憧れの「注文住宅」のはずが…

「注文住宅」

 

ご自宅の建築、あるいは購入を考えている人にとっては非常に魅惑的な言葉かもしれません。

 

「自分が思い描いた理想の家に住む」

 

そんな夢を実現できる注文住宅は多くの人にとって憧れの的ともいえる存在です。

 

しかし、その一方で実際に注文住宅を建てた人の中には「せっかくの注文住宅だったのに失敗した」とか、「こんなはずじゃなかったのに…」という後悔の言葉を口にする人もいらっしゃいます。

 

“理想の住まい”を目指していた彼らに一体なにが起こったのでしょうか。

 

今回のコラムでは、住宅のご相談を多く受けるファイナンシャルプランナー(FP)が、「“お金の相談”の専門家」の立場から注文住宅を建てる際の注意点を考えてみたいと思います。


注文住宅は唯一無二の“自分の家”

まずは改めて考えてみましょう。「注文住宅」の魅力はいったいどんなところにあるのでしょうか。

 

やはり一番の特長は「自分が思った通りの家が建てられる」という点でしょう。

 

ほとんどの人にとって自宅の建築や購入は一生に一度あるかないかの一大イベント。「人生で一番高い買い物」と言われる自宅ですから、できることなら自分が理想とする住まいで生活したいと思うのは当然のことでしょう。

 

自分の想いが具現化する住宅であれば、その人のライフスタイルを反映することも可能です。

 

理想とする子育てを実現する間取りや、家族構成の変化によって自在にレイアウトを変えるような住まいにすることもできます。あるいは、自分の人生を豊かにするために趣味に没頭できる家にできるかもしれません。

 

もちろん建築基準法の制限はありますが、押し並べて画一的な建売住宅に比べると遥かに自由な設計が実現できるはずです。


注文住宅のデメリットとは?

一方のデメリットは、やはり予算面に集中するでしょう。

 

建主の理想を実現するには、どうしてもそれなりのお金がかかってしまいます

 

建材の素材によって価格が変わるのももちろんですが、仮に同程度のグレードの建材だとしても大量生産ができるパワービルダーなどに比べると、設計士と工務店という組み合わせは価格面で不利になります。

 

また、注文住宅には竣工までの期間が長くなることで全体のコストが膨らんでいくという側面もあります。

 

満足いくまで設計士との打ち合わせを重ねるにはやはり長い時間が必要ですし、土地の購入から始める場合には着工に至るまで土地分のローンが先行するため、この間の期中利息もかかります。

 

これらは建売住宅を購入する場合には発生しないお金ですから、注文住宅ならでは費用と言えるかもしれません。


「なに」と「なに」を比べているのか?

悩ましいのが、こうした注文住宅にまつわる予算の見極めが難しいことです。明確な比較対象がないという点が、この問題に拍車をかけています。

 

例えば、建売住宅同士の比較であれば、設備の仕様なども含め、建物そのものに大きな違いはありません。

 

価格の違いは駅からの距離などの立地条件に起因することが多く、ある意味では、立地条件の差がそのまま具体的な金額の差となっていると考えることができます。「駅から〇〇m遠い分、△△万円安い」といった具合です。

 

それに対し、注文住宅の場合は状況がまったく違います。

 

なにしろ建築プランによってまるで顔の違う家になったしまうわけですから、相違点を簡単に金額に換算して比較することはできません

 

さらに言えば、耐震性や断熱性、メンテナンス性能など「目には見えにくい部分」も多いので、その金額の妥当性を判断するのはとても難しいものです。

 

そのため、注文住宅を検討している時、「違うものを同一目線で比べてしまう」という事態が発生することがあります。

 

本来「比較」とはその他の条件が同じ場合のみ正確にできるものですが、注文住宅の場合はそれが簡単ではありません。結果として、自分が「なに」と「なに」を比べているかが曖昧になってしまうのです。


注文住宅は予算の管理が難しい?

注文住宅の「あるある」として、「あれもこれもと考えていたら予算が爆発した」というものがあります。

 

もちろん、設計士も意味もなく金額が上がるような提案をするわけではありません。予算が上昇するにはそれ相応の理由があるはずですが、それが「住み心地の良さ」という目にも見えないものであれば、金銭にも換算するのも難しいでしょう。

 

ただ、たとえそれが何十万円という金額差だとしても、これから数十年住み続ける自分の家だと思えば、一概に高いとも言い切れないかもしれません。その人の価値観によって考え方を大きく変わってくるでしょう。

 

設計士が「良いものを作りたい」という気持ちで提案してくることがわかれば、施主の方も前のめりになってしまいがちです。その結果、理想に近い家が建てられたけど、当初の予算から大きくオーバーしたというのはよく聞く話です。

 

そうした意味では、一般的な住戸の購入に比べても「注文住宅はより予算にシビアになるべき」と言えるかもしれません。始めから予算の上限を決めた上で、数ある選択肢の中から優先順位を決めていくという作業工程がとても重要になってきます。

 

それができれば、住宅ローンが生活を圧迫したり、せっかく建てた理想の自宅を手放すなどという最悪の事態は避けられるはずです。


住宅予算は「人生のお金」の一部分でしかない

住宅のご相談を受ける時にいつも申し上げていることですが、「住宅予算の考え方は人それぞれ」です。万人共通の正解があるわけではありません。

 

ご収入やご年齢はもちろんですが、資産状況や家族構成、そしてなによりも「家に対する想い」がその人の適正な住宅予算を決定づけるからです。

 

自宅にかかるお金は人生の中で大きなウエイトを占めますが、その一方で人生にかかるお金は他にもたくさんあります。住宅予算は人生における支出の“ほんの一部”でしかないのです。

 

あなたにとっての適正な住宅予算を知るためにも、「ライフプラン」という大きな枠を通じて“人生におけるお金の全体像”を考えるところからスタートしてみると良いでしょう。


(2020/09/16 文責:佐野純一)

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