証券運用の基礎知識を学ぼう!

「資産運用をしよう!」

 

そう思い立った時、あなたは何から調べ始めるでしょうか。

 

「資産運用」と聞いたときに多くの人がまず頭に思い浮かべるのが、株や投資信託を売買する、いわゆる「証券会社」だと思います。従来の店舗型だけでなく、最近ではネットだけで完結する証券会社が主流になってきましたので、証券運用に対する敷居もずいぶんと低くなったと言えるでしょう。

 

ところが、実際には「証券会社の自分の口座を作ってみたものの、色々な商品があってどれから始めたら良いかよく分からない」と感じる人も多くいます。節税効果が見込めるNISA口座の稼働率が7割程度しかない(2021年末時点)のは、そのことの象徴なのかもしれません。

 

そこで今回のコラムでは、証券運用の基本である「株式」「債券」「投資信託」の3つについて、基本的な知識とそのメリット・デメリットをご説明したいと思います。証券を売ってその販売手数料を稼ぐのではない「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、コンサルタントの立場から解説します。


株式は「経営権の一部」

証券と聞くと、真っ先に「株」と考える人も多いはず。そんな“証券の代表格”である「株」についての基本的なポイントを押さえてみましょう。

 

株式とは、簡単に言えば「その会社の経営権の一部」です。

 

自社の株を市場で売買することができる上場企業は、「株式」という名の経営権の一部を売ることで運転資金を調達することができます

 

もちろん、無闇に経営権を流出させてしまっては現行の経営が成り立たなくなってしまいますから、市場に出回る株式の数はコントロールされます。一般の投資家が株を買うことで「会社の経営権を掌握する」というのはあまり現実的ではありません。

 

では投資家はなんのために株式を買うのか?

 

それは「株価が上がることで利益が出るのを期待しているから」に他なりません。市場で売買されている株式は常に価格が変動しています。いくらで取引されるかは、その株の“人気”に左右されると言って良いでしょう。

 

例えば、会社の業績が良かったり画期的な新商品が発売されたりすれば、その会社の株価が上がるのを期待して株式を買い求める人が増えます。買いたい人が多くなるということは、そこに競争原理が働くということですから株価は上昇します。業績が悪かったり何か不祥事が発覚したような場合は逆の現象が起こり、大幅に値を下げることもあります。

 

株式とはあくまで「経営権の一部」ですから、その「会社の価値」が上がれば自ずと株価も上がりますし、逆もまた然りということなのです。


株式のメリット&デメリット


他の多くのものと同じように、株式のメリットとデメリットは表裏一体です。

 

メリットはもちろん株価が上昇した時の「売却益」でしょう。安く買った株式を高く売ることができれば差額はその人の儲けとなりますが、売却益を確定させるためには自分で株式を売るタイミングを見極めなければなりません。また、株式を購入するためにはそれなりにまとまった資金が必要となりますので、個人の力では多くの株に分散投資をするのは難しいでしょう。

 

一口に「株式」と言ってもその内容は様々ですから全ての会社の株も同じように語ることはできませんが、一般的には価格の上げ下げの幅が大きいのが株式の特徴と言えます。投資の世界に於いて「リスク」とは“不確実性(ブレ幅)”のことを指す言葉ですが、歴史を振り返ってみれば、わずか数年で何倍にも価格が跳ね上がったものもあれば、企業の経営破綻により紙クズ同然になったものもあります。

 

なお、株式を保有しているだけであればランニングコストはかかりません。さらに企業によっては配当金や株主優待を受けられることもあります。

《株式のメリット》

  • 売却益を得ることができる。
  • ランニングコストがかからない。
  • 配当金・株主優待を受けられることがある。

《株式のデメリット》

  • リスク(不確定要素・ブレ幅)が大きい。
  • 分散投資が難しい。
  • デフォルトリスクがある。
  • 自分で売却のタイミングを決めなければならない。

債券は「借金の借用書」

「証券」として株式と括られることが多い債券ですが、この両者はまったく違うものです。株式が「会社の経営権の一部」に対し、債券は言ってみれば「借金の借用書」になります。

 

債券の発行目的も株と同じく会社の資金調達ですが、債券の場合は企業だけでなく国や地方自治体が発行することもあります。一番馴染み深いのが国が発行する「国債」でしょう。

 

例えば、よく耳にする「10年国債」などは「国が10年後に利息をつけた金額で現金化することを約束した債券」という意味です。

 

