「分散投資」の意味を正しく理解していますか?

あなたが資産運用を考える時、必ず出会うのが「分散」というキーワードです。「分散投資」という概念は、資産運用のリスクを少なくするために必須なものと言ってもいいでしょう。

 

ところが、実際にお客様と資産運用についての面談をしていると、この「分散」について正しく理解している人が意外と少ないことに驚かされます。

 

多くの方が漠然としたイメージを持っているだけか、あるいは言葉自体は聞いたことがあっても、偏った知識しか持ち合わせていなかったりします。

 

「分散」と一口にいっても、実は大きく分けて“四種類の分散”があることをご存知でしょうか?

 

今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、その“四種類の分散”を通じて、真の意味での「リスク分散」を解説してみたいと思います。


第一の分散は「商品ジャンルの分散」

まず第一の「分散」は、「商品ジャンルの分散」です。

 

資産運用と聞くと、条件反射的に「株」を思い浮かべる人も多いのですが、「株」はあくまでも数ある運用商品の一つに過ぎません。

 

株式の他にも債券や投資信託、先物取引やFX等が証券会社で取り扱われていますし、証券会社の外に目を向ければ、金や不動産で資産運用もできます。また、変額保険や貯蓄型の保険を使うのも手ですし、大きな括りで言えば、銀行の普通預金だって運用商品の一つです。

 

資産運用を考える時、まず最初にやるべきことは自分の資産を「どのくらいの割合」で「どのジャンルの商品」に振り分けるかということです。

 

この資産配分は「アセットアロケーション」と呼ばれ、分散投資の大元となるものです。

 

金融商品にはそれぞれメリットとデメリットがありますから、それらの特性を考慮した上で自分の資産配分を決めるこの作業は、運用の成否を決める肝と言っても過言ではありません。

 

ところが実際には、この「アセットアロケーション」を飛ばして資産運用を始めてしまうケースが非常に多く見受けられます。数ある金融商品を比較検討することなく、特定の分野だけで投資を始めてしまうのです。

 

その結果、自分の運用方針を見失い迷走する例が後を絶ちません。そもそも、そのジャンルの運用商品が自分に合っているのかどうかの検討がなされていない訳ですから、中には見当違いの商品に手を出したばっかりに大損をする人もいます。

 

まず、自分の運用目標を明確にし、その方針に従って「どの商品」「どれだけの金額」「どのくらいの期間」投入するか。

 

それが第一の分散、「アセットアロケーション」です。


第二の分散は「分野の分散」

アセットアロケーションが決まったら、次は「分野の分散」です。

 

例えば、アセットアロケーションで株式や投資信託などの証券に投入する金額の総額が決まったとします。今度はその総額の中から、「どのくらいの割合」「どの業種の証券」を買えば良いかを検討するわけです。

 

堅実なインフラ産業ばかりでは爆発的なのびは期待できませんし、かと言って急成長している産業ばかりでは一気に大崩れする可能性があります。

 

また、経済状況によって同じ動きをする業種ばかりですと状況によって大きく膨らむ可能性もありますが、反対に巨大な損失を出す危険性も否定できません

 

投資信託に目を移してもその中身は様々です。株式を中心にしたものや債券のみで編成したもの。あるいは、市場の動きと連動することを目的とする、いわゆるバランス型もあれば、よりアクティブに動くために特定の業種に的を絞ったものもあります。

 

投資信託を選ぶ時に証券会社の人気ランキングを参考にする方も多いですが、人気のあるファンドがあなたにとって必ずしも良いものとは限りません。しっかりと投資信託の中身を見て、自分に合った商品を選ぶように心掛けましょう。

 

アセットアロケーションで「商品ジャンルの分散」を決めた上で、今度はその配分の中でさらに「分野の分散」を図る

 

これが「ポートフォリオ」と言われる考え方で、手順としては分散投資の第二段階と言えます。


第三の分散は「国や地域の分散」

もう一つ、「ポートフォリオ」を作る時に考えなければいけないのが、第三の分散である「国や地域の分散」です。

 

同じ業種でも、国や地域が変わればその性質は変わってきます。例えば先ほど例に挙げたインフラ産業に関しても、先進国であれば「安定した部類の業種」に入りますが、反対に都市部の開発が盛んに行われている新興国であれば「大きな伸びが期待出来る業種」に入るでしょう。

 

このように投資先の国や地域を変えることで、先程の「分野の分散」からは違う角度で資産の分散を図ることができます。

 

業種に限らず、その国や地域の発展性、あるいは安定性に着目するような商品もあります。特に多く見られるのは、新興国にポイントを絞った投資信託です。

 

