投資用新築ワンルームマンション営業の実態とは?

投資用新築ワンルームマンションと言えば、即座に「迷惑な勧誘電話」を連想する方は少なくありません。皆さんの中にも一度や二度はそんな不愉快な電話を受けたことがある人もいるでしょう。

 

なぜ彼らが悪評ばかりの勧誘電話商法を続けるのかは大いに疑問が残るところですが、自ら賃貸経営を行う「大家」であり、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)でもある私のところにもそうした不動産業者から連絡が来ることは珍しくありません。

 

いつもこのコラムも読んでくださっている方ならご存知のように、私は大家としてもFPとしても、投資用新築ワンルームマンションという商品を全く評価していません。それどころか「不動産投資失敗要素の宝庫」と呼び、日本中からこんな詐欺まがいの商品を買う人がゼロになればいいと思っています。

 

ですから、そのような連絡は全て体良くお断りするのですが、先日そんな中でも少し毛色の変わった電話がありました。そしてその電話は、投資用ワンルームマンション業界の闇を象徴していたようにも思えます。

 

そこで今回のコラムでは、いつもとは少し趣向を変えてその会話の内容を小説風にお届けすることにします。これを読めば「投資用ワンルームマンション業界の内幕」があなたにも垣間見えるかもしれません。


第1章 見知らぬ電話番号

ある平日の午後のこと。事務所で作業をしていると電話がなった。ディスプレイに表示されてるのは、見知らぬ固定電話の番号だ。

 

既に悪い予感がする。放っておくわけにもいかないので出てみると、受話器から若い男性の声が聞こえてきた。

 

「お世話になってます。株式会社△△△(アルファベット3文字)の◯◯です」

 

案の定聞いたことのない会社名だったので、とりあえず用件を聞いてみる。

 

何かを一生懸命説明しようとしているが、まるで要領を得ない。私の言葉に対しても、なにかのマニュアルを読んでいるかのような受け答えしか返ってこない。

 

仕方がないのでこちらの質問を変えてみた。

 

「御社は何をやっている会社なんですか?」

 

すると予想通りの答えが返ってきた。

 

投資用新築ワンルームマンションを販売している会社です」と。

 

それだけ聞けば向こうの用件にも察しがつく。あちらはともかくこちらには用はないので、私はいつもの断り文句を口にした。

 

「申し訳ないけど、僕は新築ワンルームマンション投資には否定的なんですよ」

 

普通であれば、この一言で相手は引き下がる。私のこのセリフの言外に、次の二つの意味を感じ取るからだ。

 

一つ目は「私は新築ワンルームマンションがダメな運用商品だということを知っているよ」ということ。

 

そしてもう一つが「たとえ紹介料をもらったとしても、自分のお客様にそんな商品を勧めないよ」ということだ。


第2章 デベロッパーがFPに求めているもの

実際に投資用新築ワンルームマンションを商品として売っている彼らが、自分たちの商品の正体を知らないはずがない。

 

彼らは自社商品の売り方のスキルを日々磨いている。言い換えればそのスキルとは、「商品としてのメリットだけをどう押し出すか」という技術でもある。

 

ただし、この「メリットだけを強調する」というやり方が通用するのは、相手がデメリットを知らない場合だけだ。

 

「大家」であり「FP」でもある私にそのメソッドが通用しないのは、彼らも分かっている。私に自社マンションを売りつけようとする業者はさすがにいない。

 

となると彼らの狙いは明白だ。私にFPの肩書きを利用して自社の商品を売って欲しいのである。

 

ただでさえ悪名の高い新築ワンルームマンション投資。迷惑電話まがいの営業電話の例は枚挙に暇ないが、そんな力押しの方法だけでは自ずと限界がある。

 

そこで最近では「第三者」を介して商品を売ってもらう方法にも彼らは積極的になっている。そして、この「第三者」は不動産の営業色が薄ければ薄いほど効果的だ。

 

例えば、そう、「中立公正」のイメージが強いFPだ。

 

投資用新築ワンルームマンションデベロッパーと仕事をする他のFPが何を考えているか私は知らない。残念ながら、手数料欲しさに自分もよく分からないまま顧客に勧める輩がいるのも事実だろう。

 

ただ、私は自分で評価していない商品をお客様に勧めることは絶対にしない。たとえその商品を販売することによって、多額の販売手数料を受け取ることができたとしても…だ。

 

私にとってFPとは決して金融商品の「販売代理人」ではなく、相談者に雇われてその人のためにお金のアドバイスをする「お客様の味方」なのだから。

 

「新築ワンルームマンション投資には否定的なんですよ」

 

私のこの言葉にはそんな意味が込められている。

 

だから、大抵の営業電話はこちらのそうした反応を見て諦めてしまう。彼らにとっても私と付き合う意味がないからだ。

 

ただ、この日の電話は違った。私の断り文句を聞いても引き下がらず、自社製品の説明を続けようとしたのだ。

 

どうも、こちらの断り文句の意味に気がついた様子はない。それどころか、一本調子で説明をする態度から、不動産投資そのものをよく分かっていない感じが見て取れる。

 

電話なので相手の顔は見えないが、どうもかなり若い男性のようだ。そんな相手に不動産投資のことを一から説明するのは正直メンドくさいし、そもそもこちらにそんな義理もない。

 

電話を早く終わらせたかった私は、相手の話を遮ってこう言った。

 

