「生命保険で資産運用」って変じゃない?

「なぜ、この生命保険に加入したのでしょうか?」

 

「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)としてライフプランのご相談を受ける時、その人が加入している生命保険の内容を見せていただくことがあります。

 

そんな時、私は必ず上記のような質問をします。

 

なにをするにせよ、“目的”はとても大事ですが、なぜか生命保険の場合は「なんとなく…」とか「勧められて…」といった具合に、加入した目的がハッキリしないことが珍しくないからです。

 

中には「資産運用の代わりに」とお答えいただく場合も多いのですが、これはちょっと考えものです。

 

言うまでもなく、生命保険とは本来なんらかの保障のために加入するもの。「銀行に預けておくよりマシですよ」とは保険屋の常套句ですが、果たしてそれが本当に正解でしょうか。

 

今回のコラムでは、生命保険を売らないFPが、コンサルタントの立場から「投資方法として保険を使うべき人」とはどんな人なのかを解説します。


貯蓄型の代表格は「低解約型終身保険」

「お金を育てる」といった名目で、特にこれまで資産運用の経験のない人に提案される生命保険には、大きく二つの種類があります。

 

一つは「貯蓄型保険」。そして、もう一つが「個人年金保険」です。

 

応用編として証券運用の要素を取り入れた「変額保険」もありますが、「将来戻ってくる金額が確定している」という安心感からか、投資に心理的抵抗のある多くの人が運用目的でこの二つの保険に加入しています。

 

「貯蓄型保険」の代表格は終身保険でしょう。中でも「低解約型」と呼ばれるものが人気となっており、従来の学資保険の代わりに加入する人も多く見受けられます。

 

「低解約型」とは、簡単に言えば「保険料を払い込み終わるまでは戻ってくるお金(解約返戻金)が少ない」という意味です。

 

加入の時に決めた保険料の払い込み期間が終了する前に解約してしまうと、これまで払い込んだ保険料より少ない金額(一般的に60〜70%程度)しか戻ってきません。その分、保険料を全て払い終わってしまえば、これまで払った保険料の総額以上の解約返戻金を受け取れるという仕組みです。

 

確かに、現在の銀行預金の金利は限りなく0に近いですから、「銀行に預けておくよりマシ」かもしれません。

 

しかしながら、この「低解約型終身保険」に加入した場合、あなたの資産が大きく失うものがあることを忘れてはいけません。

 

あなたの資産が失うもの。それは「流動性」です


「低解約型」に加入すると失うもの

「流動性」とは、「収益性」「安全性」と共に“金融商品の三大特性”と呼ばれるものです。

 

平たく言えば「どれだけ現金にしやすいか」ということで、流動性が高ければ容易に現金にでき、反対に低ければ現金化が難しいということになります。

 

「低解約型終身保険」は、その流動性が低い金融商品の代表格の一つ。保険料を払い終わるまでは解約返戻金が大幅に少なくなってしまいますから、事実上そこまでの期間の流動性を失っていることになり、これは「もし急にまとまったお金が必要になったときに対応できない」ということを意味しています。

 

あくまで運用商品として「低解約型終身保険」を捉えるのであれば、「長期間の流動性を失う代わりに、普通預金よりも高い利回りを得る商品」と考えることができるでしょう。

 

逆に言えば、銀行の普通預金は流動性において“最強の金融商品”と位置付けることができます。「流動性を確保する代わりに、収益性を捨てた商品」という考え方ができるはずです。


「個人年金」は“保障のない保険”

もう一つの「個人年金」は、言わば“保障のない保険”です。

 

「コツコツと積み立てたお金が老後に大きくなって返ってくる」というのがその基本的な仕組みですが、保険料を払い終わるまでに亡くなった場合はそれまで払った分が遺族に戻ってくるだけで、なにかしらの“保障”があるわけではありません。

 

果たして「保障のない商品」が本当に生命保険なのかは疑問が残るところですが、その一方で保障にかかるコストがない分、一般的には貯蓄型保険よりも高い返戻率を誇ります。

 

個人年金も低解約型終身保険と同じく、長期間に渡って流動性が損なわれる商品です。目的が老後資金に限定されている分、低解約型終身保険より流動性を失う期間が長い場合も多いでしょう。