同じ投資信託でも、例えば先進国の公社債を中心としたものに比べれば、そうしたファンドは遥かにリスクが高い(=不確定要素が多い)商品と言えるはずです。さすが資産の全てをこのような商品につぎ込むのはオススメしませんが、しっかりとしたアセットアロケーションを決めた上で、リターンを狙いにいく部分として割り切れるのであれば、それは一つの選択肢となり得るでしょう。

 

また、所有する通貨を複数に分けることで、国や地域の分散と同じような効果が生まれます

 

運用として考えた時、どうしても現在の円金利は見劣りがするため、最近では外貨を絡めたタイプの運用商品が多く登場しています。外貨の高い金利を上手く活用することはとても効果的ですが、その反面、為替によっては思ったほどの成果が得られない場合もあるので注意が必要です。

 

この「国や地域の分散」は前述の「分野の分散」と並行して考えるべきもので、この二つの分散がリスクを抑えたポートフォリオの根っことなります。


第四の分散は意外と知られていない

最後に残った第四の分散は、「時間の分散」です。

 

資産運用を失敗する最大の要因は、なんといっても「商品を高掴みすること」です。株式でも投資信託でも金でも、はたまた不動産でもこの点は変わりません。

 

値が上がった状態で買ってしまった金融商品は、たとえ良い利回り(=インカムゲイン)が得られたとしても十分な運用効果が得られません。本体自体の値段が下がるために売却損(=キャピタルロス)が発生し、せっかくの利回りを打ち消してしまうからです。それどころか、インカムゲインが得られない商品であれば、価格が下がった分だけ損をしてしまいます。

 

それを防ぐためには買値が低いタイミングで購入すれば良いのは誰にでも分かることですが、残念ながら人間がそれを予測するのは非常に難しいことです。一度や二度なら当てることもできるかもしれませんが、恒常的に当て続けるのが不可能だということは何よりも“資産運用の歴史”が証明しています。

 

そこで、購入する時間をずらすことでこうした“高掴みの危険性”を回避する方法が考え出されています。

 

代表的なのは「ドルコスト平均法」と呼ばれるもので、これは「一定額を一定間隔で投資していく」という手法です。そうすることで金融商品が高い時も低い時も同じ金額を買い続けることになりますから、結果として購入金額が「平均化」し、高掴みをさけることもできる仕組みです。

 

ドルコスト平均法は、高度な知識も必要なく機械的に「時間の分散」が図れるということで、投資の世界ではかなりメジャーな方法です。


「時間の分散」は営業マンの敵?

実は、日本の資産運用において、この「時間の分散」はかなりないがしろにされているのが現状です。

 

理由はいくつかあるでしょうが、その最大の原因は金融商品販売会社が“手数料商売”で成り立っているという点にあるでしょう。

 

商品を販売してお金を得る“手数料商売”は、大きなお金を動かしてナンボの商売。資産を持っている人に対して少しずつ商品を購入してもらうよりも、一度に大きなお金を動かしたほうが当然効率の良い儲けになります。言い方は悪いですが、購入者に一回で有り金を全部出させたほうが自分たちの利益になるのです。

 

「ドルコスト平均法」のように少しずつ購入していたら儲けの単価も小さくなりますし、購入者がいつ買うのを止めるかもわかりません。わざわざ自分の稼ぎを危険に晒す「時間の分散」をお客様に説明する業者は残念ながら皆無に近いでしょう。

 

これは個々人の資質の話というより、“手数料商売”のビジネスとしての仕組み自体にに問題があると言えそうですが、いずれにしろ、こうした販売業者に惑わされず自分の資産を守るためには、自分で金融商品の正しい知識を蓄える必要があるのです。


「分散」ばかりが答じゃない

いかがでしょうか。資産運用における“四種類の分散”についてご説明しました。

 

「分散投資は資産運用の基本」と言われますが、より厳密に言えば「どんな経済状況になっても資産を守るための基本」と考えることができます。今ある資産を減らさないことを重要視するのであれば、確かに分散投資は有効な手段です。

 

しかし一方で、資産運用はなにも守るばかりが“正解”とは限りません

 

資産運用で人生の何かを大きく変えたいのであれば、分散を捨てて「敢えてリスクをおかして攻めにいく」という選択肢だってあるはずです。限りある運用資金の中で結果を残すには、守りの姿勢だけではできないこともあるからです。

 

資産運用の目的は人それぞれ。「分散投資」はその目的を叶える一つの方法論でしかありません

 

本当に大事なのは、あなたが「自分の運用目的」をハッキリとさせること。目的さえしっかり決まっていれば、そこにつながる道は自ずと見えてくるはずです。


(2016/08/31 文責:佐野純一)

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