家賃は本当に“無駄金”なのか?

「家賃は無駄金!」

 

そんな言葉を聞いたことはないでしょうか。

 

特に不動産業者の広告等に使われる宣伝文句で、その後に「だったら家賃と同じくらいのローンを組んだ方が良い」と続くのがお決まりのパターンです。

 

広告を見る側も「どうせ自分たちの儲けのためでしょ」とこの文言を冷静に受け止める反面、「いくら家賃を払っても、住まいが自分のものにならない」という理屈は、ある種の説得力をもって見込み客の購買欲をくすぐります。

 

私が住宅購入のご相談を受ける時も同じようなことをおっしゃる方は少なくなく、この「家賃は無駄金」という意見は一定の市民権を得ていると言ってもいいでしょう。

 

しかしながら、本当に「家賃が無駄金」であるならば、住宅に関する永遠のテーマである「賃貸か? 購入か?」の議論は成り立ちません。“賃貸”という住まいのカタチがなくならないのには、それなりの理由があるはずです。

 

今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、「家賃は無駄金」という説の真偽を検証します。


「家賃」には何が含まれている?

まずは、改めて賃貸と購入のそれぞれのコストを比較することにしましょう。わかりやすくするために、両者ともマンションのケースで考えてみます。

 

賃貸マンションを借りた場合、毎月発生するのは「賃料」と「共益費」です。例えばファミリー用の物件であれば、14万円の「賃料」と1万円の「共益費」、合わせて15万円がその住居の「家賃」となります。

 

それでは、この「家賃」の中には何が含まれているのでしょうか。言い換えればこれは、「家賃の内訳」がどうなっているかということになります。

 

「家賃なんてその部屋に住むための使用料に決まっているじゃないか」という声も聞こえてきそうですが、実は家賃とはそれだけのお金ではありません。家賃の中には結構な割合で「メンテナンス費用」が含まれているのです

 

一口に「メンテナンス費用」と言っても、その目的は様々です。

 

「専有部」と呼ばれる部屋の中の住宅設備に関するものもあれば、建物全体を健全に維持するために必要な費用もあります。前者はエアコンや給湯機等、後者はエレベーターや給水用の増圧ポンプなどが代表的な例です。

 

また、メンテナンス費だけでなく、共用部の「清掃費」や管理人がいる場合はその「人件費」なども家賃に含まれます。

 

大家の立場としては、12〜15年周期で行われる大規模修繕の費用も家賃収入の中から捻出しなければいけませんから、このやりくりには大いに頭を悩ませるところです。

 

このように家賃には「部屋の使用料」の他に「部屋や建物の維持費」が含まれているという点を認識する必要があるでしょう。


購入派が月々負担するもの

一方、分譲マンションを購入した場合はどうでしょうか。

 

ローンを組んでマンションを購入した場合、毎月発生するのは「ローン返済」「管理費」「修繕積立金」の3つです。

 

「ローン返済」はもちろん金融機関に借りたお金を返すものです。同じ借入額でも、「どのくらいの長さ」「どのくらいの金利」でローンを組むかで毎月の返済額は変わってきます。

 

「管理費」は建物全体で毎月発生する費用を所有者全員で負担するものです。

 

具体的には共用部の清掃費や管理人の人件費などがこれにあたります。タワーマンションなど、豪華な共有設備を売りにしたマンションもありますが、そういった物件では管理費が高くなるのは想像に難くありません。

 

「修繕積立金」は建物そのものの維持するためのお金です。

 

大規模修繕やエレベーターのメンテナンス等、毎月発生するというより「来るべき時に備えた貯金」という性質です。


その比較おかしくない?

一般的に「賃貸vs購入」という図式で月々の費用を比較する時、このように「賃料」「共益費」と「ローン返済額」「管理費」「修繕積立金」のそれぞれの合計を比べることになるでしょう。

 

あれ? でもちょっと待ってください。この比較は本当に同じもの同士を比べたフェアな比較と言えるでしょうか?

