貯蓄型保険の時代は終わった?

去る2017年3月、生命保険業界は貯蓄型保険の駆け込み需要に湧きました。このコラムをお読みの方の中にも、もしかしたら「今、入った方がお得ですよ!」と保険販売員に勧められて、ついつい加入してしまった人もいるかもしれません。

 

あの騒動から一息ついた今、慌てて貯蓄型保険に加入した方から「ホントにお得だったのかなぁ」という相談が寄せられることがあります。

 

また、その反対に「結局その時に保険に入らなかったんだけど、今からだと手遅れかな?」という声も耳にします。

 

果たして2017年の3月までに貯蓄型の保険に加入した方は本当にお得だったのでしょうか? あるいは、これからの保険加入はどう考えれば良いのでしょうか?

 

「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、“生命保険を売らない”コンサルタントとしての立場で生命保険の「実際のところ」を解説します。


貯蓄型保険のメリットとデメリット

まずは「貯蓄型保険」の基本的な部分をおさらいしておきましょう。貯蓄型保険のメリットとデメリットとは一体どんなものでしょうか?

 

貯蓄型保険のメリット


貯蓄型保険のメリットは、何と言っても「いずれお金が返ってくる」という点にあります。

 

どんな保険設計にするかによっても変わってきますが、2017年3月までは長年保険料を払い続けることによって、20〜30年後にはお金が増えて戻ってくるような保険も珍しくはありませんでした。

 

支払った保険料以上の満期金や解約金が約束されている商品ですから、銀行口座の利子がほとんど期待できない近年では、「銀行に預けておくよりも増えますよ!」というのが保険販売員の常套句となっていたものです。

 

さらに、曲がりなりにも生命保険ですからなんらかの「保障」がついてきます。

 

貯蓄型保険の場合、保障の対象が「死亡」や「三代疾病(ガン・心筋梗塞・脳卒中)」であることが多く、人生においてそれらの保障が必要な期間は“保険会社にお金を預ける”ような感覚で「もしもの時」に備えることができました

 

幸いにも「もしもの時」が訪れなければ、タイミングを見て保険を解約すれば銀行に預けていた以上のお金が戻ってくる仕組みになっていましたから、貯蓄型保険はライフプランにおいて「貯蓄」と「保障」の二つの役割を担っていたと言うことができるでしょう。

貯蓄型保険のデメリット


そう書くと貯蓄型保険はいいことづくめのように聞こえるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。どんな選択肢にもメリットとデメリットは必ず存在するものです。

 

貯蓄型保険のデメリットは、ズバリ「資産の“流動性”を失うこと」です。

 

“流動性”とは運用の世界で「現金化のしやすさ」を指す言葉です。例を挙げれば、いつでも現金を引き出せる銀行の普通口座は「最も流動性の高い」と言える金融商品です。

 

貯蓄型保険の場合、途中で解約して現金化しようとすると、払った保険料を下回る金額しか返ってこないことが一般的です。特に「低解約返戻金型」と呼ばれる形の保険では、保険料を全て払い終わるまでに解約してしまうと戻ってくるお金(解約返戻金)が大幅に少なくなってしまいます。

 

その点において貯蓄型保険は「流動性が低い商品」と言うことができますが、それでは流動性が低いと何が困るのでしょうか?

 

例を挙げるとすれば、怪我などのトラブルで急に現金が必要となった時に、すぐ引き出せるお金が手元にないという事態が想定されます。あるいは、ライフプランの変化で現状の保険料が家計の重荷となったとしても、保険料を全て払い終わるまでは他のことを犠牲にしてでも払い続けなくてはなりません。

 

緊急時には「契約者貸付」と呼ばれるこれまで払ってきた保険料を担保にお金を借りる仕組みもありますが、当然このお金には利子がかかってきますので、それであれば「始めから貯金をしておけばよかった」ということになってしまうでしょう。

 

また、貯蓄型保険に加入するにあたってはインフレリスクにも注意が必要です。30年後に払った保険料以上のお金が戻ってくるとしても、30年後は今より物価が上がっている(インフレ)と考えたほうが自然です。「今の100万円」と「30年後の100万円」が同じ価値とは限りません。

 

インフレが起こって貨幣価値が下がった場合は、金額としては同等以上でも実質的に目減りしていることも十分に考えられるのです(これは“安全資産”と呼ばれる預金にも同じことが言えます)。

本当に「今入ったほうがお得」だったのか?

さて、貯蓄型保険のメリットとデメリットをおさらいしたところで、改めて考えてみたいと思います。

 

なぜ保険販売員は「貯蓄型保険は、今入った方がお得ですよ」と言ったのでしょうか?

