マンションの“ランニングコスト”を考えてみよう!

「家賃がもったいないからマンションを買おう!」

 

こんな理由でマンション購入を検討する人も多いのではないでしょうか。

 

こうしたケースでは現状支払っている家賃が予算の基準となることが多く、「毎月のローン返済額が家賃より低いから大丈夫でしょ」という考え方をする人も少なくありません。

 

しかしながら、実際に住み始めてしばらく経つと「こんなはずじゃなかった…」という声があちらこちらから聞こえ始めてきます。

 

その大きな原因は、マンションの“ランニングコスト”。購入前には分からなかった住宅の維持費が、じわじわと家計を圧迫するパターンは珍しくありません。

 

そこで今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、コンサルタントの立場から不動産業者がなかなか話したがらないマンションのランニングコストを解説します。


マンションは「専有部」と「共用部」に分かれる

一般的に「マンションのランニングコスト」と聞くと、次のような費用が頭に浮かぶと思います。

・管理費
・修繕積立金
・固定資産税
・リフォーム代

マンションは「専有部」と呼ばれる“所有者が自由に使用できる空間”(「家の中」をイメージすると良いでしょう)と、「共有部」と呼ばれる“そのマンションのすべての住人が使うスペース”(廊下やエレベーターなど)に大別されます。

 

ランニングコストについて考えるのであれば、そのどちらに属するものなのかをしっかり分けることが出発点となります。


専有部には「固定資産税」と「リフォーム代」がかかる

専有部に関するランニングコストは、「固定資産税」「リフォーム代」です。

 

「固定資産税」は年に一度地方自治体に治めるもので、マンションの場合は「建物部分」と「土地の所有権」の二つで構成されています

 

固定資産税は3年に一度見直しが行われ、建物部分に関しては築年数と共に少しずつ安くなっていくものですが、コンクリート造のマンションは木造の建物に比べると元々減少度合いが緩やかな点に加え、近年の建設費の高騰により何年経ってもなかなか下がった実感が得られない状態が続いています。

 

逆に土地の部分は、不動産市場の活性化に伴い地価が上昇している現況を踏まえて税額が増えている地域も多いので、2つ合わせたトータルの固定資産税が値上がりしたという例も多く見受けられます

 

「リフォーム代」については、どこまでをその範疇に含むかは明確な定義はありませんが、例えば、クーラーや給湯器は寿命が10年程度と言われていますから、その度に交換費用が発生します。

 

また、購入時は新築でも築後30年も経てば、キッチンやお風呂場などの水回りは劣化してきます。それらの入れ替えとなると、それなりにまとまったお金が必要となります。水回りの劣化を放置しておくと水漏れの原因にもなりますから、目には見えなくてもこれは必ず発生する出費と考えるべきです。

 

もちろん、マンションだけではなく戸建てを購入した場合にもこうした費用はかかってきますが、固定資産税もリファーム代も賃貸であれば発生しない費用ですので、これは「住宅の維持費」と言えるでしょう。


「管理費」は資産価値維持にはつながらない

さて、共用部のランニングコストには「管理費」「修繕積立金」が挙げられます。

 

この二つは「管理修繕費」として一括りにされてしまいがちですが、本質的にまったく別のものですので、その点には注意が必要です。

 

「管理費」は清掃費や管理人の人件費などを指すことが一般的です。

 

一時は豪華な共用設備を謳うマンションも多かったのですが、共用設備が豪華であればあるほど、その管理費は高額になっていきます。さらに全体の戸数が少ないマンションでは各戸の負担が大きくなり、大型のマンションにくらべると一戸あたりの管理費が割高になる傾向にあります。

 

少し意地悪な言い方をすると、この管理費は「消えもの」という表現ができるかもしれません。毎月ずっと発生するものですが、その用途はマンション資産価値の維持や向上にはつながりにくいものだからです。

 

また、管理費は所有している限りずっと続くものですから、その金額があまりに大きいと住宅ローンの返済を終えた後でも家計に大きな負担を与えることは想像に難くありません。


資産価値の維持に重要な「修繕積立金」

一方の「修繕積立金」ですが、こちらはマンションの資産価値を維持するために必要な修繕費の積立金です。

 

わかりやすいのがエレベーターなどの機械部分でしょう。こうした機械は日々のメンテナンスも大事ですが、10年20年経ってくると本体の交換も必要になってきます。大規模なマンションで見られる機械式の駐車場などは“金食い虫”の代名詞です。

 

そして何より大事なのが、“マンションそのものの寿命”です。

 

