投資用ワンルームで失敗する人をゼロにしたい!

新しい変異株が次々と報告され、未だにコロナ禍の先が見えない現在の日本社会。

 

これからの世の中は従来と違う「新しい常識=ニュースタンダード」を模索していくことになりそうですが、そんな激動の社会において、あいも変わらず私のところに持ち込まれ続けるご相談があります。

 

それは…、「投資用ワンルームマンションを買って失敗した」というもの。

 

このコラムでも過去に何度もその危険性に警鐘を鳴らしてきましたが、残念ながら購入前にそうした情報を目にすることはなく、買ってしまった後悔と共に相談にいらっしゃるケースが後を絶ちません。

 

私としても「買う前だったら後ろから羽交い締めにしてでも止めたのに…」と思うところですが、せめてこうして定期的にこの話題を取り上げることで、購入を思いとどまってくれる人を一人でも多く生み出すのが私のような「現役大家FP(ファイナンシャルプランナー)」に課せられた社会的義務なのかもしれません。

 

「買う前に止めたかった」ということは「買った後ではできることが少ない」という事実の裏返しでもあります。

 

だからこそ、今回のコラムでは「投資用ワンルームマンションを買う前にどうしても確かめて欲しいこと」を2点ご説明したいと思います。


そのワンルームマンション、いくらで売れますか?

まずひとつ目に確認して欲しいことはとてもシンプルです。

 

それは「その物件はいくらで売れますか?」ということです。

 

株や投資信託など他の運用方法と比べると、不動産投資では「物件」という現物を目で見て確認することができます。その点に安心感を覚える投資初心者も少なくないようですが、これが思わぬ勘違いを生み出すことがあります。

 

通常ワンルームを販売する不動産業者は、毎月の収支で投資家を納得させようとします。

 

「家賃収入が8万円で、毎月のローン返済が7.5万円。管理修繕費が月に1万円ですから、毎月たった5,000円の出費であなたもマンションのオーナーです」という感じです。

 

ハッキリと申し上げれば、この「毎月の収支」というのは不動産投資の良し悪しを判断する上であまり当てになりません。ローンの借入額や金利などによってまったく変わってしまうものだからです。

 

なにより、家賃とは建物の老朽化ととも下がっていくものですし、設備の修理交換にも費用は発生しますから、新築時の1ヶ月の収支だけを検討しても何の意味もありません。

 

本当に重要なのは、「“いくら”で売れるマンションを“いくら”で購入したか」ということです。

 

言われてみれば当たり前の話ですが、実は投資用ワンルームの購入者でこの点に着目する人はかなり少ないと思います。

 

例えば、2,000万円で買った物件をすぐに売り出した時に2,200万円で売れたケースではどうでしょうか。購入時のローン手数料や売却時の不動産業者手数料、そして利益分の譲渡所得税を考えれば、200万円高く売れたとして収支がトントンといったところです。

 

これが売却価格2,000万円であれば、諸費用分が持ち出しということになります。

 

それだけでも投資としては失敗と言わざるを得ませんが、実際に2,000万円で購入した投資用ワンルームが2,000万円で売れることはまずありません。私が手がけた過去の事例では、一割減の1,800万円の値がつけばまだ良い方で、平均的には1,500〜1,600万円、あるいはそれ以下というケースも存在しました。


開始時点で売却損(キャピタルロス)を背負う難しさ

このことはつまり、この投資が開始時時点で数百万円の売却損(キャピタルロス)を背負ってしまっていることを意味しています。

 

決して高利回りとは言えないワンルームマンション投資で、しかも全額のアパートローンを組んでいるようなケースでは、この最初に負った大きな損失を埋めるのは並大抵の難しさではありません。

 

少し厳しい言い方をすれば、スタートした時点で既に負けが確定している投資であり、それを回避するためには「買ったマンションがいくらで売れるか」がとても重要になってくるのです。

 

中には、投資用ワンルームマンションを買う時にそうした質問をする人もいるでしょう。それに対して不動産業者は「仮に10年後に○%下がったとして、ローン残高と比べると…」といった仮定の話をしてきます。

 

これはいわゆる論点のすり替えで、大事なのは毎月の収支でもなく、ローン残高との比較でもなく、「今、いくらで売れるのか」ということ。

 

都市部の賃貸需要のあるエリアであれば、似たような物件がいくらで取引されているかの事例が必ずあるはずです。仮にも不動産業者であるならばそれを調べることは決して難しくありません。

 

もし、あなたが投資用ワンルームを買おうと思っているのならば、契約書に判を押す前に類似物件の販売事例を出してもらってください。きっとあなたの購買意欲が一瞬でなくなる金額に違いありません


「修繕積立金」に注目してほしい!