「とりあえずウチのサイトに“なぜ投資用新築ワンルームマンションを評価しないか”を書いたコラムがあるから、それを読んで“それでもウチの商品は違う!”というならもう一度電話をください」

 

こうして、ようやく私は不毛な電話から解放された。解放された安堵感を感じながら、その時の私はこう考えてた。

 

「もう二度と電話がかかってこないといいな…」と。


第3章 再びかかってきた電話

残念ながら私の希望は叶えられなかった。

 

最初の電話から二週間ほど経ったころ、また同じ人物から電話がかかってきたのだ。

 

電話の冒頭からこちらを褒めちぎる作戦に出てきたので、それを強引に遮りながら私は聞いてみた。

 

「例のコラムは読みましたか?」

 

返ってきた彼の答えに私は自分の耳を疑った。

 

「はい、佐野さんは投資用新築ワンルームマンションを否定はしないということですよね」

 

無数の「?」が私の頭を埋め尽くす。

 

(オイオイ、どこにそんなことが書いてあった? 都合のよい脳内変換にも限度があるんじゃないか。)

 

こちらの思惑にも気付かず、また愚にもつかない説明を始めた彼に呆れた私は少し強めのプレッシャーをかけてみた。

 

「あなたがどのくらいのキャリアをお持ちか知らないけど、話している内容に経験値が感じられないんですが…」

 

すると相手はあっさり認めた。これまた予想通りの答だった。

 

「僕は今年新卒でこの会社に入ったんです」

 

(あぁ、そうだろう、そうだろう、オジサンは分かっていたよ…。)

 

ありていに言えば、言っていることがあまりに青臭い。まるで自社製品のパンフレットを朗読しているかのようだ。

 

必死にデータを持ち出そうとするが全てが聞きかじった程度のもので、彼が自分で考えたこともなければ、彼自身が経験したことも何一つない。そんな彼の言葉が10年以上大家業を営んできた私に響くわけがない。

 

こちらが呆れたことが分かったのか、向こうもムキになってまくしたてる。

 

「僕は本当にいいものだと思っている」

 

(じゃあ、人に勧めないで自分で買えば?)

 

「なんでそこまで否定するのかが分からない」

 

(あのコラムを読んで理解できない君の読解力のなさのほうが不思議だよ。)

 

「実際にやってみなくちゃ分からないでしょ!」

 

(新卒のお子ちゃまは実際に何をやったことがあるのかな?)

 

さすがにこれ以上は付き合う必要もないだろう。興奮する彼をなだめながら、私は静かに受話器を置いた。


第4章 敵を欺くにはまず味方から?

正直に言うと、驚いた。未だに投資用新築ワンルームマンションを良いと思っている販売員がいるなんて。

 

これまでもデベロッパーの人とは何度も話をしたことがあるが、ほとんどの場合、本当は彼ら自身も分かっていた。投資用新築ワンルームマンションが宣伝文句通りの商品ではないことを。もちろん、彼らが自らそれを認めることはないのだけれど。

 

今回の電話で感じたのは、この業界に巣喰う黒い黒い闇の存在だ。

 

電話をかけてきた彼の言動は、右も左も分からない新卒の若者を捕まえて会社が自社製品のメリットだけを刷り込んでいることの証明だろう。自分自身が「良い商品」と信じていれば、自信を持って顧客に勧めることができるからだ。

 

ただし、それは実に断片的な情報でしかない。彼らは自分が不完全な情報しか持ち合わせていないことを知らないまま、それが正しいと信じて営業活動を行っているのだ。

 

誤解を恐れずに言えば、こうした商法はかつて社会問題となった「ネズミ講」のそれに近い

 

本当に良い商品だと信じ込まされた人が他の人に勧めることで被害が拡大していく「ネズミ講」。

 

私に電話してきた若い男性もその先兵として使われているようであれば、デベロッパーは彼らを真の意味で「社員」として考えているのだろうか? 私には、彼らは会社にとって「身内」であるよりも「カモ」として考えられているような気がしてならない。

 

そんなことを考えると電話をしてきた彼に怒りを感じず、ただただ虚しい想いだけが胸の奥からジワジワと湧き上がってくるのだった。


あとがきに代えて

いかがだったでしょうか。

 

本当にあったワンルームマンション投資のデベロッパーとのやり取りを小説風にまとめてみました(笑)。

 

「現役大家FP」として皆さんからご相談を受けていると、実際に投資用新築マンションを購入した方ともお会いする機会も多くあります。残念ながら、そんな中で「購入して良かった!」と仰る方にはいまだかつてお会いしたことがありません

 

買う側も、当然始めは「良い」と思っていたわけです。それが時が経つにつれて、「こんなはずじゃなかった…」に変わってきます。不動産投資には「やってみて初めて分かること」がいっぱいあるからです。

 

逆に言えば、私のような家賃収入で日々の糧を得ている「大家」が投資用新築マンションを購入したという話も聞いたことがありません。一歩引いて冷静に考えてみれば、そのことが何を意味するかは明白でしょう。

 

私に電話してきた売る側である彼にもいつかそのことを理解する日が来るのでしょうか。

 

その時に彼がなにを感じるのかは彼自身にしか分かりませんが、私としてはなるべく早くその日が訪れて欲しいと願うばかりです。


(2016/11/09 文責:佐野純一)

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