 

個人年金の入り方でよく目にする失敗は、「お得に走りすぎてピンチになる」というパターンです。


“お得”がピンチを招くワケ

「お得なのにピンチ?」と不思議に思う人もいるかもしれません。しかし、それにはちゃんと理由があります。

 

この場合の“お得”とは「払った保険料がより多くなって戻ってくる」ということ。そのためには、保険料を「多く」、かつ「短く」払い込まないといけません

 

例えば、独身の人が老後資金のために個人年金に加入するとします。

 

返戻率を上げるために、毎月の貯蓄目標額の全額を個人年金につぎ込むことにしました。50歳までに全ての保険料の払い込みが終わり、あとは60才から年金を受け取るのを待つばかりです。

 

ところが、その人は加入の5年後に結婚をし、子供にも恵まれました。お金の使い方も自然と独身時代とは変わってきます

 

そうなると個人年金の掛け金が問題となってくるケースが少なくありません。独身時代には問題のなかった保険料が、家計に大きな影を落とすことになるからです。

 

特に30代後半から50代前半は住宅費や教育費など、なにかとお金がかかる時期。個人年金で老後資金の準備は万端でも、最悪の場合、そこにたどり着くまでに家計が破綻してしまうことだって考えられるのです。

 

繰り返しになりますが、個人年金は「老後資金の形成」にスポットを当てた商品です。長い人生の中において他の支出とバランスを考えておかないと、その流動性のなさに足元をすくわれることになりかねません。


銀行預金と比較するだけではダメ!

マイナス金利が導入されて久しい昨今、生命保険の解約返戻金も以前に比べて大幅に低下しています。保険屋の「銀行に預けておくよりマシですよ」というセールストークも、説得力を失ってきているのが現状です。

 

そのため、保険会社はより予定利率の高い外貨保険の販売に力を入れています。実際のところ、以前に比べて各社外貨保険の売り上げも着実に伸びてきています。

 

しかし一方で、これが消費者センターに寄せられる苦情の増加を招いているのも事実。

 

外貨保険の仕組みが複雑なことを考えれば、これはある意味当然の結果なのかもしれません。また、生命保険で無理やり資産運用をしようとした歪みの現れと考えることもできるでしょう。

 

生命保険を「運用商品」として捉えるのであれば、銀行預金と比較検討するだけでは不十分です。世の中には銀行預金の他にも数多くの資産運用の選択肢が存在しているからです。

 

もちろん、いきなりFXや先物投資に挑む必要はありませんが(笑)、少なくとも株や投資信託などの身近な証券運用は視野にいれても良いでしょう。

 

NISAやiDeCoなど、最近では税制優遇を受けられる仕組みが多く登場しているのも、証券運用の「始めの一歩」を後押ししてくれる材料になるはずです。


投資方法として生命保険を使うべき人とは…

投資方法として生命保険を使うべき人。

 

その大前提は、「なんらかの保障が必要な人」に他なりません。

 

生命保険は「保障を売る金融商品」です。ですから、生命保険に加入する人はその保障に対して自らがコストを払っていることを明確に意識するべきです。

 

これはつまり、「たとえ支払った保険料以上の解約返戻金がある保険でも、保障のコストがなければもっと大きなお金が戻ってくる」ということを意味しています。

 

ですから、あなたが「なんらかの保障が必要」で、なおかつ「貯蓄の必要がある」のであれば、保障と貯蓄を兼ねた生命保険に加入を検討する価値があると言えます。

 

反対に言えば、保障の必要がない人が資産運用を生命保険で行う必然性はないわけですが、実際には単身者が“資産運用のために”死亡保障がついている保険に加入しているケースが多いことに驚かされます。

 

あるいは、なんらかの保障が必要な人であっても、「保障は保障、運用は運用」と分ける考え方も十分に成立します。その人の収支バランスや資産状況、年齢や家族構成によっても答えは当然変わってくるはずです。

 

金融商品を売りたい保険販売員の言うことを鵜呑みにするのではなく、まずは自分にあった資産運用の方法を考えることが大切です。


(2019/03/20 文責:佐野純一)

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