 

それは保険の「予定利率の引き下げ」が行われるからです。

 

「予定利率」とはその保険の運用計画の元になるもので、マイナス金利の影響で保険会社が従来のような運用が維持できなくなったことから、各社で引き下げが行われました。

 

「予定利率が下がる」ということは「保険に加入している人に還元する金額」も下がるということですから、簡単に言ってしまえば「戻ってくるお金が少なくなる」ということになります。

 

「4月になってから加入すると戻ってくるお金が少なくなります。だから今のうちに保険に入りましょう!」

 

これが今年の3月に起こった貯蓄型保険の駆け込み需要の正体です。


保険は「お得」ではなく「必要性」で加入するもの

その意味では、3月までに貯蓄型保険に入ったこと自体は決して間違いではありません。しかしながら、「生命保険の本質」を考えた時、その“加入の仕方”が適切であったかどうかはまったく別の問題です。

 

既に触れたように、貯蓄型保険のメリットは「貯蓄と保障の二役を担えること」、そしてデメリットは「資産の流動性が損なわれること」と「インフレに弱いこと」

 

つまり、「貯蓄型保険に加入する」ということを次のように言い換えることができるでしょう。

 

「“流動性”と“インフレリスク”を犠牲にして“保障”を得る」

 

お金が増えた減ったという「損得」だけで考えてしまうと流動性の大切さになかなか気がつきにくいのですが、「ライフプラン」という長いスパンで物事を考える時は、流動性はとても重要になります。実際にご相談を受けた中でも、流動性を損なったがために十分な収入がありながら家計が回らなくなったというケースもありました。

 

また、インフレに備えるのであれば、ライフプランを通して自分の「余剰資金」を計算し、地道な資産運用を行うのが効果的です。保険料が高額になって生活の中に余剰資金が生まないようでは、こうした手段は使えなくなってしまいます。

 

貯蓄型保険に「保障」と「貯蓄」の二役を負わせるにしても、大前提として「本当に必要な保障とは何か」、そして「ライフプランで考えた無理のない貯蓄額はいくらか」のバランスを考える必要があるのです。


“流動性”を軽視するととんでもないことに!

もう少し「流動性」にスポットを当ててみましょう。

 

もし、あなたが「今しかありませんよ!」と煽られて、うっかり生命保険に入ってしまったのであれば、もしかしたら今後長い期間に渡って資産の“流動性”を失ってしまったかもしれません

 

貯蓄型保険の予定利率が引き下げられた原因であるマイナス金利を日銀が導入したのは昨年(2016年)のこと。極めて最近の出来事ですし、それまでもずっと低金利が続いていたことは皆さんのご記憶に新しいところです。

 

いくらマイナス金利よりはマシとは言え、そもそも低金利時代に貯蓄型保険に入ってもよいものなのでしょうか? このことはつまり、「加入した時の低金利が今後20〜30年も固定される」ということを意味しています。

 

しかし、金利とはその時代によって変わるものです。

 

例えば、今年加入した貯蓄型保険で今後30年間の流動性を失ったとします。今から30年前はどんな時代だったかご存知でしょうか。

 

そう、30年前の1980年代後半はまさにバブル経済の真っ只中。金利も今とは比べものにならないほど高いもので、マイナス金利の現状から考えたらそれこそ“天文学的数字”と言って良いくらいです。

 

そんな時代に売られた貯蓄型保険は当然のように予定利率もメチャクチャ高く、しかもその利率がずっと続く商品でした。これらの保険は後に“お宝保険”と呼ばれ、バブル崩壊以降に大手保険会社の収益を悪化させノックアウト寸前まで追い込んだのは保険業界では常識と言われています。

 

マイナス金利の現在と比べるのではなく、歴史的に見れば3月までの予定利率も決して高いわけではありません。バブル時と比べるのは極端だとしても、「ライフプランのバランスを崩してまでして無理やり入る金利水準」とはとても言い難いものです。


生命保険にも「損切り」がある?

もし、保険販売員のセールストークに乗って慌てて入ってしまった貯蓄型保険が、ライフプランとしてのバランスを欠いているものであれば、近い将来それが生活の重荷になる可能性は高いと考えられます。

 

「低解約返戻金型」のように、中途解約すると戻ってくるお金が大幅に減ってしまう場合は途中でやめることに躊躇してしまいがちですが(それこそ保険会社の狙いでもあるのですが)、逆の考え方をすれば、後になってやめるぐらになら早いうちに解約してしまったほうが「傷が浅い」と捉えることもできるはずです。証券運用でいうところの「損切り」という考え方です。

 

これまで「銀行に預けておくよりずっとお得ですよ」という常套句で貯蓄型保険は売られてきたわけですが、預金には生命保険にはない“流動性”という大きなメリットがあります。こうしたセールストークがその利点を明らかに無視したものであることはお分かりいただけるのではないでしょうか。

 

既に貯蓄型保険に現在加入している方も、これから貯蓄型保険に加入しようと思っている方も、流動性の大切さをよく認識した上で、もう一度自分に合った「貯蓄型保険の在り方」を検討してみてもいいのかもしれません。


(2017/07/26 文責:佐野純一)

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