を正確に理解する必要があるでしょう。

 

よくある誤解ですが、「収入」と「所得」は決して同義ではありません。「収入」とは入ってくるお金そのもの(会社員なら額面、自営業者なら総売上)を指すのに対し、「所得」とはあくまでも「課税の対象になる金額」を意味します。

 

つまり、「所得控除」とは該当する金額を「課税対象金額から差し引くことができる」という仕組みになるのです。代表的なものとして「iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金」「医療費控除」などが挙げられます。

 

具体的な数字で考えてみましょう。例えば、iDeCoで毎月1万円を積み立てたらどのくらいの税金が引かれるのでしょうか。

 

毎月1万円の掛金であれば、年間で12万円となります。ただ、気をつけなければならないのが、税額控除と違いこの12万円がそのまま税金から減額されるわけではないということです。

 

12万円の控除先はあくまでも「所得」ですから、実際に引かれる税金額は12万円に所得税率をかけた数字となり、仮に所得税率が20%の人であれば、住民税(一律10%)と合わせて、36,000円の税金が軽減されるという計算になります。

 

もちろん所得税は超過累進税率を採用していますから、「所得控除」の効果はその人の総所得によって変わってきます。同じ12万円の所得控除でも最高税率である45%であれば住民税と合わせて減税額は66,000円になりますし、逆に所得税率が5%の人であれば住民税と合わせても減税額は18,000円に過ぎません。

 

その意味では、所得控除は税額控除に比べて効果は限定的と言えますから、あまり固執するのは賢い選択肢ではないように思えます。


医療費控除にまつわる失敗談

所得控除にまつわる悪い例としてよく挙げられるのが「医療費控除」です

 

医療費控除はその年に支払った医療費のうち10万円を超えた分が所得から引かれるという制度で、特に医療費の負担が重くなりやすい高齢者が必死に領収書を集めるといった話を耳にすることがあります。

 

しかしながら、頑張って領収書を集めたところでその合計額がなんとか10万円を超える程度では大きな節税効果は期待できません。

 

例えば、その年の医療費の合計額が103,000円だとしたら、所得控除の対象はわずかに3,000円。年金暮らしの人の所得税率が5%だとすれば、実際に戻ってくるお金は450円にすぎません。

 

これでは税務署までの交通費で控除分が相殺されてしまうわけで、領収書集めと確定申告に費やした分の“時間と労力の無駄遣い”以外の何物でもないでしょう。

 

わずかな利益のために多くの時間と労力を注ぎ込んでしまうのは、まさに「何もしないよりマシ」という発想の落とし穴にハマっていると言えます。


税金は“悪”ではない

一般的に「節税」という言葉には世の中の多くの関心が寄せられます。

 

これは「税金を払いたくない」と思っている人がそれだけ多いことの証明でもありますし、中には無条件に税金を毛嫌いしたり嫌悪感を抱く人もいますが、税金とは「人生に於いてうまく付き合っていくもの」であり、決して否定すべき“悪”ではありません

 

一方で、すべての人にとって持っている「時間」や「労力」は有限であり、その意味でお金などと同じく“無駄にしてはいけない資産”と考えられるはずです。

 

税金憎しの感情論や目先の損得勘定だけで自分が持っている貴重な資産の使い方を誤らないように、大きな視点で物事を捉える姿勢が肝心です。


(2023/09/20 文責:佐野純一)

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