「そうは言ってもローンは確実に減っていくから、いつかローン残高より高く売れるタイミングが来るんじゃない?」

 

既に購入してしまった人からはそういった楽観論も聞こえてきます。

 

例えば、2,000万円のローンを金利3%、借入期間30年で組んだ場合であれば、20年後にはローン残高は約800万円。いくら古くなったと言っても、2,000万円で買ったワンルームは800万円以上で売れるはず。そんな希望を持つのも理屈としてはわからなくありません。

 

しかしながら、そんな人に買う前に確認していただきたかったのは、その物件の「修繕積立金」です。

 

投資用に限らず、マンションの寿命には諸説あり、60〜70年、あるいはそれ以上と主張する人もいる一方で、過去に取り壊されたマンションの平均寿命は40年にも達していないのが現状です。

 

日本において「鉄筋コンクリート造のマンション」というのはまだ比較的新しい形の建造物で、まだきちんとした統計をとれるほど実例がないというのが実際のところでしょう。

 

ただ、マンションを何十年も維持させるためには「適切なメンテナンスをすれば」というのが大前提です。なにもせずただ黙って見ているだけでその資産価値が長期間に渡り保たれるわけではありません。


修繕積立金の適正額とは?

マンションに関するメンテナンスにも様々な種類がありますが、もっともお金がかかるのが、12年から15年周期で行われる大規模修繕工事です。工事内容や請負業者によって金額の幅はありますが、ワンルームが30戸程度のマンションであれば、2,000万円で済めば安い方でしょう。

 

仮に工事を15年周期とすると、年間に準備しなければならない積立金は130万円程度。30戸であれば一戸あたり年額で45,000円、月額なら4,000円弱という計算になります。

 

もちろんこれは大規模修繕工事だけの数字ですから、エレベーターや増圧ポンプ等のメンテナンスを考えると一戸あたり月額6,000円程度の修繕積立金が妥当なところではないでしょうか。

 

ところが、投資用ワンルームの中には月々の修繕積立金が1,000円とか1,200円に設定されている物件も少なくありません。

 

これではどんなに頑張っても大規模修繕工事などできるわけもなく、建物の老朽化を食い止めることができません。30年のローンを払い終わる頃には建物はボロボロになっていますし、そこまでの状態にいくまでにも年々売却価格が下がっていくのは目に見えています。

 

これは毎月の持ち出し額を少なく見せて購入時のハードルを下げるための販売方法ですが(その割には積立金にならない管理費は5〜6,000円に設定されていたりします-苦笑)、よくよく修繕計画書を見ると、後で修繕積立金の大幅な値上げが予定されているケースがほとんどです。

 

実際の例では、新築マンションで5年目からは当初の4倍、10年目からは8倍の修繕積立金を徴収して帳尻を合わせようとしている物件がありました。


大規模修繕工事が実施できないと…

私が驚かされるのは、購入者のほとんどがこうした修繕費の値上がりを認識していないということです。

 

新築の時から既に毎月の持ち出しは発生していますから、将来持ち出し額が大幅に増えることは確定済みです。

 

加えて築年数の経過により家賃は下落していきますし、エアコンや給湯器などの設備交換や退去時のリフォーム代などの出費もかさむわけですから、20年後には一体どれ程の持ち出し額になっているでしょう。考えただけでもゾッとします。

 

それでも大規模修繕工事が行われるのであれば、まだ良い方だと思います。前述の通り、所有者のほとんどは修繕費の値上がりを認識していないわけですから、いきなり何倍にも増えた修繕積立金を所有者全員が素直に払うとも限りません。

 

もし修繕積立金の未回収が増えれば大規模修繕工事自体を実施できないので、結果としてマンションの寿命を大幅に縮めることになってしまいます

 

そうしたマンション特有の管理の難しさも踏まえ、やはり最初に背負った巨大な売却損(キャピタルロス)を解消するのは生半可なことではありません。当然のように「ローン残高が減っていけば、いつか損益分岐点が来る」と考えるのは、あまりにも楽観的すぎるように思えます。


これだけ確認すれば悲劇は防げる!

繰り返しになりますが、今回のコラムは「投資用ワンルームマンションで失敗する人を一人でも減らす」のが目的です。

 

改めて最後に「買う前に確認するべき点」をまとめておきます。

 

投資用ワンルームマンションを買う前には必ず次の2点を確認してください。

  • そのマンションが“;類似事例から考えて”いくらで売れそうなのか?
  • 建物が“きちんと維持できるだけの”修繕積立金が計画されているか?

不動産投資は税金の考え方も含めて、数ある資産運用の中でもかなり複雑な方法の一つです。

 

これまで経験のない人がいきなり全てを理解するのは難しいと思いますが、少なくともこの2点を確認するだけで、泣くほど後悔するような契約の大部分は防げるはずです。

 

当たり前の話ですが、世の中にうまい話はありません。ましてやうまい話が向こうからやってくるなどということは絶対にあり得ないのです。一人でも多くの方がこのコラムを目にして、更なる悲劇が減ることを願って止みません。


(2021/09/15 文責:佐野純一)

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