マンションの寿命については様々な意見がありますが、基本的にマンションの躯体(コンクリート部分)は何十年も持つものと考えられています。

 

ただし、これには前提となる条件があります。それは「適切な修繕を施すのであれば」というものです。

 

新築時はピカピカのマンションでも、時を経れば外壁や屋上が傷んできます。汚れだけならまだしも、クラックと呼ばれるコンクリートのヒビを放置しておくと、雨漏りなどの原因になるだけでなく、躯体自体の耐久性も劣化させます

 

そのため、マンションでは定期的に全体を覆うような足場を組んで外壁の補修作業をする必要があります。

 

これが俗に言う「大規模修繕工事」です。


誰もわからない? 修繕積立金の“適正額”

昨今、この大規模修繕の費用が不足しているという話をいたるところで耳にします。大規模修繕の費用を巡って管理組合が揉めに揉めたり、最悪の場合、代替案がないまま実施が見送られる例も珍しくありません。

 

大規模修繕の費用、そしてその基となる「修繕積立金の適正額」については、以前から議論が生まれています。

 

管理会社の中間マージン(いわゆる「中抜き」)が問題になっているケースも目立ちますが、そもそも「管理修繕費はいくらが正解なのか」に対する答えが誰にもわかっていないというのが現状ではないでしょうか

 

平成23年(2011年)、国交省は業者の中抜きを防ぐ意味もあって、修繕積立金のガイドラインを発表しました。

 

それによると「1平方メートル辺り月200円」。70平方メートルのファミリータイプであれば、月額14,000円となります。当時建設されたマンションでは、このガイドラインを基に修繕計画表を作成している例も多く見られます。

 

ところが、昨年令和3年(2021年)に国交省のガイドラインが改訂されました。

 

新しい基準では「1平方メートル辺り月255〜355円」(20階以下)となり、先程の部屋に当てはめると月額は17,850〜24,850円という計算になります。

 

この改訂は日本における建設費の高騰を反映したものと考えられますが、結果として、平成23年のガイドラインに沿って建てられた修繕計画はわずか10年間で修正を余儀なくされます。月々の修繕積立金の値上げに踏み切らざるを得ませんし、場合によっては一戸あたり数十万という一時金の徴収があるかもしれません。

 

管理費と同じく、修繕費用もマンションの規模が小さいほど各戸の負担が大きくなりますし、1回目の大規模修繕よりも2回目のほうが、共有部の排水管の取り替え等の作業が発生するため高額になりがちです。

 

今後も修繕費の値上がりが続くようであれば、マンションそのものの資産価値を維持できなくなる物件が続出しても不思議はありません


「修繕費」にもっと意識を向けよう!

以前から私は賃貸マンションのオーナーとして、社会的にマンション修繕費の重要性が軽視されていると感じていました。

 

そこには「売れればOK」というマンションデベロッパーや仲介業者のビジネスの姿勢が大きな影響を与えていますが、より大局的な見方をすれば、「日本の社会にマンション修繕費に対するノウハウがまだ貯まっていない」と考えられるでしょう。

 

「地震と火事の国」である日本では、古来より木造を基本とした住宅文化が根付いてきました。

 

日本人の住宅に対する考え方には、伝統的に石造の家に住んできた欧州諸国のそれとは根本的な違いが見られますし、日本ではコンクリート造りの建物に人々が住むようになってからほんの数十年しか経っていないことを考えれば、マンションの資産価値を維持するためのノウハウが貯まっていないと考えるほうが自然と言えます。

 

そうであるならば、物件を売る側の不動産業者にしても消費者を騙そうという意識はなく、ただ単純にマンション維持費の重要性を認識していないだけなのかもしれません。

 

例えば、前述した機械式の駐車場にしても、ランニングコストが高いことがわかってきてからは設置する物件が減ったわけですが、これなどは「修繕費に対する一つのノウハウが貯まった結果」と見ることができると思います。

 

誤解を恐れずに言えば、現時点で30年後の大規模修繕費を正確に予測することはどんな専門家であれ不可能です。特に中古マンションの取引も活性化している現在では、その物件の築年数やこれまでの修繕作業の状況によっても大きく修繕費が変わっていくでしょう。

 

もしあなたがこれからマンションを購入しようとしているのであれば、マンションのランニングコスト、とりわけ大規模修繕という不確定要素があることは始めから認識するべきです。

 

残念ながら今すぐに解決策が見つかる問題ではありませんが、そこに不確定要素が潜んでいるかどうかが分かっているだけで、少なくとも後になって「こんなはずじゃなかった…」となることは防げるのではないでしょうか。


(2022/03/16 文責:佐野純一)

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