アパートの“本当の寿命”はどのくらい?

「アパートの寿命ってどのくらいですか?」

 

実際に大家として賃貸経営をしながら、ファイナンシャルプランナー(FP)として“お金の相談”を受けている私のところにはしばしばこういった質問が寄せられます。

 

特にローンを組んで賃貸アパートやマンションを建てる人にとっては、これは当然の疑問でしょう。長期間にわたるローン返済が終わる前に収益物件の寿命が来てしまったら、収支計画が根底から崩れてしまいます

 

昭和の中頃まではアパートは「建てれば儲かる」という時代も確かにあったようですが、それはもはや遠い昔の話。収益物件が不労所得であった時代はとうに終わり告げており、それだけ自分が所有するアパートやマンションが「お金を生み出す仕組み」として機能する期間が重要になっています

 

そこで今回のコラムでは、現役大家FPが建設会社の理屈ではなく、あくまで大家の視点から「賃貸アパートの“本当の寿命”」を解説します。


まずは「物理的寿命」を考えよう

まず考えなければならないのが、建物の「物理的寿命」です。建物自体が朽ちてしまっては、当然「お金を生み出す仕組み」として機能しません。

 

もちろん建物の物理的な寿命というのは個別に決まってくるもので、一概に何年と決めることはできないでしょう。ただ、それでもその建物の構造が一つの目安になるはずです。

 

収益物件として考えられる建物の構造とは大まかに言って「木造」「鉄骨造」「RC造(鉄筋コンクリート造)」の3種類に分けられます。

 

一般的に建物の寿命は「木造<鉄骨造<RC造」となっており、それぞれの目安は以下のように考えられています。

  • 木造…30年程度
  • 鉄骨造…40年程度
  • RC造(鉄筋コンクリート造)…60年程度

 

ここで気をつけなければならないのが、どの構造であれ、この目安の数字を達成するためには建物の定期的なメンテナンスが不可欠であるという点です。逆に言えば、適切なメンテナンスを行わずに放置すれば、建物の物理的な寿命はどんどん短くなっていくでしょう。

 

同じ構造の建物でも寿命に差が出るのはまさにこの部分で、中でも長寿命とされるRC造に関しては大規模修繕等のメンテナンスをきちんと行うかどうかで結果が大きく変わります。実際に40年も持たず解体されたRC造のマンションは決して珍しくありません。

 

建物は竣工したその習慣から老朽化が始まっています。その点において大家業とはメンテナンス業であり、そこに目を向けられるかどうかで賃貸経営の未来は変化するはずです。


「経済的寿命=商品としての寿命」

それでは、きちんとメンテナンスさえしていれば木造アパートの寿命は30年程度と考えて良いのでしょうか。30年間のアパートローンを組んだとしても、きちんと最後まで返済できていくのでしょうか。

 

残念ながら、それほど単純な話ではないと思います。収益物件には建物の物理的な寿命とは別に「経済的な寿命」というものが存在するからです。

 

この「経済的寿命」とは「商品としての寿命」と言い換えてもいいかもしれません。例えば、築25年の木造アパート。建物はしっかりしていても、築年数が経過していることで稼働率が下がることは想像に難くないでしょう。部屋を探している人がより新しいアパートを求めていった結果、空室率が上がったり家賃設定が下落する可能性は十分にあります。

 

もしこの時点でアパートローンを返済できない、あるいは建物の維持管理費用を捻出できないという状況に陥ってしまったのであれば、すでにそのアパートは「お金を生み出す仕組み」として機能しているとは言えません。建物が物理的に存在していたとしても、収益物件としての寿命を迎えていると考えることができます。

 

自宅などと違い、建物を物理的な寿命だけでは推し量れないところに賃貸経営の難しさがあります。

 

本当に大事なのは、いかに商品としての価値を落とさずにいられるか。その点を考慮せずに収益物件の寿命を語ることはできません。


「経済的寿命」を延ばすのは誰?

しかしながら、実際にアパートを建てる建設会社は基本的に物理的寿命の話しかしません。施主が長く続くアパートローンへの不安を吐露したとしても、建物のメンテナンスについて説明をするだけでしょう。

 

これから収益物件の建設を考えている人からすれば、そうした建設会社の態度に不満を持つ人もいるかもしれません。ただ、もしそう考えるのであればアパート建設の計画は一度立ち止まって考える時間を持った方がいいでしょう。厳しいことを言うようですが、そんな考え方ではこれから大家業を営んでいくことは難しいと思います。

 

冷静に考えれば、建設会社が物理的寿命の話しかしないのは極めて当たり前のことです。彼らの仕事はアパートを建てることであり、賃貸経営そのものではないからです。

 

では、アパートの経済的寿命を延ばすのは誰なのか。いうまでもなく、それは「大家自身の役目」のはずです

 

その建物が本来の耐久性を発揮できるように建てる。もちろんこれは建設会社の責任でしょう。そして建てた以上、適切な修繕策を施主にアドバイスするのも建設会社の役目だと考えられます。

 

それに対し、経済的な寿命を延ばす、つまりその収益物件を魅力ある商品として維持するのは大家以外の誰でもありません。そのためには日常的な清掃から始まり、時代の変化に応じた設備の交換や導入も大事ですし、様々な面でランニングコストをカットすることで他の物件に対し家賃設定で競争力を保つこともできます。

 

所有する物件の商品価値を維持するのに絶対に必要なのは、「常に自分の物件を状態を把握しておくこと」。実際、うまくいっている大家さんは所有する物件の良いところも悪いところも知っていて、改善への意識を常に持ち続けています。反対に、空室に悩む大家さんは驚くほど自分の物件のことをご存知ないケースがほとんどです。


「二つの寿命」が賃貸経営の成否を決める!

当然のことながら、建物が物理的寿命を迎えてしまえばそこで経済的寿命も尽きてしまいます。その意味で適切なメンテナンスを行い建物の長寿命化を目指すことはとても大事ですが、収益物件である以上はそれと同じくらい経済的な寿命を延ばす工夫も大切です。

 

結局のところ、「アパートの寿命」とは、

  • 物理的に建物が存続するようにメンテナンスする。
  • 経済的にお金を生み出す仕組みとして維持する工夫を施す。

の二点で決まってくると言えるでしょう。あるいは、アパートを最大限活用したいのであれば「物理的寿命」を延ばしながら「経済的寿命」をなるべくそれに近づけるべきと表現しても良いかもしれません。

 

私が常日頃から言っていることですが、賃貸経営とは右肩下がりの商売。建物は老朽化して修繕費がかさむ一方で、周囲にはどんどん新しい賃貸物件が建ち競争が激しくなっていきます。

 

そうした状況の中でアパートの経済的寿命を延ばすことは決して簡単なことではありません。大家業を不労所得などと考えていたら物理的な寿命よりずっと先に経済的な寿命が訪れてしまうはずです。

 

賃貸経営を一つの事業として捉え、しっかりと自分の物件と向き合うことで物件の持つポテンシャルを最大限に引き出す努力を続けることが成功への道標です。


(2023/11/15 文責:佐野純一)

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