この約束された日を「償還日」と呼びますが、出口の金額が決まっている分だけ株式に比べると価格の変動が穏やかなのが債券の特徴です。ただし債券も市場で売買されますので、購入した金額によって儲けの幅は変わってきます。


債券のメリット&デメリット


既に述べたように、償還される金額が決まっていますので、「リスク(不確定要素・ブレ幅)」が少ないのが債券の最大のメリットです。

 

その反面、利回りとしてはあまり期待できません。収益性と安全性はトレードオフの関係にあるからです。例外的に「ハイイールド債」と呼ばれる比較的利回りの高い債券もありますが、利回りが高いのにはそれなりのワケがありますので安易に飛びつくのは禁物です。

 

また、株式と同じようにランニングコストはかからない他、「信用リスク(デフォルトリスク)」も存在します。債券の発行元である企業や自治体が破綻してしまったら、償還が予定通りに行われない可能性があるのです。

《債券のメリット》

  • リスク(不確定要素・ブレ幅)が小さい。
  • ランニングコストがかからない。

《債券のデメリット》

  • 利回りが低い。
  • デフォルトリスクがある。

投資信託は「パッケージ商品」

株式が「会社の経営権の一部」、債券が「借金の借用書」ならば、投資信託とはどんなものでしょうか?

 

投資信託とは、こうした「株式や債券を組合わせたパッケージ商品」と考えればイメージがつかみやすいと思います。

 

投資信託の中身は様々な株式や債券です。投資信託を投資信託たらしめているのは、数ある株式や債券を「どのように組み合わせるのか」。この一点につきます。

 

現在日本で購入出来る投資信託は3,000種類とも5,000種類とも言われていますが、全ての投資信託でその内容は異なります。一般的には、商品毎になにかしらの“テーマ”が設定されており(例えば「日本株」や「先進国債券」など)、その“テーマ”に従いファンドマネージャーと呼ばれる運用の担当者が構成内容を決めることになります。

 

投資家は自分の代わりにファンドマネージャーが資産を増やしてくれることを期待して、その投資信託に「出資」をする。投資信託とはそうした仕組みの上に成り立っています。


投資信託のメリット&デメリット


投資信託のメリットとしては、少ない資金で分散投資ができる点が挙げられるでしょう。

 

分散投資にも様々なアプローチ方法がありますが、例えば多くの種類の株式や債券を買うためには大きな資金が必要になります。当然ながら個人でできる範囲が限られますが、投資信託であれば多くの投資家から資金を集めることでそれが可能になります。一人一人が出資する金額は少なくても、それを一つにすることでいわゆる「スケールメリット」を生かすことができるようになるからです。

 

また、投資信託はファンドマネージャーが運用するため自分では頻繁に売買をしなくて済むという利点もありますが、これは裏を返せば、その分ファンドマネージャーの人件費がかかるというデメリットにつながります。

 

投資信託は保有しているだけでそのような「信託報酬」と呼ばれる費用が常にかかっていますので、このランニングコストが運用効率を下げる結果になる可能性がある点には留意すべきでしょう。

《投資信託のメリット》

  • 少ない資金で分散投資ができる。
  • 運用の手間が省ける。

《投資信託のデメリット》

  • ランニングコストがかかる。
  • 運用効率が下がる可能性がある。

「証券」は運用の選択肢の一つに過ぎない!

いかがだったでしょうか。一見紛らわしく思える「株式」「債券」「投資信託」も、それぞれの特性を掴めればその違いがスッキリ理解できるはずです。

 

三者三様に特徴があり、どれか一つが特に秀でているというわけではありません。大事なのは、それぞれの違いを把握した上で自分の運用目的にあった商品を選択することです。

 

さらに言えば、証券は数ある「運用手段」の一つに過ぎません

 

私の得意分野である不動産投資も立派な「運用手段」ですし、保障と併せて考えることで効果があるのであれば、生命保険に「運用手段」の役を担わせても良いのです。その他にも外貨の高い金利を活用する手もあれば、金を購入して売却益を狙っても構いません。

 

「資産運用をしよう!」と思ったところで、「運用=証券」と決めつけるのは早計です。細部に入り込む前に、まずは全体のアセットアロケーションをよく考えることが重要となります

 

資産運用の仕方は人それぞれ。全員にとっての“正解”はありませんが、あなたにとっての“正解”はきっとあるはず。投資に関する基本的な知識を身につけて、ぜひ自分に合った運用方法を見つけてみてください。


(2023/12/27改訂 文責:佐野純一)

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