セミリタイアはサラリーマン大家の「究極の目標」?

「家賃収入でセミリタイア」


会社勤めをしながら不動産投資を行う、いわゆる“サラリーマン大家”にとって、それは一つの「目標」であり、また「夢」なのかもしれません。実際、不動産投資指南本や収益用不動産業者のサイトにはそんな宣伝文句が数多く並び、サラリーマン大家志望者を煽っています。


ただ、そんなフレーズを見た時こう感じる人も多いはずです。


「本当にそんなことが可能なのか?」


これまで真当に勤め人をしてきた人であれば、むしろそう思うのが自然でしょう。そして、この疑問は「本当にそんなウマイ話があるのか? 物件を売りたいだけじゃないか?」と言い換えることもできるはずです。


自ら賃貸経営をする“現役大家”であり、同時に「“お金の相談”の専門家」“ファイナンシャルプランナー(FP)”でもある私は、不必要に不動産投資の良さをアピールすることはありません。それどころか、不動産投資を始めようとする人を止めることの方が多いくらいです(特に新築ワンルームマンション投資)。なぜなら、あなたに収益物件を売りつけるのが私の仕事ではないからです。


今回のコラムでは、そんな“現役大家FP”の視点から、「本当に賃貸経営でセミリタイアが可能かどうか」を現実的な数字で検証してみたいと思います。


実際にあったご相談例をご紹介

実際に過去にはこんなご相談がありました。


ご相談主は40歳代の会社員の方です。年収は700万程度で、あまり生活費を多く使うタイプではありません。結婚されていますがお子さんの予定はなく、元々ご自身でもかなりの貯金があったのですが、このたび相続によりさらに手元の現金が増えたそうです。


その貯金の総額はおよそ5,000万円。ご本人としては「これを元手に不動産投資を始めて今の仕事をリタイアしたい」というご相談でした。


「貯金が5,000万円もあればリタイアして大丈夫じゃないか」


そう思う人もいるでしょう。あるいは完全なリタイアまでいかなくても、セミリタイアぐらいはいけるかもしれません。


期待に胸を膨らませる相談者に、私は次のような説明を始めました。


「賃貸経営でリタイアしたい」ということは、単純に考えれば「これまでの給与と同じ水準の家賃収入を得られれば良い」ということになります。もちろん、賃貸経営にかかる経費もありますし、税金の問題もある(家賃収入は“不動産所得”として課税されます)ので実際にはそれほど単純なお話ではありませんが、まずはスタートとしてそこから検証することにします。


家賃収入として700万円を得るにはどんな物件を持てばいいのか? 言い換えればこれは「どんな物件なら年間700万円の家賃収入を得られるのか」ということでもあります。


一番シンプルな考え方は、標準的な利回りから物件の価格を逆算する方法でしょう。


仮に表面利回りが5%の物件だとすれば、「700万円÷5%=1億4千万円」のアパートがあれば良いことになります


アパートローンの扱いに注意!

気をつけたいのは、上の計算式は大前提としてこの1億4千万円のアパートを借入金をまったく使わずに購入しているという点です。


借入金を使った場合は、当然毎月のローン返済が発生します。年間家賃収入からローン返済額を引けば、その分手元に残るお金が少なくなるのは自明の理ですから、借入金無しに1億4千万円のアパートを購入できなければ、現在の給与収入と同じような家賃収入は得られないことになります。


今度は借入金(アパートローン)を活用した場合を考えてみましょう。アパートローンも“どのくらいの金利”で“どのくらいの期間”組むかによって大きく変わってきますが、ここでは「金利2%」で「30年間」のローンが組めたと仮定します。


例えば、5,000万円の自己資金を元に3億円のアパートを購入したら収支はどうなるでしょうか。

年間家賃収入…「3億円×5%=1,500万円」
年間ローン返済額…「月額92万円×12ヶ月=1,104万円」
 ※借入額2億5千万円・金利2% ・期間30年間 
家賃収入-ローン返済額…「1,500万円-1,104万円=396万円」

2億5千万円もの借入をしても手元には400万円しか残りません。もちろん借入額をどんどん上げていけば計算上は700万円の収入を得ることは可能となりますが、実際に億単位の借入をできるのは一部の資産家か高所得者に限られるというのが現実です。


賃貸経営でリタイアは夢のまた夢?

