「人生で一番高い買い物」と言われる住宅。
家を探している人にとって、理想の住宅に出会うまでの過程は様々な要素の「比較」の連続でもあります。エリアの比較、最寄り駅の比較、価格の比較、マンションと一戸建ての比較。中には「そもそも賃貸と購入でどちらが良いのか」と悩む人もいるでしょう。
そんな中でも、住宅購入のご相談でよく話題になるのが「新築or中古」の比較です。
新築派、中古派共に一定数が存在し、それぞれの主張を持っています。ある意味では、「新築or中古」は住宅購入の“永遠のテーマ”の一つと言えるのかもしれません。
そこで今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、不動産物件を売らないコンサルタントとしての立場からこのテーマを考えてみたいと思います。
まずは、新築派と中古派、それぞれの主張に耳を傾けてみることにしましょう。
どんなところに「新築」あるいは「中古」のメリットを感じているのでしょうか。
なるほどなるほど。どの意見にも一理あり、お互いに立場が違っても相手方を「間違いだ」と決め付けられるようなものではありません。
一歩踏み込んで考えてみると、一方のメリットがもう一方のデメリットになっている面もあり、一概に「新築or中古」の優劣を決めるのは難しそうです。
そんな中でやはりFPとして気になるのは“住宅予算”の部分です。
ここでは「“お金の相談”の専門家」らしく、コスト面にポイントを絞って両者を比較してみることにしたいと思います。
住宅コストに的を絞ってみると、新築派は「中古は仲介料がかかる」と言い、中古派は「新築はもともとの値段設定が高い」と主張しています。
一見すると、お互いに相手の方が余計なコストがかかると言っている矛盾した状態ですが、どちらが正しいのでしょうか。
新築派の攻撃のタネとなる「仲介手数料」は、中古物件の売買が行われる時に発生する、言わば「不動産業者の儲け分」です。不動産業者もプロとしての責任を持って自分の仕事をするのであれば、そこに利益が発生すること自体は悪いことではありません。
それでは新築の場合、「不動産業者の儲け分」はどうなっているのでしょうか。
新築マンション販売における不動産業者とは、売主であるデベロッパーのことを指します。彼らも仕事としてマンション販売を行なっている以上、利益がまったくないわけではありません。
彼らの利益は、新築として売り出されるマンションの販売価格に上乗せされています。簡単に言えば、中古物件売買の「不動産業者の儲け分」が仲介手数料という形で外側に出されているに対し、新築マンションではそれが販売価格の内側に収められているだけの違いです。
中古派(というより中古物件を扱う不動産業者)の主張では、デベロッパーとしての経費は人件費以外にも豪華なモデルルームの作成等多岐に渡るため、通常の仲介手数料常3%をはるかに上回るとのこと。大々的に行われる広告費のことも考えれば、その意見にも頷けるかもしれません。
しかし、だからと言って「新築は高い!」という中古派の意見を鵜呑みにするわけにもいきません。不動産に限らず、物の値段は需要と供給の関係で決まるからです。
確かに新築マンションの価格には物件本体以外のお金も含まれているでしょう。購入したばかりの物件をすぐに売りに出したら、「不動産業者の儲け分」だけ値が下がってしまう可能性は否定できません。
その一方で、そういった物件本体以外のお金も含めて「新築マンションの価格」が構成されているのも事実。このことはつまり、競合となる中古物件も「不動産業者の儲け分」を含めた新築マンションの価格と比較してその売値を決められていることを意味しています。
ここ数年、建設費の高騰で新築マンションの価格が上がっていることはよく知られているところですが、それにつられて比較対象となる中古マンションの価格も上がってきています。中古物件が建てられた当時は、今ほど建設費が高くなかったにも関わらずです。
すでに中古マンションをお持ちの方には嬉しい話ですが、新たに中古物件を購入しようとする場合は、これはマイナス材料です。その結果、「中古も思ったほど安くないね。だったらせっかくなので新築を…」と考える人も少なくないのです。
さあ、結局のところ新築と中古はどちらが良いのでしょうか。どちらにもメリットとデメリットがあり、どちらかの“完全勝利”というのはなかなか決められないかもしれません。
「コスト面で考える」というこのコラムのお題からいけば、実は住宅予算的に両者の間に大きな差はありません。
新築派が目の敵にしている仲介手数料も、言ってみれば新築マンションの場合は販売価格に含まれているだけですし、中古物件だからと言っても、新築の値段が上がればそれにつられて価格相場は上がってしまいます。
その点において、やはり最終的に優劣を決めるのはその人の価値観によるところも大きいはずです。
例えば、中古派の人が異口同音に口にするセリフに「新築に対するコダワリはない」というものがありますが、この“コダワリ”という言葉には特別な響きを感じます。そう、中古派の人から見れば「やっぱり新築の方がいい!」という気持ちは、理屈では割り切れないなにか感情的なものに思えるのでしょう。
誤解のないように申し上げておきますが、私は「“お金の相談”の専門家」ではあるものの、そうしたお金に換算できない「人それぞれの価値観」を軽視することは決してありません。
それどころか、むしろその人の価値観こそ家探しの時に一番大事にして欲しい要素だと思っています。
世の中には真新しい新築マンションに無常の幸せを感じる人もいるはずですし、反対に建物の現物を確認して初めて大きな安心感を得ることができる人もいるでしょう。そのどちらか一方だけが“正解”ということではないはずです。
しかしながら、「新築or中古」の結論が「好みの問題」ではあまりに面白みがありません。FPとして家を探している皆さんにぜひご提案したいことがあります。
それは、どちらの主張の人も「新築と中古の両方を実際に見て比べてほしい」ということです。これは、「住宅購入の選択肢を広げてほしい」と言い換えてもよいかもしれません。
ご紹介してきたように新築と中古にはそれぞれメリットとデメリットがあるというのももちろんですが、それ以上に「不動産は“同じものが二つとない商品”だから」というのがその理由です。
この世に同じ人が2人いないように、不動産物件にもそれぞれ個性があります。同じマンションの部屋でも階数が違えば日のあたり方や眺望が違うように、住宅探しにおいて「まったく同じもの」というのは存在しません。
少し大げさに言えば、人と人との出会いと同じく、物件との出会いも“巡り合わせ”です。この世の中に無数にある物件の中で、あなたが実際に出会い、惹かれ、そして購入可能な住宅はそう多くはありません。
だからこそ、自分は「新築派」とか「中古派」というふうに決めつけずに、物件を選ぶ視野を広く持ってほしいと思います。それがあなたにとっての“正しい住宅選び”にきっと繋がる道だからです。
実際に私のお客様に中には、始めは新築を探していたものの結果的に中古物件を購入した方もいますし、逆もまた然りです。物件探しの視野を広く持ったおかげでより理想に近い物件と巡り会えた典型的なケースと言えるでしょう。
デベロッパーは「新築マンションの良いところ」しか、反対に仲介を仕事にしている不動産業者は「中古物件の良いところ」しか口にしません。
本当に大事なのは、両方を客観的に比較して、どちらがあなたにとって“正しい住宅”なのかを考えること。
これが「物件を売らないコンサルタント」であり、「“お金の相談”の専門家」でもあるFPだからこそできる皆さんへの提言です。