収益物件を売った時に大家が驚くこととは?

商売の基本は「安く買って高く売る」。不動産投資をはじめとする資産運用にも、これと同じことが言えます。

 

特に不動産投資で大きくジャンプアップするためには売却益(キャピタルゲイン)が不可欠でしょう。賃貸経営で得られる日々の家賃収入(インカムゲイン)は安定感こそあるものの、爆発的な利回りは期待できないからです。

 

「比較的安価で手に入った収益物件が高く売れる」というのは不動産投資家にとっては待ちに待ったシチュエーションですが、もしそんなチャンスを手にしたとしても、その時に大家が驚くことが起こります。それは“物件の売却時に潜む罠”と言ってもいいかもしれません。

 

その原因となるのが「減価償却」

 

不動産投資家にとって“節税の救世主”と言われる減価償却がなぜ罠となってしまうのか。自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が解説します。


減価償却で節税するためには条件がある!

まずは減価償却をおさらいしておきましょう。

 

「減価償却」とは税務上の考え方で、建物などの長く使用する資産(固定資産)は単年で経費計上するのではなく、それぞれ使用期間(耐用年数)に見合った計上の仕方で処理をするというものです。

 

賃貸経営に関して言えば、例えば木造アパートだと耐用年数が22年、鉄筋コンクリート造では47年になりますから、それだけの長い期間をかけてゆっくりと経費計上するというルールになります。

 

これがなぜ節税になるかと言えば、「2年目以降は実際に出ていかないお金が経費として計上できるから」です。

 

経費を計上することで課税所得を抑えれば、当然その年の税金は少なくなります。その経費が「実際に出ていかないお金」であれば、本当のキャッシュフローに対して税額が軽減されることを意味します。

 

もし減価償却費によって不動産所得がマイナスになるのであれば、給与所得等の他の所得を圧縮することができ、所得税減らすことができるでしょう。特に家賃収入以外の所得が多い人にとっては節税効果も大きく、こうした人たちに向けて「節税目的」という切り口で収益物件を売りつけようとする不動産業者も多く存在します。

 

そのため、不動産投資に興味がある人たちの間では「減価償却は節税の切り札」という認識が広く定着していますが、減価償却が本当の意味でその役目を果たすためには一つ条件があることはあまり知られていません。

 

その条件とは「物件を保有し続けること」

 

それができない場合は、減価償却は節税の切り札どころか、大家の敵となって襲いかかってくる可能性すらあるのです。


譲渡所得税は「利益」の部分が課税対象

その理由を説明するために、今度は不動産売却寺の税金を整理しておきましょう。

 

不動産を売却して得た収入は「譲渡所得」と呼ばれます。先ほどの給与所得や不動産所得と違い、譲渡所得はそれ単体で税金が計算されるのが特徴です。

 

誤解の多い点ですが、この時課税の対象となるのは売却価格ではありません。所得税はあくまで利益に対してかかるものですから、課税の対象となるのは「売却価格-購入価格」の部分だけというのが原則です。

 

具体的な数字で不動産を売却した例を考えてみましょう。わかりやすくするために細かい数字の部分は省略します。

 

例えば、「1億円で買った新築木造アパートを25年後に1億円で売却した」。こんなケースはどのような課税がされるのでしょうか。

 

先ほどの原則論で言えば、「売却価格-購入価格=0」ですから譲渡所得に対する課税はないはずです。

 

所有している25年の間に一定の家賃収入(インカムゲイン)があり、なおかつ他の所得に対する節税効果があったのであれば、「めでたしめでたし…」となるわけですが、実際にはそうはいきません。


「購入価格>売却価格」でも税金が取られる!?

なぜなら、投資用の収益物件を売却した場合、購入価格は「簿価」で計算されるからです。

 

簿価とは「帳簿上の金額」のことで、この場合は「購入価格-減価償却費」を指します。少しわかりにくい点かもしれませんが、減価償却費を経費として計上するということは、その分資産の価値を減らしていくということです。

 

先ほどの「1億円で買った新築木造アパートを25年後に1億円で売却した」という例で言えば、建物価格が半分の5,000万円だとした場合、木造の耐用年数は22年ですから毎年約230万円(5,000万円÷22年)が減価償却費として計上されることになります。

 

初年度に減価償却費を計上した後は、建物の簿価は約4,770万円(5,000万円ー230万円)となり、それが毎年「4,540万円、4,310万円、4,080万円…」といった具合に簿価を減らしていくのです。


「減価償却費=節税額」ではない

そのため、25年後に売却したとすれば、既に木造アパートの耐用年数である22年を経過していますから、建物部分の簿価はゼロ。土地の分の5,000万円がこの物件の簿価となります。

 

そうなると「売却価格-簿価=5,000万円」となり、この5,000万円の譲渡所得に対し課税されることになるのです。

 

不動産を5年以上保有した場合の税率は約20%。売却にかかる諸費用が売値1億円の5%として、これを所得から差し引いたとしても、「4,000万円×20%=900万円」の税金がかかる計算になります。

 

この900万円という金額が、物件を所有していた間の減価償却による節税額に見合うものかどうかはその人の他の所得によって大きく変わります。中には毎年コツコツ節税した分が売却時の課税で無に帰すようなケースもあるでしょう。

 

そう聞くとなんだか損をしたように感じる人もいるかもしれませんが、逆に考えれば、減価償却費を計上した後も資産そのものの価値が変わらないのであれば、それは経費には成りえません。

 

その意味で、減価償却とは固定資産の資産価値を少しずつ削りながらその分を経費計上する仕組みとも言えるはずで、減価償却分がまるまる節税になるわけではないということはしっかりと肝に命じておくべきです。


不動産業者が唱える“節税のウソ”を見抜け!

簡単に言えば、減価償却とは「売却寺に精算される」という特性をもった考え方です。先ほども触れたように、そうしないと経費の二重計上となってしまうからです。

 

ただ、実際に投資用の収益物件を所有していても、このことを知らない方があまりにも多いのが現実です。

 

その理由は容易に想像ができるもので、節税を前面に押し出して収益物件を売ろうとする不動産業者が減価償却のメリットばかりを説明して、その裏に潜む“売却時の罠”に言及しないのでしょう。あるいは不動産業者自身もその仕組みを理解していないのかもしれません。

 

非常に根本的なことですが、不動産投資や賃貸経営は家賃収入があってナンボの商売です。「節税」だけでなく、「生命保険代わり」などの宣伝文句は結局のところどこまでいってもオマケでしかありません

 

節税という言葉にうっかり喰いついてしまい後でがっかりしないように、不動業者が唱える“節税のウソ”にはくれぐれも注意してください


(2020/03/18 文責:佐野純一)

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