さあ、ここまでの計算を考慮して、この人は5,000万円の元手で大家としてリタイアできそうでしょうか?


付け加えるのであれば、最初に触れたように上の計算例では固定資産税や管理費などの賃貸経営に必要な経費は考慮していません。さらに、賢明な人であれば既にお気づきのように、空室リスクや家賃下落リスク、金利上昇リスクなどもまったく計算には反映させていないのです。


そうです、例え手元に5,000万円あったとしても、そしてその全額を不動産投資に投入したとしても、賃貸経営でリタイアはできません。残念ながら、これが不動産投資本や不動産業者が口にしない真実なのです。


では、リタイアではなくセミリタイアではどうか?


これは「セミリタイア」という言葉の定義次第でしょうが、少なくとも上記の例を見る限り「リタイア」というイメージからは程遠い感は否めません。特にサラリーマンの場合は収入や働き方を自分でコントロールするのは難しいですから、結局はこれまでと同じように働き続けることになってしまいそうです。


それでは、サラリーマン大家にセミリタイアは“不可能”なのでしょうか?


ちょっと待ってください。そう結論づけるのは少々早計です。サラリーマン大家もやり方によってはセミリタイアに近づくことはできます


セミリタイアのためにやるべき2つのこと

まず誰でも考えつくのが、高利回りのいわゆる“お宝物件”を手にいれることでしょう。利回りが2倍3倍になれば、5,000万円の元手でも今の給与水準まで家賃収入をあげることはできます。


ただし、“お宝”はあくまで“お宝”。その辺に無造作に転がっているわけではありませんし、見つけたからと言って首尾よくあなたのものになるわけでもありません。不動産投資指南本に書いてあるような再現性の低い自慢話を追いかけたところで状況は決して良くはならないでしょう。


セミリタイアを目指すサラリーマン大家にとって、現実的にとるべき方策は次の2つです。


@時間を味方につける


まずは焦らずに時間をたっぷりかけてください。


不動産投資とは、「家賃収入」という“他人のお金”で「アパートローン」という“他人のお金”を返していことで、「不動産」という“自分の資産”を形成していくという特殊な運用方法です。


当然この“他人のお金”を利用する時間が長ければ長いほど、自分の資金を使わずに運用効果を上げることができます。


性急に「家賃収入」という結果を求めるのではなく、遠い未来のゴールを設定することで時間を自分の味方につけるようにしましょう


A追加投資を惜しまない


賃貸経営を始めてからも追加で自己資金を投入することでセミリタイア達成のタイミングを近づけることができます


状況によっては自己資金の中から繰上返済を行うのも良いでしょう。別の物件を購入することでスケールメリットを追求したり、物件の設備をアップデートして空室率や家賃下落率を下げたりするのも選択肢になり得ます。


セミリタイアを目指すのであれば、間違っても家賃収入で得た利益を他のことに使っている場合ではありません。こちらも始めからきちんとゴールが設定できていれば、大家として自分のすべきことがはっきりと分かるはずです。

不動産投資は「不労所得」ではない!

「サラリーマン大家が不動産投資でセミリタイアできるのか?」


その答えは「Yes」でもあり「No」でもあります。


控えめな表現をすれば、「“しかるべき方法”で“しかるべき時間”をかけて、さらに“ほんの少しの幸運”に恵まれれば不可能ではない」と言えるかもしれません。


私が相談者にまず申し上げることですが、賃貸経営は決して「不労所得」ではありません。十分な検討を重ねて慎重なスタートを切ることはもちろん、その後も何十年という長いスパンでたゆまぬ経営努力が必要になります。


もし、あなたが不動産投資を「不労所得」だと考えているのであれば、悪いことは言いません、今すぐやめたほうが良いでしょう


そうした甘い考えは他人からすぐに見抜かれます。特に収益物件を売ることだけを考えている不動産業者は、その手の「カモ」に敏感です。ウマイ話に乗った結果、セミリタイアどころか、これまで努力をして貯めてきた資産を失うような事態にもなりかねません。


不動産投資はれっきとした“資産運用”であり、賃貸経営は立派な“事業”です


そうした覚悟で自己研鑽を怠らないサラリーマン大家だけが、セミリタイアの境地に近づけるのだということを忘れないようにしていただきたいと思います。


(2025/04/30改訂 文責:佐野純一)

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