「生命保険」に対して、あなたはどんな印象をお持ちでしょうか。
「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)として私も生命保険のご相談を受けることがありますが、意外と多くの方が生命保険やその営業マンに対してある種の“不信感”のようなものを抱いている印象があります。
「あんなにCMを流しているからには、自分たちの利益を最優先しているに違いない」という意見は、その代表的なものかもしれません。
実は私も以前は生命保険を販売する仕事に従事していたことがあるのですが、結局は肌に合わず短期間で辞めてしまいました。
そんな保険営業の裏側を覗いた私だからこそ、断言できることがあります。それは…、
「現在の生命保険ビジネスは本来の理念と乖離している」
ファイナンシャルプランナー(FP)と聞くと即座に「保険の営業」を連想する人が多いように、現在の日本では両者の親和性はかなり高いと言えるでしょう。
そんなファイナンシャルプランナー(FP)の一人である私が、なぜ生命保険ビジネスを否定するようなことを言うのでしょうか。
生命保険を売らない「“お金の相談”の専門家」が、コンサルタントとしての立場からその理由を解説します。
少し前の話になりますが、私が生命保険の営業を始めた頃、ある忘れられない出来事に遭遇しました。
以前からの知り合いに会う機会があり、今の自分の仕事を説明したところ、その人が一枚の名刺を取り出してきたのです。
取り出された名刺にはこれみよがしに「MDRT会員」の文字が記されており、その点を指して知人は誇らしげに言いました。
「オレの担当はスゴい保険屋なんだぜ!」
それを聞いた時の衝撃は今でもハッキリ覚えています。その感情を言葉にするならば、きっと次のようになるでしょう。
「ハァ? なに馬鹿なこと言ってんの?」
MDRT(Million Dollar Round Table)とは、1927年に発足した生命保険の世界的組織で、日本では一般社団法人MDRT日本会が運営しています。
簡単に言えば、一定の基準を満たした保険営業マンだけが会員になれる団体で、その会員になるための条件はMDRT日本会のサイトに明記されています。
その条件とは即ち「一定以上の売り上げを上げた人間」であること。
平たく言い直せば、これは「生命保険を売りまくった人」ということになるでしょう。
お気づきでしょうか。
この審査の基準となるのはあくまで売り上げだけで、本当に重要なことは蔑ろにされています。
生命保険を売る人間にとって、真の意味で大切なのは「誰に」「どんな」保険を売ったかということのはず。
MDRT会員になるための基準は、そうした点はまったく考慮されず、たとえその人に必要でない保険であっても、売り上げさえ上がっていれば良いという考え方なのです。
私のファイナンシャルプランナー(FP)としてのコンサルティングの方針は、「生命保険は必要最小限加入しておけばいい」というもの。
人生には様々なお金の問題がありますが、それを解決する手段として生命保険が一番適切なのであれば加入すれば良いわけで、逆になんでもかんでも保険で解決しようとするとどうしてもライフプラン全体に歪みが生じてきます。
しかし、保険屋はそうは考えません。生命保険を売るのが自分の仕事ですから、できる限り解決策を保険に落とし込もうとします。そうしなければ自分が稼げないことを考えれば、ビジネスとしてはそれが自然なのかもしれません。
ある意味では、その究極形が「MDRT会員」と言えるでしょう。
つまり、MDRT会員とは「なんでもかんでも生命保険で解決しようとする人」であり、逆の言い方をすれば、本当に人生に必要な生命保険だけを売っていたのでは、到底MDRT会員の売上基準には到達しないのです。
確かにMDRT会員とは、優秀な保険営業マンでしょう。それは疑う余地がありません。
しかし、その人は本当に保険に加入する側である“あなたの味方”でしょうか?
あなたに必要ない保険を売りつける「単に生命保険を売るのが上手い人」ではないでしょうか?
もしそうであるのなら、その人は味方どころか「あなたの敵」かもしれません。
改めて考えてみましょう。生命保険の“本来の姿”とはどのようなものでしょうか。
それは「みんなで少しずつお金を出し合って困っている人を助けよう」という形のものだったはずです。
世の中には不幸にも若くして事故で亡くなったり、大病を患ったりする人がいます。そうした人やその家族を、そうでないその他大勢の人たちが助ける。いわゆる「互助の精神」がその出発点であり、決して保険に加入することによってなんらかの利益を得ようとするものではありません。
当然、営利目的である法人とは本質的に相性の悪いものですし、ましてや生命保険を販売することで高収入を望む営業スタイルとは相入れない姿のはずです。
そう考えると、保険がビジネスとなった時点で、すでに大いなる矛盾を内包していることになります。
私が生命保険の営業に水が合わなかった理由は、こうした矛盾を自分の中で消化できなかったからなのかもしれません。
さらに言えば、この矛盾に目を背けて、まるで人助けをしているかのように商品を売りつける保険業界の体質が、生理的に受け付けなかったのでしょう。
この矛盾を理解していればわざわざ自分の名刺に「生命保険を売るのが上手い人」の称号を入れたりしないでしょうし、消費者側としてもそれをありがたがるような勘違いをすることはなかったはずです。
誤解のないように申し上げておきますが、私はなにも「絶対に生命保険に入ってはいけない」と言っているわけではありません。繰り返しになりますが、あなたのライフプランを守るために最適な選択肢が保険であるならば、むしろ積極的に加入するべきだと思います。
ただ、その一方で単に保険を売るのが上手いだけの人間が大手を振って歩いている保険業界は、必ずしも消費者の味方ではないということはきちんと認識しておくべきでしょう。
成り立ち自体に大きな矛盾を抱えている保険ビジネスの世界は、その根本が既に歪んでしまっています。私が冒頭に「現在の生命保険ビジネスは本来の理念と乖離している」と記したのも、それが理由です。
あなたが生命保険委加入するのであれば、あくまでも「自分にとって必要かどうか」という観点から、客観的に保険商品を選ぶことが大切です。