「外貨建て保険」を勧められたんだけど…

「保険屋さんから“外貨建て保険”を勧められる」という話を最近よく耳にします。

 

外貨建ての保険自体は昔からあるもので、それを主戦力としている保険会社は今も昔も変わらず勧めてくるわけですが(笑)、近頃はそれ以外の多くの保険会社でも外貨建て保険をプッシュしてきているようです。

 

こうした変化はどういった背景を元に起こったものでしょうか。

 

そして外貨建て保険に加入するのであれば、どんな点に注意すれば良いのでしょうか

 

今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、保険のセールスマンでは口にできない“外貨建て保険のホントのところ”を解説します。


なぜ今「外貨建て保険」なのか?

なぜ今、生命保険各社は外貨建て保険の販売に力を注いでいるのでしょうか。

 

日本円の金利に期待できないから?

 

もちろんそれも間違いではありませんが、それはあくまでも“表向きの理由”に過ぎません。本当の理由はもっとシンプルです。

 

保険会社が外貨建て保険に力を入れる本当の理由、それは「従来に比べ貯蓄型保険が売れなくなったから」に他なりません。

 

なにしろ“損をするのが大嫌い”な日本の国民性。生命保険も最終的に掛けた保険料が戻ってくる、いわゆる「貯蓄型」が不動の売れ筋でした(その分貯蓄型保険は“流動性”を失うことになるのですが、それはまた別のお話です)。

 

ところが、2016年に導入されたマイナス金利政策でこの流れが大きく変わりました。

 

長期的に安定した利回りが見込めなくなった生命保険各社は、2017年の春に貯蓄型保険の予定利率を大幅に下げたのです。

 

予定利率が下がってしまうと、貯蓄型保険と言えど戻ってくるお金が以前よりも減ってしまいます。掛けてきた保険料が全額戻ってくるような保険設計が難しくなり、従来の「銀行に預けておくよりもお得ですよ!」というセールストークが使えなくなってしまいました

 

それであれば「今は保険に入るタイミングではないですね」と言えれば良いのですが、生命保険を販売して生活をしている人たちはそうもいきません。無理やりでも何か別の“売れる商品”を見つけないと干上がってしまうからです。

 

そのために彼らが白羽の矢を立てたのが「外貨建て保険」。

 

最近外貨建て保険を勧められることが多くなった背景には、こんな保険会社の事情があるのです。


外貨建て保険のメリット

そんな保険会社の事情はともかく、もちろん外貨建て保険にも良いところはあります。

 

外貨建て保険のメリット。それは「金利が高い」という一言に集約されるでしょう。

 

現在の日本においてマイナス金利政策がとられているのは先ほども触れた通りですが、それ以前も日本では「超低金利時代」と言える状態が続いていました。

 

一方で世界に目を向けてみると、新興国はもちろん、先進国の中でも日本よりも遥かに高い金利を維持している国はたくさんあります。

 

単年で見ればその金利差がもたらす影響はそれほど大きくありませんが、生命保険のように長いスパンで積み立てる金融商品となると話は変わってきます。「高い金利」で「長期間」運用することで、“複利運用”の強みを最大限活かすことができるからです。

 

「そうは言っても、利回りだったら変額保険の方が期待できるんじゃない?」とおっしゃる方、ごもっとも。

 

確かに変額保険の標準的な予想利回りであれば、多くの外貨建て保険の利回りを上回ることが可能です。

 

ただし、ここにも日本人の“とにかく損をしたくない”という特性が顔を出します。掛け金が増える可能性があると同時に減る可能性もある変額保険は、未だに敬遠される傾向が今の日本には根強くあるのです。

 

外貨建て保険であれば満期時の金額が確定しますから、その部分に安心感を覚える人は多いでしょう。言い換えれば、生命保険各社が「変額保険より外貨建て保険の方が売りやすい」と判断したからプッシュしてきていると考えられます。


外貨建て保険のココに注意しよう!

しかしながら、この「確定する金額」はあくまで“外貨としての確定金額”ということを忘れてはいけません。外貨のままで使うのであれば問題ありませんが、日本円に戻すことを前提にしているのであれば、ここにまた違うファクターが入ってきます。

 

そう、「為替」の影響です。

 

外貨建て保険の満期金を円に戻す時に「円安」であれば、それはチャンスです。確定していた外貨の利回りに加えて、為替による差益を得ることができます

 

逆に「円高」に振れた場合は注意しなくてはなりません。外貨の利回りで得た利益が為替による損で相殺されてしまうからです。

 

あまりに急激に円高が進んだ場合は、円としての満期金がこれまで払った保険料を下回ってしまう(この状態を「払い負け」と呼びます)可能性もあるでしょう。

 

この点がまさに「外貨建て保険の弱点」とも言えるところで、円に戻すタイミングでの為替の影響を大きく受ける宿命を背負っています。

 

特に「このタイミングで円に戻さないといけない」という状況だとやっかいです。為替市場の動向を見るだけの時間的な余裕がないので、もしその時が円高だとしても泣く泣く換金するしか選択肢がなくなってしまいます。それでは「外貨建て保険」のメリットを享受できません。

 

外貨の高い利回りに目が眩んで、円に戻すタイミングの余裕を失うような保険設計はくれぐれも避けるべきです。


為替の影響は保険料にも…

為替の影響は、なにも満期金を受け取る時だけではありません。

 

「外貨建て保険」の中には毎月払う保険料も外貨建てになっているものが多く、この場合は円としての毎月の保険料が決定しているわけではないのです。

 

当然、円高になればなるほど毎月の保険料は安く、反対に円安に振れれば高くなっていくわけですが、このことが家計に与える影響は甚大です。

 

例えば、民主党政権時代の2011年には「1米ドル=80円」でした。この時に毎月100米ドルの保険料で外貨建て保険に入った人の負担は、月に8,000円だったはずです。

 

ところが政権交代後急速に円安が進み、2015年には「1米ドル=120円」を記録しています。そうなると保険料の支払いは、毎月12,000円になってしまいます。

 

わずか4年間で毎月の保険料の負担が実に1.5倍に膨れ上がった計算になります。毎月の保険料が100米ドルであれば年間で5万円近く負担が増えるわけですから、これは家計において由々しき事態です。

 

このように、毎月の保険料が外貨建てのケースでは、最後まで支払う保険料の“円としての総額”が確定しません。

 

保険料を払っている期間はずっと円安で、満期金を戻すタイミングになって急激な円高が進むというのが最悪のシナリオで、この場合は「貯金のほうがよっぽど良かった…」という結果になってもおかしくはないのです。


大事なのは「あなたにとってのメリット」

最近では単純に外貨で積み立てるのではなく、「外貨+変額」というパターンの保険も多く見受けられます。

 

この場合は「運用のリスク(ブレ幅)」と「為替のリスク(ブレ幅)」が二重に発生することになりますので、より注意が必要です。大きく増える可能性がある一方で、反対のことが起こる可能性も考えられるからです。

 

これらの保険商品は、なにも最近開発されたものばかりではありません。冒頭で触れた通り、今生命保険のセールスマンから「外貨建て保険」を勧められるのは、あくまでも生命保険の売り手の都合。より“売れやすい商品”をアピールしてきただけに過ぎないのです。

 

今回ご説明してきた通り、外貨建て保険はいくつかの注意点がある“クセの強い商品”と言えます。加入するのであれば、売り手の理屈で考えるのではなく、あなたにとってメリットがあるかどうかの見極めが大事です。


(2018/01/24 文責:佐野純一)

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