 

もうお分かりですね。実は、この比較は同じ内容のもの同士を比べているものではありません

 

マンション購入の方には、明らかに2つ要素が欠けているからです。その2つとはつまり「固定資産税」「専有部のメンテナンス費」になります。

 

都内のファミリー用マンションであれば、年間の固定資産税は12〜15万円程度でしょうか。

 

物件によっても異なりますが、同じような部屋を借りるとすれば大体1ヶ月分の賃料に相当します。賃貸には2年に一度の更新料が発生する場合も多いのですが、それでも本当に「賃貸vs購入」のコストを比較するのであれば、固定資産税も計算に入れないと不公平です。


住宅の維持費を数字化するのは難しい

厄介なのは、数字が見えづらい「専有部の維持費」です。

 

エアコンや給湯機の寿命は10〜15年と言われますし、バストイレ等の水まわりもいずれ交換が必要になります。例えば、築30年近い中古マンションを購入した場合、わずか数年で水まわりのリフォームに大きな出費を強いられる可能性もあるでしょう。

 

決して目に見えるようなスピードではありませんが、住居も必ず劣化します

 

ただ、この「住宅の劣化」にまつわるコストは明確な数字にするのは難しく、そのため「賃貸vs購入」のコスト比較には含まれないケースがほとんどです。

 

それでも、専有部のメンテナンス費用を除外して両者を比較するのはやはりアンフェアでしょう

 

言い方を変えれば、購入した住宅の修繕費をどのくらい見こんでおくかで判断は変わってくるはずです。建物の築年数はもちろんですが、建物の管理状態や、それこそ購入するのが「マンションか戸建てか」によってもランニングコストに差が出ます。


仲介手数料こそ“無駄金”?

「家賃を払うぐらいなら、ライフスタイルに合わせて短く住み替えしよう!」

 

こんな不動産業者の広告を目にすることもあります。果たしてこれは正解と言えるでしょうか。

 

言うまでもなく、不動産の売買には諸費用がかかります。売買時にはそれぞれ仲介手数料や登記料がかかりますし、購入時にはローン手数料も必要です。

 

これらの手数料は購入時と売却時を合わせると少なくとも物件の10%以上にはなるでしょう。4,000万円の物件であれば400万円以上という大きな金額です。

 

毎月払う家賃が「自分の資産にならない」という意味で無駄金だとするならば、こうした売買時の手数料こそ無駄金です。

 

こうした家賃を悪玉に仕立て上げる手法は、ただ仲介手数料も儲けたいだけの不動産業者の勝手な理屈に過ぎません。

 

売買時にかかる諸費用のことを考えれば、一つの家に長く住み続けることで、これらのコストの平準化を図った方がメリットが出やすいのは明らかなはずです。


持ち家が「資産」になるとは限らない!

中には「でも持ち家はいずれ自分の資産になるはず」と考えている人もいるでしょう。

 

確かに所有している不動産が長く資産価値を保てるのであれば、その可能性も大いにあります。

 

ただ、近年問題になっている「空き家問題」を考えると、持ち家が無条件に資産になるというのはやはり楽観的な考えだと言えます。特に管理状態の悪いマンションなどは「資産」どころか「負債」となるケースもこれからどんどん出てくるはずです。

 

住宅のことに限らず、人生において様々なことを比較検討するのはとても大切なことです。

 

どんな方法にも必ずメリットとデメリットがあり、それらをよく検討した上で“自分にとって”どの選択肢が最適かを判断する必要があるからです。

 

ただし、それには自分が今「何」と「何」を比べているかをしっかりと認識することが重要です。

 

表面的な数字だけを拾ってコストの比較をしても、それがフェアな比較でなければ意味がありません。

 

特に(不動産に限らず)全ての業者は自分の商品が有利に見えるようにミスリードしてくることがありますから、それを鵜呑みにすることなく、自分の目でしっかりと見極められるようにすることが肝心です。


(2019/10/16 文責:佐野純一)

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